三原康裕│第4回 ヘアスタイリスト 松浦美穂さんと語る(1)
ビューティがあるなら、ウェルネスもあるべきだ
第4回 ヘアスタイリスト 松浦美穂さんと語る(1)
ファッションデザイナーの三原康裕さんが、社会的な活動によって世論を動かしている人々との対談を通し、いま世界をより良い方向へ変えるためには具体的になにをすべきか、そして未来の“クリテリオン=基準”とはなにかを探る連載「Criterion MIHARAYASUHIRO」。
第4回めはヘアサロン「ツイギー」のオーナー兼ヘアスタイリストであり、現在オーガニック系プロダクトの開発に取り組んでいる松浦美穂さんにご登場いただいた。
写真=Jamandfixまとめ=竹石安宏(シティライツ)
“気持ちいい”と感じる、オーガニックとの出会い
三原康裕 松浦さん、今日はよろしくお願いいたします。
松浦美穂 こちらこそ、よろしくお願いします。
三原 ではさっそく、現在取り組んでいらっしゃる“オーガニック系シャンプー”についてお聞きしたいのですが、つくろうと思ったキッカケはなんだったのでしょうか?
松浦 最初からプロダクトをつくろうと思ったわけではないんですが、そもそものキッカケはいまから15~16年前、ニューヨークに行ったときまで遡(さかのぼ)ります。そこでオーガニック系プロダクトをはじめて知ったのですが、いままで嗅いだことのない気持ちいい香りだなと思ったんです。
“気持ちいい”ということが私の人生では基本なので、すぐに反応してしまうんですよ(笑)。
それで、これはなんだろうと思ってすぐに調べて買い、自分のお店に送って使いはじめたんです。
三原 なるほど。オーガニックとは知らず、まず香りに反応して使いはじめたんですね。
松浦 そうなんです。オーガニック的なモノとの出会いはそれよりもっと以前、ロンドンに住んでいた20年ほど前に、当時ニールズヤードに勤めていたお友だちが、ハーブをレクチャーしてくれたのが最初だったんですけどね。
妊娠したことが大きなキッカケでもあったんですが、それからというもの健康な食べ物を意識したりするなど、オーガニックなモノを生活のなかに入れていくこと自体に興味をもちはじめたんです。
それまでの20代は、歌って飲んで、朝まで遊んでそのまま仕事に行くような生活を繰り返していたんですけどね(笑)。
いわば遊ぶことによる快楽で“気持ちいい”を得ていたので、ハーブやヘルシーな食事を生活に採り入れることがとても新鮮であり、自分のなかですごくエッジィなことだったんです。
三原 ニールズヤードの製品にはハーブが使われていたんですか?
松浦 ハーブも含め、ニールズヤードは口に入れても無害な材料が基本だと聞いていました。ハーブオイルや石けん、食品など全部オーガニックだと。ロンドンのお店には当時サラダバーなどもあって、そこでもオーガニックの野菜を使っていましたね。
三原 知識というよりも、“気持ちいい”という感覚的な面でオーガニックに入っていったわけですね。使ってみたら“なんかいいじゃん”みたいな。
松浦 まさにその通りです。自分の20代はそうだったんですよ。軽くて、一歩一歩がドッシリしていませんでしたから(笑)。いまは知識がある分、アクションに重みが出るんですよね。
とりあえずいろいろ考えてから行動するようになりましたが、あのころはいいと思ったらすぐにタタッと動いちゃう。なんにでも興味や好奇心がありましたからね。いわば興味がディスコからハーブに変わった、という感じだったんです(笑)。
急成長した美容室の功罪とは
三原 その当時、日本でそういった風潮はすでにあったんですか?
松浦 いいえ、まだほとんどなかったですね。当時からオーガニックを採り入れている方も何人かはいらしたと思いますが、表参道にハーブ専門店の「生活の木」やナチュラルフードレストラン「もみの木ハウス」があったくらい。でも、ハーブやアーユルヴェーダなどの言葉は聞いても、流行りで飛びつくような風潮ではなかったです。ただ、私は感覚的にハーブをいいと感じたんですね。そしてハーブに通じるものが私たち美容師の世界にもあると知ったのは、そのあとだったわけです。
三原 なるほど。別の角度から入ったということですね。
松浦 そうなんですよ。それを知ったときは、オーガニック系で髪の毛用のプロダクトもつくれるんだ、これは面白いと思いましたね。私は美容室を経営する家で育ったにも関わらず、子どものころからヘアスプレーのニオイが大嫌いだったんです。そして美容室はもっといいニオイにするべきという思いがずっとあったんですよ。オーガニック系製品を使えば、それも変えられると感じましたね。
三原 ダイエースプレーとか僕もよく使いましたが、たしかに身体にいいニオイではなかったですよね。
松浦 かつて美容室のプロダクトはそういったヘアスプレーが中心でしたからね。パーマも電気パーマの時代が終わり、パーマ液を使うようになったのですが、美容室は戦後の高度成長に伴って急速に発展した産業であり、その過程で人体や地球に悪い影響を与えるものをたくさんつくり、消費してきたわけです。
大企業に比べたら影響は少ないかもしれませんが、美容室は全国に膨大な軒数があるので、多少なりともそういったことにギルティを感じるべきではないかなと思っていましたね。
三原 現在、原宿や青山界隈に美容室はどれくらいあるんですかね?
松浦 3000軒以上はあるといわれますから、環境への影響も少なくないですよね。とにかく“美容室=ケミカル”という現実をなんとか変えたいと思っていたんです。
ニールズヤードに出会ったころはまだピンときませんでしたけど、「なにかこんなこと」という感触はあったし、自分のライフスタイルから変えなければこうした気づきはなかったでしょう。
そうした生活上の経験があったからこそ、ニューヨークで出会ったオーガニック系シャンプーの良さもわかったし、これならスプレーやパーマ液のニオイがする美容室も変えられると思えたんです。
三原 なるほど。ご自分が育った環境やライフスタイルの変化から、お客さんの健康を考えたオーガニック系プロダクトに結びついたんですね。
松浦 そうです。美容室はお客さまが不健康になる場所のように感じたんですよ。みんなキレイになったと喜んでいるのに、じつはケミカルまみれで、これが健康なことなのかわからないようになっていたんです。こうした感覚で美容業をつづけていて、いいのだろうかという疑問がずっとありましたね。ビューティがあるなら、ウェルネスもあるべきだと。そしてなにかあれば変えたいと、漠然と思っていたんです。
松浦美穂
1980年代初頭より「六本木美容室」の店長を経て、1988年に渡英。帰国後にヘアサロン「ツイギー」をオープン。サロンワーク以外にもヘアスタイリストとして活動し、ニューヨークおよびロンドンコレクションのバックステージやヘアショーのイベントなど、活動の場を広げる。
2003年にはアメリカのナチュラルビューティブランド「アヴェダ」の日本上陸に伴い、アーティスティックディレクターに就任。5年間に渡って商品開発のアドバイスやヘアスタイル提案などを行い、ブランドの浸透に貢献する。
2007年には「ツイギー」を神宮前に移転。「シークレットクローゼット」(ファッションブティック)や「アンジェ」(ネイルチーム)とのコラボレーションによって、ヘアスタイル&カラーリング、ヘアスパ、ネイル、ファッションまでをトータルビューティサロンとして提案している。現在は念願だったオリジナルプロダクトを開発中。
ツイギー
http://www.twiggy.co.jp