三原康裕│第4回 ヘアスタイリスト 松浦美穂さんと語る(2)
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2015年5月11日

三原康裕│第4回 ヘアスタイリスト 松浦美穂さんと語る(2)

日本人本来の髪質と個性の確立とは

第4回 ヘアスタイリスト 松浦美穂さんと語る(1)

ヘアサロン「ツイギー」のオーナー兼ヘアスタイリストであり、現在オーガニック系プロダクトの開発に取り組んでいる松浦美穂さんとの対談第2回。
普段、私たちがなにげなく使っているシャンプーが、じつは人体にも影響を与えていることを知る三原さん。そうした驚くべき事実を変えようと奮闘する松浦さんの信念に三原さんは触れる。

写真=Jamandfixまとめ=竹石安宏(シティライツ)

三原康裕 これまで美容業界で健康を考慮した製品はなかったのですか?

松浦美穂 ニューヨークでオーガニック系のシャンプーに出会うまでは、日本古来の椿油を使ったシャンプーくらいしかなかったと思いますね。それでも化学的な成分は含まれていましたけど。

三原 ということは、オーガニックな製品が登場したのはごく最近のことであり、量的にも限られたものなんですね。

松浦 現在でも全体で100分の1ほどだと聞いています。

三原 美容業界の急速な成長のなかで、化学的なものに頼らざるを得なかったのでしょうか?

松浦 そうともいえますね。一般的なシャンプー剤というものは、結局すべての成分がケミカルであり、化学的なものに頼らなければつくれないんです。

三原 イタリアではオリーブオイルなどの天然素材だけでつくった石けんなども見かけますが、シャンプーはつくれないんですか?

松浦美穂さん

松浦 石けんとは異なり、シャンプーは髪がもつれたりパサついてはいけません。そのためにはシャンプー用の界面活性剤というものがどうしても必要になってくる。
しかし、天然成分由来の界面活性剤はとても入手が難しいんです。

三原 そうなんですか。ちなみにシャンプーに使われる成分に健康上の規定などはあったんですか?

松浦 厳格な規定はないので、事実上は野放し状態でした。私が幼少のころはまだ美容室でしかシャンプーを売っておらず、市販品が一般的に売られるようになるまでは、みんな髪も天然の石けんで洗っていたんです。

ただどうしても髪がパサついたり、石けんカスが出るのでシャンプーがつくられるようになったわけですが、成分はすべて化学合成だったんです。

三原 シャンプーの主成分とはどういったものなのですか?

松浦 シャンプーは泡が出なければなりませんが、そのための成分が界面活性剤です。これはほとんど化学合成でできているんですが、髪や頭皮にはけっしてよくないといわれています。
みんな食べ物や化粧品などに関しては健康的なものを選ぶように気を遣っても、髪の毛に対しては最後まで置き去りになっているんです。毛穴からも物質は入り込むことがあるんですが、シャンプーに関しては忘れられていると感じています。

化学合成成分がもたらす人体への影響

三原 毛穴や頭皮からもシャンプーは吸収されるんですね。それは人体に対してなんらかの影響を与えるんでしょうか?

松浦 少なからずあると思います。頭皮から入った物質は毛細血管に流れ込み、肝臓や腎臓まで達します。そして毒性の物質を吸収した臓器には負担がかかる。とくに腎臓はデトックス機能を担う重要な器官であり、その機能が弱まれば身体全体の解毒作用が損なわれることになるんです。

三原 そうなんですか。プラスな面はまったくないように感じますが、なぜそんな化学物質を使うのでしょうか?

松浦 かつて髪は“死んだ細胞”と捉えられており、切ってしまえばそれまでということで、それほど健康面に気を遣われなかったという経緯があります。ですが、髪にはキューティクルがあり、そのなかに「毛髄」というものがあります。そして毛髄は毛根から血液をもらっている。つまりキューティクルから吸収した物質が、毛髄を介して血液に入り込む可能性もないとはいえないわけです。

三原 そういったお話をお聞きすると、シャンプーの成分はとても重要だということがわかりました。

松浦 こうした事実をもっと知ってほしいと思いますね。現在はライフスタイルのなかに健康的なものが多く採り入れられるようになりましたが、シャンプーやトリートメントなどまではなかなか関心が向かなかったんです。

日本は世界的に見てもオシャレ度はトップクラスになったと思うんですが、それをキープしていくためには不可欠な要素だと思います。「たとえ髪がボロボロでも、カタチにさえなっていればそれでいいの?」ということです。
日本人ならではの魅力はやはり黒髪であり、髪に艶感があるのでストレートのロングヘアがとても似合うんですね。それは大切なことだし、ファッション性においても生活においても、じつは欠かせないものにも関わらず、“髪=もう死んだもの”という昔からの発想のまま、いままでないがしろにされていたんです。

真っ白になるまでハイブリーチして最後は坊主というのもファッションとしてはありだと思いますが、黒々としたストレートロングは傷んだ細い髪ではできないし、日本人としての個性が確立できなくなります。そうした日本人本来の髪質を保てなくなれば、エッジの効いたヘアスタイルもできなくなるでしょう。

三原 なるほど。ところで、髪や毛穴を通して体内に入った化学物質は、身体にどんな影響を及ぼすのでしょうか?

松浦 そのひとつがアレルギーやアトピーだといわれています。最近とても多いですが、シャンプーだけではなく、化粧品や食品などにも使用されている化学物質が人体に影響し、免疫機能をくるわせた結果といわれているんです。

三原康裕さん

三原 そういったことが起きているにも関わらず、天然成分を使用したものは100分の1というのが現状なんですね。

松浦 そうですね。商業的な面から見れば、化学的な成分は安くつくれるという利点がありますからね。
消費者は安いものを好むし、結局ケミカルなものになってしまうんです。やはりオーガニック系でつくると高くなってしまいますから。

三原 なぜオーガニックでは高くなってしまうのでしょう?

松浦 簡単で安くつくれるケミカルに対し、オーガニックは土から改良しなくてはなりません。手間もかかりますしね。有機農法のお米が高いけど美味しいように、シャンプーも同じなんです。

畑から改良し、オーガニックの作物が採れるようになるには数年かかりますが、その間利益は望めませんからね。でも、だからといって高額になりすぎてしまうのもどうかと思うんです。私はエコがあまりにビジネスになってしまうのは、おかしな話だと思っていますから。なるべくコストダウンしていく努力と忍耐が必要だと感じますね。

三原 たんなるビジネスではなく、信念があって取り組まれているということがよくわかりました。

松浦美穂
1980年代初頭より「六本木美容室」の店長を経て、1988年に渡英。帰国後にヘアサロン「ツイギー」をオープン。サロンワーク以外にもヘアスタイリストとして活動し、ニューヨークおよびロンドンコレクションのバックステージやヘアショーのイベントなど、活動の場を広げる。
2003年にはアメリカのナチュラルビューティブランド「アヴェダ」の日本上陸に伴い、アーティスティックディレクターに就任。5年間に渡って商品開発のアドバイスやヘアスタイル提案などを行い、ブランドの浸透に貢献する。
2007年には「ツイギー」を神宮前に移転。「シークレットクローゼット」(ファッションブティック)や「アンジェ」(ネイルチーム)とのコラボレーションによって、ヘアスタイル&カラーリング、ヘアスパ、ネイル、ファッションまでをトータルビューティサロンとして提案している。現在は念願だったオリジナルプロダクトを開発中。

ツイギー
http://www.twiggy.co.jp

           
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