小曽根真、新次元に達したNo Name Horsesを語る
新次元に達した“名もない馬たち”
No name horses 『Jungle』リリース――
小曽根 真インタビュー(前編)
小曽根 真さん率いるNo name horsesは前作、前々作にて、壮大なスケールをもちながらも、せつなさや静けさが共生した美しい音楽を繰り広げていた。そんな彼らが5月20日にリリースしたアルバムは、象や豹が原色であしらわれたジャケットが印象的な『Jungle』だ。
小曽根さん自身も「何が起こったんだ?って感じでしょ」と認める、“ジャングル”が全面的に押し出されたこの作品が完成するまでの経緯をとても丁寧に、そして楽しそうにお話していただいた。
文=オウプナーズ
“Jungle”がうまれるまで
ラテンテイストのアルバムをつくる、というコンセプトのもとはじまったこの作品。野生動物の息づかいが感じられるような「Cave walk」や、まるで大自然のなか高まった興奮をクールダウンしてくれる「Oasis」といった曲ができていくなか、アルバムタイトルを生み出すのに苦労していたそう。
「このバンドってすごいメンバーが集まっているんですね。で、技術や音楽性もふくめ、メンバーひとりひとりの個性の“共存”がテーマなんです」
“ラテンテイスト”と、このバンドの“共存”性を見事に表わす言葉――ある晩、それが小曽根さんの奥さまの口から飛び出した。「Jungle」だ。
「“ジャングル”って『うわー』って、においや音まで聴こえてくるじゃないですか。No name horsesというバンド自体、バンドスタンドの上がいつもジャングルなんですよ。個性が『バ―――』ってあちこちに出ている。でも、それが、共鳴している」
『Jungle』というタイトルは、No name horsesのラテンフレーバーのアルバムにピッタリとはまった。
このアルバムの幕を開けるのは、小曽根さんが作曲した、アルバムと同タイトルの「Jungle」。この曲には大変興味深いいきさつがある。
ドンピシャなアルバムタイトルを“発見”したころと時をおなじくして、2月に来日したチック・コリアを見に行き、同氏はそこで衝撃を受けたというのだ。
「ジャズの音楽において、ベースとドラムはファウンデーションなんです」と語る彼は、クリスチャン・マックブライドのベースとブライアン・ブレイドのドラムに、「リズムというものが、いかに人間の命の躍動感に直結しているのか」を目の当たりにした。
「とにかくそのふたりのすごさに、命の躍動感に、感動して帰って、バーッと」
書きあげた。それが、「Jungle」である。
同曲の譜面を書きすすめ、メンバーの顔や期待できるフレーズが見えてくるなか、
「No name horsesのそれぞれ個性のすべてがあちこちに出てくるような、それでいてバンドのカラーも備えた曲が書けたと、僕は思ったんです。この曲のタイトルは『Jungle』
以外にありえない、と確信しました」
さて、これだけジャングルフレーバーあふれるタイトルばかりのなかで目を引くのが「La verda Con Los Caballos」である。メンバーのエリックが作曲したこの曲は直訳すると「馬との真実」。
「真実っていうのは“真”にひっかけているんですよ。“馬たちと一緒にいる真”っていうタイトルを彼が考えて僕のために書いてくれたんですよね」
この曲をはじめとして、アルバムには必ずしも作曲者が演奏しているわけではない楽曲がある。これだけ一流のミュージシャンが集まっていながら、自分の出番を気にせずに曲を書けるとは稀有なビッグバンドではなかろうか?
「こんなカッコイイ言い方をしていいのかわからないけど……」とはにかみつつ、小曽根さんは答えてくれた。
「全員が、“自分より音楽が好き”なんですよ。そのひと言に尽きると思います。音楽より自分のほうが大事だったら、ああはならないですね」
それが、互いを信頼しあい、尊敬しあう、No name horsesというバンドをつくっているのだ。
“I’m proud to be a member of this band”という自負をもったバンド
「いいミュージシャンを集めてビックバンドをやると、自分のソロを気にしがちなんですけど、No name horsesのメンバーはそうでないところに美学をもっていて、『音楽としてどうなのか』ということを一番に考えるひとたちなんです。僕はそれがすごく一流だなって思っています」
“自我を超えたところに、音楽がある”、それがゆえに、「彼らは僕の描いた音から、自分の想像力のフィルターを通して出してくるバンドであって、個人レベルでものすごくトラストがあるんですよ」と小曽根さんは言う。そんな信頼しあったメンバーが集まると、「ほっといても自然にスイッチがはいってしまう」のだそう。
「もう、『さあいくぞ』っていう意気込みが、そして『これが、自分のバンドである』っていう自負が、僕をふくめて、みんなのなかにあるんですよね。馬が蹄を蹴って走りだすように『やるぞ!さぁ行くよ!』っていう勢いをいつも集まるたびに感じますね。だからド頭からバシィっと気合入った音が出てくるんです。そしてそれをみんなで喜びあえる」
そんなふうに、バンドが集まったときのマジックを興奮気味に語ってくれた。
「真実は、今鳴っている音の中にしかないんです」
アルバムのブックにも添えられているメッセージ、
「スーパーテクニックや高い音楽性を超えたそのさらに奥に、もうひとつの扉がある」
その扉をあけた先には“音楽に連れていってもらう世界”があり、No name horsesはその次元にいるのだ。
「僕らはそこに行けて幸せで、その幸せなエネルギーがこのアルバムにつまっているんです」とその“幸せ”を思い出しているかのように語る同氏は、ご自身もこのレコーディングが終わってから3ヵ月毎日今作を聴いているのだそう。
また、小曽根さんはこうも語ってくれた。
「真実は、今鳴っている音の中にしかないんです。その音と真摯に向き合って、次の音が生まれるんです。」
No Name Horsesは皆が皆のことを、そして音を「この上なく愛している」からこそ、次の音が、そしてその次の音が全部「生き物」になってポンポンポーンと出ていくのだという。
インタビュー中、小曽根さんが何度か口にした「音は生き物」という表現。これは彼の音楽に、とくにこのアルバムに実にしっくりくる。
「このアルバムは生きてるんですよ」と興奮気味に語ってくれたとおり、“自分より音楽が好き”で、お互いを愛するメンバーが音に導かれてつくりだしたアルバムは、命の躍動感にあふれている。
さて、ジャズの枠にとらわれずクラシック界でもご活躍されている同氏だが、そんな彼とクラシックの間にも「1度、とんでもないことがあった」そう。その事件とは!? そして控えるツアーに向けた“意気込み”とは!?
「ジャングル」ツアー
KAJIMOTO Tel.03-3574-0969
http://www.makotoozone.com/jp/calendar/index.html
2009年5月23日|市川市文化会館
5月24日|越前市文化センター
6月27日|秋田アトリオン音楽ホール
7月2日~4日|大阪ビルボード
7月6日~8日|福岡ビルボード
7月10日~12日|名古屋ブルーノート
7月14日~20日|東京ブルーノート
7月30日|ラ・ロック・ダンテロン ピアノ・フェスティバル(南仏)
タイトル|Jungle(ジャングル)
アーティスト|小曽根 真 フィーチャリング No Name Horses
レーベル|Universal Jazz Verve
価格 | 3000円
リリース|2009年5月20日