三原康裕│第3回 アバンティ代表取締役 渡邊智恵子さんと語る(2)
Lounge
2015年3月13日

三原康裕│第3回 アバンティ代表取締役 渡邊智恵子さんと語る(2)

あなたがいま着ている「綿」をかんがえる
第3回 アバンティ代表取締役 渡邊智恵子さんと語る(2)

日本におけるオーガニックコットンの第一人者であり、オーガニックコットンのリーディングカンパニーであるアバンティの代表を務める渡邊智恵子さんとデザイナー、三原康裕さんとの対談2回目。
渡邊さんの豊富な知識によってオーガニックコットンへの認識を深めていく三原さんは、これまで見えなかったさまざまな問題をも目の当たりにしていく。

写真=Jamandfixまとめ=竹石安宏(シティライツ)

すべてにおいて化学に頼らない有機農法とは

三原 ところでオーガニックな土とはどういった状態なのでしょうか?

渡邊 無農薬で有機肥料を使った土ということです。窒素やリン酸、カリウムなどをふくむ化学肥料を使用しないで、牛糞にバクテリアを繁殖させた有機肥料に替えていくことで土はオーガニックになっていきます。
現在有機肥料の生産は、アメリカで大きなビジネスになっているようです。インドではミミズを使って土をオーガニックにする農法が盛んになっているんですよ。

三原 先進国の機械化農業でも、そういったオーガニック農法が用いられているんですか?

渡邊智恵子さん

渡邊 機械化された近代農法も昔ながらの人的農法も、有機肥料を使うことが基本です。それに除草剤や枯れ葉剤、遺伝子組み換え品種を使わないというのもおなじですね。

三原 なるほど。そうした有機農法で栽培されたコットンを“オーガニックコットン”とよんでいるんですね。

渡邊 オーガニックコットンの定義については、まず「遺伝子組み換え品種ではない」こと。それから「化学肥料に頼らない有機栽培である」こと。そして「化学的な殺虫剤や除草剤なども使用しない」こと。そのためには害虫の駆除に天敵を用いたり、雑草を土に鋤き込んでしまったり、手作業で刈ったりする必要があります。それに枯れ葉剤も使用できないので、霜が降りて自然に枯れるまで待つことも必要です。殺虫剤にかんしては有機的なものもあり、インドなどではニームという木と牛の尿を混ぜたものを天然の殺虫剤として使っています。

三原 すべてにおいて化学的なものには頼らないということですね。

渡邊 そうです。それにもうひとつ重要なことがあります。それは農業に従事している農民たちの環境を守るということです。そこには賃金の搾取や児童労働をしないということもふくまれており、もっとも重要な項目になっています。

環境へダメージを与えるコットンの加工

三原 そうなんですね。一般的には、栽培に関する面だけと思われていることが多いのではないでしょうか。

渡邊 そうなんです。しかし、農民たちの環境については不可欠な項目として必ずくわえられているんです。フェアトレードに繋がることでもあり、とても大切な項目だと思います。

三原 なるほど。農業の分野にかんしてはよくわかりました。ではつぎに、コットンの工業分野についてお話をお聞かせください。

渡邊 はい。まず綿が摘まれてから紡績されるわけですが、この段階ではあまり水を使わないので環境への影響はそれほど大きくありません。もっとも環境に負荷を与えるのは、生地になってから染色する段階です。

オーガニックコットンの紡績工程

綿は種を風雪から守るために、油脂分を多くふくんでいます。その油脂分を除去しないかぎり、吸水性もなく、染色をすることもできないんです。そしてもともとは生成りのベージュ色なので、そのまま染めてもビビッドな色合いは出せません。そのため、化成ソーダを使用して脱脂をおこない、漂白をする必要があり、ここで環境を汚染することになります。

それから染料で染めるわけですが、色落ちしないように定着剤が用いられることが多く、強力な定着剤のなかには重金属をふくんでいるものもあります。さらに固さを抑えるための柔軟剤や、コットンは縮むために防縮剤なども使用されます。天然の素材にもかかわらず、コットンにはこれほどの薬剤が使用されているんです。

三原 コットンには工業的な加工がどうしても必要ということですよね。

渡邊 そうですね。そうした加工のさいに、どういった薬剤を使用するのかが問題です。環境にフレンドリーなのか、アンチなのかが問われてくる。そこで私たちは、どういった薬剤がフレンドリーなのかの基準を設けているんです。その基準に則って加工された製品には、日本オーガニックコットン協会のタグを付けたり、GOTS(Global Organic Textile Standard)という基準の認証を与えたりしています。それらを付記することで、消費者の判断基準にしていただいているんです。

天然だから環境にいいとは限らない?

三原 そういった認証を得るためには、化成ソーダや定着剤などを使用しないことが条件なのですか?

渡邊 たとえば化成ソーダは使用してもいいのですが、その純度を抑えてもらうようにしています。漂白も塩素漂白はダメですが、消毒に使用される過酸化水素なら大丈夫という感じです。時間と手間がかかりますが、そうした薬剤を奨励しています。

染料にかんしてもリアクティブダイ(反応染料)を使用し、重金属をふくむ定着剤は使わないでくださいと。天然染料はもちろんいいのですが、色目によっては、じつは天然のコットンと結びつけるには第4級アンモニウムという無機的な薬剤が必要になります。有機と有機はそのままでは結びつかず、取りもつ仲人役が必要なのですが、これが環境にとって非常に良くないんです。

三原 天然染料は環境にいいというのが一般的であり、その過程で使われる薬剤までは考えがいってないと思います。じつは僕も学生時代、草木染めなどをやっていたんですが、なかなかキレイな色には染まらなかったですね。

渡邊 みなさん「オーガニックコットンを染めるなら天然染料ですよね」とおっしゃるのですが、私は天然染料を良しとは思っていないんですよ。

とくに草木染めは小さな工場で行われていることが多く、排水にかんして問題があることもあります。

大きな染工所なら排水設備も整っており、その基準も厳しくなっていますけどね。

だから、化学的な反応染料がベターだと私は思っています。実際、現在はそうした染めがスタンダードになっていますね。

三原 紡績や染めなどについてはわかりましたが、縫製などの工程では問題はないのでしょうか?

渡邊 縫製については参考になる映画があります。『女工哀歌(エレジー)』というドキュメンタリー作品で、中国の縫製工場で働く女工さんたちがどんな環境でモノづくりをしているかが描かれています。中国は“世界の工場”ですが、いまそこでどんなことが行われているのか知ることができます。女工さんがジーンズのポケットに「私たちの現状を見てほしい」と書いた手紙を入れ、それがアメリカに届いて取材が行われたんです。そこでは世界一安い工場であるために、いかに安い賃金で女工さんたちを使うかということがまかり通っていました。無理な納期を強いられるなど、ある意味奴隷のように働かされているんです。

© 2005 Teddy Bear Films
『女工哀歌(エレジー)』6月3日(水)DVD発売 3990円

© 2005 Teddy Bear Films
『女工哀歌(エレジー)』 http://www.espace-sarou.co.jp/jokou/

三原 その作品は僕も観ました。衝撃的な内容でしたね。

渡邊 こうした問題もファッション業界のひとたちにはあまり知られていないでしょう。だからこそ私は、もっとエシカル・ファッション(道徳的・倫理的なファッション)を推進していかなければならないと思っています。

ファッションでは華やかな部分ばかりがクローズアップされますが、それはある意味“虚”です。そうした華やかな部分は商業の分野であって、農業や工業の犠牲の上に成り立っている。それはあってはならないことだと、私は思っています。今後エシカル・ファッションを心がけなければ、長くは継続しないのではないでしょうか。

三原 限界はあると僕も思いますね。実際には、すでに考えられないような安い商品もありますから。それこそ一枚縫うのに何銭というところまで行かざるをえなくなるでしょう。商業の分野でそれが回っていけばまだしも、現在はそれすらとまってしまっていますからね。

渡邊智恵子
1952年北海道斜里郡生まれ。明治大学商業学部卒業後にレンズ製造会社であるタスコ・ジャパンに入社。同社副社長就任中の1985年にに子会社としてアバンティを設立し、代表取締役に就任。
1990年にはじめてオーガニックコットンに触れ、同年アバンティに専念してオーガニックコットンを専門に扱うようになる。1993年にはアメリカ・テキサス州に現地法人設立し、日本テキサスオーガニックコットン協会の設立に尽力。2000年からはNPO法人日本オーガニックコットン協会(JOCA)の副理事長に就任。NPOへの参加や講演会などを積極的に行い、オーガニックコットンの普及やグローバルスタンダード確立のための活動を行っている。

アバンティ直営ウェブストア「プリスティン」
http://www.pristine.jp/

ファッションデザイナー三原康裕がつくった靴下は、素材は機能性と天然素材にこだわり、吸湿性と速乾性を兼備させるためにコットンにヘンプを混紡したものをチョイス。多彩な色糸とネップが不均一に混ざった杢糸を使用し、スタイルのアクセントになるように独自のカラー調整とブランドロゴをかかとに刺繍した。そして針数60本の編み機によって、ザックリとした足馴染みのいい靴下に編み立てた。

web shopping「ルモアズ」のみで販売されるこのソックスは、三原さんとオウプナーズの意向により、売り上げの一部を東京都社会福祉協議会が運営する東京善意銀行を介し、東京都内の福祉施設に寄付される。

           
Photo Gallery