ピーター・バラカン×中野香織「21世紀のダンディズム」を語る(第4回/最終回)
中野香織『ダンディズムの系譜 男が憧れた男たち』発刊記念
ピーター・バラカンさんと21世紀のダンディズムを語る(全4回)
最終回 21世紀のダンディズム――ロマンティックな個人主義
イギリス出身のバラカンさんをお迎えしての“ダンディズム対談”もいよいよ4回目です。
最終回のテーマは、本稿のメインである「21世紀のダンディ」について。21世紀的なダンディのあり方を示す著名人やそのアイデンティティについて語ります。
文=中野香織Photo by Jamandfix撮影協力=レ・コントアール・ド・ラ・トゥールダルジャン
21世紀のダンディとは?
中野香織 21世紀にダンディのあり方が語られていくとすれば、どういう人が出てくるのかな。ダンディということばの解釈を思いきり広げて、21世紀において共感を得るような男性、と言い換えるとすれば。
ピーター・バラカン かっこいいと思う男と、生き方に共感を覚える男は、また違いますね。才能のあるかっこいいミュージシャンは破天荒な人が多いから、ドラッグをやってたり、若くして死んだりで、生き方に憧れるというわけではない。
中野 かっこよくて、なおかつ、ああいうふうに生きたいなあという憧れも誘うミュージシャンはいますか?
バラカン ジョン・レノンはほんとに生き方においても憧れるものがありましたね。あそこまで自分がどう思われるかも無視して、身の安全まで無視して、やるべきことをやり遂げたあの態度は、いいなあ。それこそ命とひきかえに反戦活動をしつづけた……。マネはできないけど、参考になる。
中野 実際に行動を起こすとなると、なかなかできないことですよね。
バラカン オノ・ヨーコさんにインタビューしたことがあったんですよ、衛星中継で。彼女には僕の顔が見えないのですが、終わってから「ところであなたはイギリス人? どうしてここまで日本語ができるの?」と聞かれた。日本語を一生懸命習おうとしていたジョンに紹介したかった、というんです。もうぼくはそれを聞いてどきどきしちゃってね(笑)。ふつう、有名人に会ってもあがったりはしないんですが、ジョン・レノンだけは、あがっていたでしょうねえ。あの人だけは、別格だった。
21世紀ダンディの条件は、アイデンティティに自信があること
中野 最近のミュージシャンではどうですか?
バラカン アフリカの人が多いかもしれない。西アフリカをよく聴くんですけどね、セネガルとか、マリとか。もちろんまず音楽を聴くんですが、音楽をやっている人たちの堂々とした姿勢がいいんです。目の表情がおどおどしていない。これがおれだ、文句あるか、と。媚びない、だけど過剰じゃない。イギリス人だとつっぱったようになりますが。オアシスみたいに。ああじゃないんだな。
中野 肩の力が抜けていて、自分のアイデンティティに自信がある。
バラカン そうそう、見るとそういう印象を受ける。
中野 そうなりたいですよねえ……。オバマ大統領にも、そんなところがありますね。アフリカ系だけど、なにか? と。つっぱってないで、ありのままで自信がある。それが全方向にいい印象を与えています。
バラカン ああいうふうでありたいな、という共感を、あの姿から受けるよね。
中野 それも21世紀的なダンディのあり方かな、と思います。
バラカン 男性でも女性でも、自分が人にどういう印象を与えるかを意識する方がいいと思う。人前に出る立場の人は、そういう意識をもっていないと、ソンだと思う。ドレスアップしなきゃいけないとか、高価なものを身につけなくては、という次元の話ではないんだけどね。
中野 もちろん、わかります。態度とかたたずまいに関わってくるような問題ですよね。
バラカン 仕事で「CBSドキュメント」という番組に関わっているんですが。報道番組だし、あまりかっこいい人はいないんですけど、一人だけ。黒人で、エド・ブラッドリーという人がいた。彼はすごくかっこいい。自分というものをしっかりもっている。スーツのときもあればポロシャツにジーンズ、なにを着てもかっこいいんですよ。ああ、彼のようになりたいな、と思うくらい。
中野 みんなそう思うんだけど、それが難しい。難しいから、憧れて、考えるんです。スペアがいない、とりかえがきかない、どうやったらそんな人になれるんだろうか、と。
バラカン 内面的なものではありますね、おそらく。
中野 内面を磨くといっても、ひとりで内側に入っていってできるようなものではないじゃないですか。世間を意識しなくては、磨いていけるものではない。
バラカン ……で、アイデンティティとは、と、問題がそっちのほうへ行くんですね(笑)。
『ダンディズムの系譜 男が憧れた男たち』で示したかったもの
中野 でも日本人はアイデンティティをあんまりはっきりさせると、いじめられたりするんですよ。
バラカン この国はその意味では不幸な国ですね。できるだけ目立たないようにしないといけない。
中野 そうやってきた結果、リーダーが本当に欲しいときに、誰もいない。これって問題かなと思います。アイデンティティがしっかりしていて過不足なく立っている。そのかっこよさ、「ああいうふうになりたい」と憧れを託せるようなかっこよさをもった人がでてきてほしい。見た目のかっこよさじゃなくて。
バラカン アメリカの大統領選挙では、最後の最後まで、オバマさんに否定的な意見が多かった。なんのかんのいって、みんなアフリカ系には投票しないだろう、と。でも今回は違ってましたね。彼はロマンティックというか、希望をもたせることに力があった。インターネットをものすごく上手に使って、多くの人たちからお金をもらって、多くの人たちに対する責任を果たした。個人主義の究極ですね。
中野 ロマンティックな個人主義、まさにそこなんですよ。現在の日本をおおう、つるんとした一面的な拝金主義的なムードを一点突破するには、ロマンティックな個人の力しかないように見えることがあります。私が「今さら」ダンディズム論を書いたのも、まさにそのあたりを言いたかった。
「男を救え」――世界平和のためのダンディズム!?
中野 NHKのダンディ番組に戻りますが、プロデューサーの方は、なんでこの番組をつくろうと思われたのでしょう?
バラカン プロデューサーは女性だったんですよね。男じゃないんです。
中野 やっぱり!(笑)。私の本も、書き手が女なら編集者も女、最初にゲラを読んでレビュー第一号を書いてくださったのも女なんです。女の人がいま、思ってるんですね、男の人にがんばってもらわなきゃ。叱ってもだめなら、じゃあ、もちあげよう、と(笑)。
バラカン 男って基本的に、単純。のせられやすいし、いつも叱られてると、しょぼんとしやすい。聡明な女性が男を上手にもちあげると、いいようになんでもしますよ(笑)。「偉大な男のうしろにはもっと偉大な女性がいる」ということわざがありますが、ほんと、その通り。
中野 80年代、90年代に、女性は「私たちががんばらないと」とがんがん男性をおしのけて出て行った。それで状況が好転したかといえば、そうでもなく、問題もぞろぞろ出てきたので、じゃあ、陰にまわって男をもちあげよう、と。アメリカでは「男を救え(Save The Males)」という本まで出ています。
バラカン クジラを救え(Save the Whales)、みたいなもんだね(笑)。オバマが偉いのは、ミシェルが偉いからでもあるね。
中野 ヒラリー・クリントンとバラク・オバマが並んだときに、ヒラリーのほうがマッチョに見えませんでした?
バラカン オバマ氏には見せつけなきゃいけないような負い目もないようだし、アイデンティティをもっていて、安心して見ていられるようなところがあるね。
中野 そこへ到達するにはどうすれば? さっきの問題にまた戻るんですけど(笑)
バラカン 認めてくれる人が要るね。最小単位、一人でいいんだ。
中野 だいじな一人に認められると、ものすごく自信になりそうですね。
バラカン 自信はもちたくてもてるもんじゃない。ぼくの場合は、女房の力も大きいけど、たまたまテレビの仕事をするようになって、自分が人にどう見られるかを初めて意識する必要が出てきた。いまだに自分が出ているビデオを見ると愕然とするんだけども(笑)。不特定多数の人に見られ、ちょっとでも肯定的になにかを言われると、それが自信につながることも多いかな。「そんなにダメじゃないのかもしれない」という感じになってきた。そういう仕事をしていない人は、誰かが認めてあげないと。
中野 本の中で紹介した「ニュー・ブリティッシュ・ジェントルマン」の運動においても、「人をほめよ」「いい気分にさせよ」というようなことが提言されてますよ。ほめられることで、「否定されるような存在ではない」と多くの人が感じることが、世界平和につながるんではないかと(笑)。
バラカン 日本では恥ずかしがり屋が多いし、あまりほめるとセクハラと言われる。そこがまた、日本の過剰反応だと思うんだけど。
中野 その過剰反応に気づいて、「フラーティングを誰とでも」というキャンペーンでもしないとダメですかね。
バラカン 日本政府の主導がなければダメでしょうね(笑)。そういう省庁をつくれば、自殺者も少しは減るのではないかな。
中野 21世紀のダンディズムは、そうやって世の中がよいように回っていくためのツールにもなりますね(笑)。おっと、やっぱり話が飛躍して収集がつかなくなってしまいました……。
今日は楽しいお話をありがとうございました。
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