戸田恵子|ミュージカル「サンデー・イン・ザ・パーク・ジョージ」を終えて
Lounge
2015年5月27日

戸田恵子|ミュージカル「サンデー・イン・ザ・パーク・ジョージ」を終えて

ミュージカル「サンデー・イン・ザ・パーク・ジョージ」を終えて――
今年も「キンダー・フィルム・フェスティバル」があって――
声優口演ライブがあって――

久々のブロードウェイミュージカル「サンデー・イン・ザ・パーク・ジョージ」の公演が無事に終わってホッとしました。無事にというのは「身体」がという意味です(笑)。

まとめ=K-co Toda

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「身体」は無事に乗り切ったけれど、無事ではなかったのは私の「精神」

「サンデー・イン・ザ・パーク・ジョージ」の今回の舞台は斜めにつくられており、八百屋さんの陳列のようだということから“八百屋舞台”と呼ばれています。この構造は観客席からはとても観やすいものでありますが、演者にとっては足腰に非常に負担がかかるものでして……。とくに女性はヒールを履いての動きだったりするので身体にいいことはまったく! ひとつもありません! 坂道の途中でお芝居をしている感じでしたね(笑)。

ヒールを履いて舞台奥からゆっくりゆっくり下りてくるのはけっこう大変なのです。太ももで踏ん張ってストッパーをかける負担がとても大きかったです。トトトトッと早く下りたほうが楽ちん。また、斜面上に横向きで立ちつづける辛さ。両足の位置がおなじ高さにないのですから腰が悲鳴を上げるわけです。そしてあとはとにかく斜面を縦横無尽に動き回る、あの重い衣装で――。日替わりで逆向きに芝居したいと出演者同士で笑っていながらも、皆それぞれ身体のメンテナンスに必死でした。

足腰が弱い私はまず稽古開始から本番の千秋楽までをどう乗り切るかメンテナンスプランを考えました。
もちろん、稽古場から八百屋舞台との闘いになるわけですから相当な長丁場になるわけだ――

毎日のストレッチは当然のごとく、ずっと筋肉補強パンツをはいておりました。疲れているときはテーピングも。初日が開いてからは緊張感が増してさらに張りが強くなるので、両方でガードを。2ステージの夜は必ずマッサージにも行きました。おかけさまで、ほかのみなさんが不調を訴えるなか、私自身、「身体」は驚くほど無事に乗り切ったのでした。残念ながら無事ではなかったのは私の「精神」でした。思いがけずたくさんの劇評で大絶賛をいただいたものの、私はとうとう千秋楽まで作曲者ソンドハイムの楽曲にヤラレていたということです。

大変難解なメロディーで名高い作者でありまして、しかしながらその難解複雑メロディーは初日が開いてからは「なんて! 難しい音の成り立ちでしょう!」とむしろ逆手に楽しむことができるようになっていきました。わざとその難しい音の成り立ちをそのままお客さまにぶつけてみよう、くらいな気持ちに。

「戸田恵子は初日に間に合うんだろうか?」

ところが難解なのはメロディーだけではなくリズムにもあったのです。変拍子。4×3なのか? 3×4なのか? みたいな……。そして変拍子のかけあい。ここは喋る。ここは歌う。ここは何小節以内で喋り切る! とか。とにかく数えてないと音のすべてを見失う。1234、1234、12、12345みたいな(笑)。

最後まで厄介なのはコレでした。右手でマル書いて左手で三角あるいは星型とか書いている感じで、みなさまの前では涙を流して感情たっぷりに歌いながらも頭のなかではキッチリ数えていなければならなかったのです。

このような状況が歌のそこかしこにあって、たとえ楽しい歌であったとしてもちっとも頭が休まらない。ついに千秋楽まで……。頭で数えないで歌えるようになるにはあとどれくらいの時間が必要だったのだろうか……? とにかく私のスキルでは間に合わなかった。

実際、千秋楽でわかったのですが、キャストの打ち上げ会で、ある先輩の共演者の方がリハーサル中「戸田恵子は初日に間に合うんだろうか?」とマジで心配したそうです。きっとみなさんそう思っていたにちがいない。なにより自分自身がそれを一番感じていました。こんな難しい作品にほかのみなさんより遅れてリハーサルに入って、なおかつ時間が足りない! もうどこからも捻出されない! やれるのか? やれるのか? イライラは募るばかりでしたが、誰よりも早く稽古場に行き、誰よりも遅くまで稽古場に居残り、家でも珍しく譜面を出して寝る前まで格闘しました。スキルのない自分を恨んだり責めたりの日々がつづきました。

ところが打ち上げでも聞かれたのですが、あるとき突然スイッチが入ったんですね。「あれはどうしたの? なにがあったの?」って。自分でもよくわかりません(笑)。それまでの努力が多少実ったのでしょうか? でも私にしてみればあそこまでやってたったこれだけか? くらいのスイッチですよ。自分に期待し過ぎていたのかもしれませんが、理想には程遠いスイッチONでした。

あんなにあんなに苦しんだのに、作品は大好きになりました(笑)

あの楽曲がすべて私の筋肉のなかに染み込んで、頭は使わず歌えることが私の目標であり理想でした。だけど終わってしまいました……It’s over――。心から歌えたのは1幕ラストと2幕ラストの「Sunday」だけ。あとはもう完敗! もちろん慣れていったところはたくさんあるんですよ。でも、こんなに神経を張って歌ったのは生まれてはじめてでした。千秋楽直後はなんだか正直空しさばかりが残る感じでしたが、しばらく経った現在は、与えられた時間のなかでやるだけのことをやった自分を少し誉めてあげようと思っています。

現存するミュージカルのなかでもっとも難しいといわれる「サンデー・イン・ザ・パーク・ウィズ・ジョージ」という作品にチャレンジできただけでも幸せだと。そしていつかこの苦しんだことがなんらかの成果として出ることを心から願っています。ファンのみなさまのたくさんの御支援、ありがとうございました。あんなにあんなに苦しんだのに、作品は大好きになりました(笑)。

時代物の衣装も素敵でしたし、1幕ではジョージとドットの確執を描く恋愛模様が思いのほか、ドラマとしても浮き彫りにされた感じでした。少し甘美なシーンもあったりして、最近の私の舞台では珍しかったかもです(笑)。

2幕のマリーおばあちゃんを演ずる時間は自分自身もあたたかい気持ちになりとても幸せな時間でした。ママを想って歌ったりするシーンでは、絶対私は自分の母を思い出してボロボロになると思っていたのに、不思議と母を思い出すことは一度もありませんでした。

それほどあの歌にも余裕がなかったか、あるいは役に没頭できたか? おそらく前者ですね。車いすに座って手の指を小さくいつもトントンしていたのはお気づきでしたでしょうか? あれは晩年の我が母の癖を真似てみました。余談ですがマイケル・ジャクソンの夢はあの時期二度ほど見ました。がしかし我が母の夢はまったく見ず! です……。母は私のなかに溶け込んでいるのですかね……?

なんといっても2幕ラストのジョージと過去のドットが出会うシーンは毎回私自身が鳥肌が立つほど大好きなシーンでした。ああ、ジョージは幸せだな~と思いました。こんなことホントにあったらいいのにな~、会いたいひとに会えたらな~、とか思うと胸が熱くなり涙がいっぱい出ました。ジョージと石丸幹二さんがダブッて、ああ辛い稽古からよくここまで頑張っていらしたな~(自分のことは棚に上げて)って称えたい気持ちでいっぱいになり、そう思うともっともっと涙が出てしまうのでした。

キンダー・フィルム・フェスティバルと声優口演ライブ。ともに映画にかんするお仕事でした

キンダー・フィルム・フェスティバルは、今年も実行委員として参加させていただき『ネズミの嫁さがし』(ロシア)、『はだかのおしりのちびカラス』(オランダ)、『テディとアニー』(イギリス)の3作品をライブで吹き替えいたしました。まだまだみなさまに知っていただく機会に恵まれず残念。来年はもっと頑張りたいです。とにかく子どもたちにも大人にも観てもらいたい世界中から集まったハートウォーミングなムービーばかりです。みなさんお見知りおきを。

声優口演は今年も大先輩・羽佐間道夫さんにお声をかけていただいて、私と山寺宏一くんでお手伝いさせていただきました。サントリーホールという素晴らしい会場にて「チャップリン」や「バスターキートン」などの無声映画に声を当てて甦らせようという企画です。とても大昔の映画とは思えないスタントなしのアクション、カット割り、etc。

そしてフィルムも綺麗なんです。こういったイベントの趣向は大人の粋な楽しみですね。いまどきのアドリブを交えながらの口演はじつに楽しいものです。また機会があったらぜひ参加したいです。
羽佐間さんは日本の無声映画にもトライしたいとおっしゃっていましたよ。楽しみですね。

新番組情報
WOWOWドラマ

『ママは昔パパだった』8月23日(日)22:00~スタート
全6回 毎週日曜日22:00~

舞台情報
岸野組公演

『か・ら・く・り』 原作 ロベール・トマ『罠』より
10月16日(金)~25日(日) 下北沢本多劇場
【予約・問い合わせ】
劇団岸野組
Tel. 048-442-2187
http://www.h3.dion.ne.jp/~kishinog

戸田恵子

           
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