三原康裕│第4回 ヘアスタイリスト 松浦美穂さんと語る(3・最終回)
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2015年5月11日

三原康裕│第4回 ヘアスタイリスト 松浦美穂さんと語る(3・最終回)

美しくなるうえでの最高の条件とは

第4回 ヘアスタイリスト 松浦美穂さんと語る(3・最終回)

ヘアサロン「ツイギー」のオーナー兼ヘアスタイリストであり、現在オーガニック系プロダクトの開発に取り組んでいる松浦美穂さんとの対談も、いよいよ最終回。
松浦さんが開発中のオーガニック系シャンプーについて深く知るにつれ、三原さんはシャンプーに対する考えを改めることに。そして美容業界の功罪をゼロにしたいと願う、松浦さんの先進的な思想に共感を抱いていく。

写真=Jamandfixまとめ=竹石安宏(シティライツ)

オーガニックとケミカルのちがいを知る

三原康裕 そもそもオーガニックなシャンプーとは、どのようにつくられるのでしょうか? 食べ物などでは農薬を使わないなど、規定があると思うんですが、シャンプーにもあるんですか?

松浦美穂 基本的には食べ物とおなじなんですが、現在はオーガニックが流行になっていて、一般的に売られているものがどこまでのものなのかは不透明です。開発にあたってさまざまなサンプルを収集して専門機関に分析を依頼したのですが、「これがオーガニックとして売られているのか」と、疑問に思うものが数多くあったのも事実ですね。

三原 オーガニックなシャンプーとそうでないものは、見分けはつくのでしょうか?

松浦 見た目ではまったくわかりませんが、一般のひとでも使用感でわかると思います。オーガニックの野菜は味が素朴で、装飾されたような感じはしませんよね。それとおなじで、ケミカルなシャンプーは泡立ちやすべりがとてもよかったり、香りが強くて華やかですが、オーガニック系はそれほどよくありません。でも、「不自然なほどのすべりや香りはなくていい」など、あくまで使用感の感想はひとそれぞれですが、オーガニックシャンプーは “良い”という評価がほとんどです。

三原 そうなんですか。おそらく大半のひとがケミカルなシャンプーしか使ったことがないからこそ、そのちがいをはっきりと実感できるんですね。

松浦 そうですね。ちがいはすぐにわかると思いますよ。とくに新しく生えてくる毛が健康になるんです。

三原 僕はとても白髪が多いんですが、それにも効いたりしますかね?(笑)

松浦美穂さん

松浦 白髪の防止にもなると思いますよ。精神的な面など白髪の原因はさまざまですが、頭皮の酸化によって毛根が弱り、白髪になってしまうこともあります。

オーガニックは精神的にも安心できるし、頭皮にももちろんいいですからね。

三原 ぜひ僕も使ってみたいです。

では、今後世界的にオーガニック系のシャンプーは広まっていくのでしょうか?

松浦 将来的には、オーガニック系は広まっていくと思いますね。なぜなら人間には、「健康になりたい」という心理が必ずあるからです。

現在も金銭的な面で買えないけど、安いなら買いたいというひとがほとんどだと思いますから。でも、広めていくためにはまだ問題が多いことも確かです。そのひとつが成分表示なのですが、現在の表示では一般のひとはオーガニックとケミカルを見分けることができません。おなじ成分でも、化学合成と天然由来ではちがうのですが、表示がおなじになってしまうんです。それにかこつけて、防腐剤などを使ったものがオーガニックとして売られているのが現状です。

フランスには「エコサード」という化粧品のオーガニック認定があるのですが、日本にはなく、しかもその認定を受けたものさえも疑わしいくらいですからね。

三原 いま防腐剤とおっしゃいましたが、オーガニックのシャンプーは腐るのですか?

松浦 本当のオーガニックはちゃんと腐りますよ(笑)。現在私が開発しているシャンプーは、消費期限が6~8ヵ月になっています。消費期限のあるシャンプーなどこれまでの生活習慣にはなかったので、どれだれ受け入れてもらえるのか不安な面はありますけどね。

でも、防腐剤、界面活性剤、合成香料を使わないというのが、本物のオーガニックシャンプーなんです。香りが良すぎるものも要注意ですね。天然のものはすべて微香ですから。

三原 「女の子の髪がいいニオイだな~」、なんていっているのはよくないことなんですね(笑)。

松浦 香りというものもおろそかにはできませんよね。香りは本能的なものなので、香りがよければそちらのほうがいいということになりますから。

プラス・マイナス・ゼロという考え

三原 ちょっと考え方が変わりました。今度からは微香の女性を好きになるようにしようと思います(笑)。

まあ冗談はさておき、オーガニック系のシャンプーや化粧品が広まれば、健康面はもちろん環境も変わってきますよね。

松浦 そうですね。ひとの意識も変わってくると思います。昔は自分たちで材料を揃え、石けんをつくるひともいましたが、そういった感覚にもどってくれればいいですね。ただ自分たちでつくるのは大変だから、信頼できるところがつくったものを買うと思います。

街にお豆腐屋さんがあるように、シャンプー屋さんがあっても面白いと思うんですよ。そういう感覚はとても大切だと思います。

三原 そうですよね。「畑でつくった作物からシャンプーをつくります」、みたいなのは面白いですよ。

では、松浦さんの今後の目標はなんでしょうか?

松浦 とにかく、安全で安心できるプロダクトをつくっていくことですね。美しくなるうえでの最高の条件というか、快楽と知識がひとつになった答えはそこにしかないと思うので。

私が携わる美容業界はもちろんですが、衣食住すべてにおいて、オーガニックというくくりにこだわるのではなく、自分たちが美しくあるための条件と地球環境への愛情をリンクさせていく努力をしていきたいですね。これだけの環境と知恵が備わってきたわけですから。

美容業界はこれまでのギルティを自覚し、まず“プラス・マイナス・ゼロという発想”からはじめていかなければならないと思います。個人でやれる範囲のことで構わないので、美容師さんたちや化粧品をつくるひとたちが、それぞれのプロ意識をもって人びとの健康や地球環境に取り組むことが大切です。

これは大袈裟なことではなく、これからは当たり前のことになると、私は思っています。

三原 それはこれらからの美容業界の使命ですね。

松浦 そうですね。これまで話してきたシャンプーはもちろんですが、パーマ液やカラーリング剤はこれからの大きな課題です。

髪の毛のシスティン結合というものを化学的に壊さなければ、現在の技術ではパーマや毛染めはできないんです。いわばそれはマイナスの部分なので、オーガニック系シャンプーのようなプラスの部分でおぎなえるようにしていかなければならないですね。

たとえば「オーガニック系は良い」といっているひとが、飛行機で海外を飛びまわって二酸化炭素を排出しているとしたら、それは矛盾しているじゃないですか。だからこそプラス・マイナス・ゼロという意識が必要になってくるんです。

三原 青山・原宿界隈のヘアサロン3000軒が実践するだけでも、かなり影響は大きいですよね。

松浦 本当にそう思いますよ。だからもっとみんな共感してほしいし、こうした考えをこれからも発信していきたいと思います。

三原 国からの支援などもあるといいですよね。

三原康裕さん

松浦 いまは個人レベルでやっていることを美容業界全体の総意としてまとめ、それを国が認めてくれればいいんですけどね。厚生労働省にとっては医療が最優先であり、美容業界はいわばあとまわしなんです。

三原 そうなんですか。ところで現在つくられているシャンプーはいつごろ完成する予定なんですか?

松浦 今年の9月ごろを目標にしています。

三原 わかりました。完成したらぜひ使わせていただきたいと思います。今日はありがとうございました。

松浦 ありがとうございました。

(おわり)

松浦美穂|MATSUURA Miho
1980年代初頭より「六本木美容室」の店長を経て、1988年に渡英。帰国後にヘアサロン「ツイギー」をオープン。サロンワーク以外にもヘアスタイリストとして活動し、ニューヨークおよびロンドンコレクションのバックステージやヘアショウのイベントなど、活動の場を広げる。
2003年にはアメリカのナチュラルビューティブランド「アヴェダ」の日本上陸に伴い、アーティスティックディレクターに就任。5年間にわたって商品開発のアドバイスやヘアスタイル提案などを行い、ブランドの浸透に貢献する。
2007年には「ツイギー」を神宮前に移転。「シークレットクローゼット」(ファッションブティック)や「アンジェ」(ネイルチーム)とのコラボレーションによって、ヘアスタイル&カラーリング、ヘアスパ、ネイル、ファッションまでをトータルビューティサロンとして提案している。現在は念願だったオリジナルプロダクトを開発中。

ツイギー
http://www.twiggy.co.jp

           
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