ART|クリスチャン・マークレー&巻上公一 ショートインタビュー
LOUNGE / ART
2015年4月9日

ART|クリスチャン・マークレー&巻上公一 ショートインタビュー

ART|現代音楽家とボイスパフォーマーの邂逅

クリスチャン・マークレー&巻上公一 ショートインタビュー(1)

昨年、東京・銀座にある「ギャラリー小柳」にて開催されたクリスチャン・マークレー氏の個展「Scrolls」。ヨコハマトリエンナーレ2011関連イベント「Manga Scroll」がそれに先駆けておこなわれたさい、来日を果たしたマークレー氏と、当日のパフォーマーである巻上公一氏にショートインタビューをおこなった。

Text by OPENERSPhoto by TANAKA YuichiroCourtesy of Organizing Committee for Yokohama Triennale

ヨコハマトリエンナーレ2011で話題を集めた作品

「OUR MAGIC HOUR―世界はどこまで知ることができるか?」というタイトルのもと昨年8月から11月にわたって開催された、国際的な現代アートの祭典「ヨコハマトリエンナーレ2011」。「横浜美術館」と「日本郵船海岸通倉庫(BankART Studio NYK)」をおもな会場に据えた今回は、77組/79名のアーティストによる約300件以上もの多種多様な作品が出展された。

そのなかでもとりわけ話題を集めていたのが、昨年の第54回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展において、金獅子賞 最優秀作家賞を獲得したアメリカ人アーティスト、クリスチャン・マークレー氏による《The Clock》である。

同作品は、数千という膨大な数の映画作品から時刻を示すシーンだけをひたすら抽出して、現実の24時間と対応するように編集し、あたらしいリニアな時間を創出するという、呆気にとられるほどの作業量が一瞬で理解できる途方もない大作だ。



オノマトペによって構成されたコラージュ

マークレー氏の創作において重要なファクターだといえるコラージュという手法は、氏の真骨頂ともいえるサウンドパフォーマンスから端を発する。ターンテーブルを楽器として使用する現代音楽家としての側面ももっているマークレー氏。レコードにスコッチテープを雑に貼りつけたり、ペインティングをほどこすことで、音が鳴る部分と鳴らない部分をつくり出し、あらたなリズムを創出する。それをもとに複数台のターンテーブルで即興的なミックスをおこなうパフォーマンスを1979年から現在までおこなっている。

1997年には、その集大成ともいえる2枚のCD『Records 1981-1989』『More Encores』をリリースしているマークレー氏のその異色な音楽活動は、ギタリスト、作曲家として有名な大友良英氏をはじめ、数多くのアーティストに影響を与えている。

© Christian Marclay / Courtesy of Gallery Koyanagi / Image courtesy of Graphicstudio/USF, Tampa, Florida, USA

© Christian Marclay / Courtesy of Gallery Koyanagi / Image courtesy of Graphicstudio/USF, Tampa, Florida, USA

ヨコハマトリエンナーレ2011での出展のほかに、マークレー氏は東京・銀座にある「ギャラリー小柳」にて個展「Scrolls」を開催した。この個展でメインとして展示されていた《Manga Scroll》は、近年マークレー氏が関心をよせているというマンガで擬音語、擬声語を表現するために使われるオノマトペによって構成されたコラージュが、20メートルもの長さにまでおよぶ巻物として転生を遂げた作品である。マンガのなかのごく一部であったオノマトペは、流れるような曲線でリズミカルに配置され、スコア(=総譜)としてあらたな機能を与えられているという。

ART|現代音楽家とボイスパフォーマーの邂逅

クリスチャン・マークレー&巻上公一 ショートインタビュー(2)

蛇のように描かれている曲線を、どう表現するか

ヨコハマトリエンナーレ2011の閉幕直前、《Manga Scroll》を用いたパフォーマンスイベントがおこなわれた。パフォーマーに選ばれたのは、バンド「ヒカシュー」のヴォーカリスト、ヴォイスパフォーマーとして国際的に活動している巻上公一氏だ。

わずかな時間ではあったものの、巻上、マークレー両氏にパフォーマンス後、話を聞くことができた。まず巻上氏に、一般的な五線譜による楽譜ではなく、グラフィックのスコアにたいしてパフォーマンスするという、常人では少々理解しがたいパフォーマーとしての姿勢について聞いた。

「決して、初見で衝動的にパフォーマンスをおこなっているわけではありません。五線譜のような明確なルールがないので、事前にコピーをとって、自宅できちんと練習をしています。まずは、そのルールを自分自身で作るところからはじまるんです。たとえば、ひとによっては最初に配置されているものをC(=ド)にしてしまうとか、そういった具合ですね。まるで蛇のように描かれているこの曲線を、どう表現するかがとてもむずかしかったです」

声だけで構成された当日の巻上氏によるパフォーマンスは、抑揚と明快なリズムが介在しており、複雑な平面作品に息吹をあたえる精気を感じさせるものだった。たんなる即興とはちがい、綿密な作品との対話があったからこそ成り立っているのである。それも氏の経験値の高さによるものだと思われるが、実際にはやり慣れているものなのだろうか?

「クルト・シュヴィタースの作品、ジョン・ケージの『ARIA』など、これまで数多くやってきました。『ARIA』も《Manga Scroll》のように図形で構成されている楽譜が元なわけですが、ケージ自身によって描かれている線はひとつもありません。スコアの作り手がもつ独自の解釈によって選択され、引用された何かのコラージュであることがカギなんです。なので、それとおなじように、こちらもこちらなりの解釈でルールを作る。そのことで、楽譜とつうじあうことができるわけです」



汗が飛び散るほど体を張った巻上氏のパフォーマンス

では、この《Manga Scroll》で使用されているオノマトペは、どういった目的でチョイスされたのだろうか? つづいてマークレー氏に聞いた。

「オノマトペの形態、表現は国々、言語によってことなります。今回《Manga Scroll》で使用したほとんどが日本のマンガからの引用ですが、日本語から英語に翻訳されたときにも変化が見られます。そういった変化がもつ不思議さ、マンガがもつユーモアやファンタジー、サイズや形などによって豊かに表現されるオノマトペ本来のおもしろさ、それらを紡いでいったのがこの作品です。

普段の生活で読まれるマンガからの引用ですので、あくまでポピュラーであることが重要だと感じています。現代音楽は非常にシリアスなものが多いですが、それとは少々ことなった志向であることが特徴ともいえますね。

とにかく、汗が飛び散るほど体を張った巻上さんのパフォーマンスは非常にすばらしかったです。私は作り手ですので、この作品のすべてを当然理解していますが、その理解を超えるほどエモーショナルなパフォーマンスだったと感じています」

Christian Marclay|クリスチャン・マークレー
美術家/現代音楽家。1955年アメリカ・カリフォルニア州生まれ。1979年からパフォーマンスに使っていたターンテーブルを演奏用の楽器として使いはじめる。その後、ターンテーブルを用いた即興演奏のパイオニアとして、高い評価を得るようになる。レコードやCDの代表作に『Records Without a Cover』(1985年)や『More Encores:Christian Marclay Plays With the Records Of…』(1989年)などがある。
クリスチャン・マークレー氏の個展「Scrolls」のカタログ『Christian Marclay:Scrolls』が発売されます。
発行/問い合わせ|ギャラリー小柳 Tel.03-3561-1896

巻上公一|MAKIGAMI Koichi
音楽家/ヴォイスパフォーマー。1956年静岡県熱海市生まれ。日本のニューウェイブバンド「ヒカシュー」のリーダー。作詞作曲からヴォイスパフォーマンス、テルミンや口琴を使ったソロワークやコラボレーションまで幅広く活動。類いまれな歌のセンスをもち、つねに声の可能性を追求し、歌謡曲から歌ともつかぬ歌まで縦横無尽なパフォーマンスをおこなっている。最新作にソロプロジェクトCD『TOKYO TAIGA』(2010年)がある。

           
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