第40回 「住」にまつわる話_秋の照明編
第40回「住」にまつわる話_秋の照明編
あかりとは、影を愉しむもの……。影があるからこそ、光のうつくしさが際だつのものだと以前このコラムに書きましたが(第18回はこちら)、秋はこんな自然素材のやわらかなあかりが、お酒をいっそうおいしくしてくれます。
まとめ=戸川ふゆきPhoto by Jamandfix
安心するのは、ほの暗いあかり
現代日本の住宅の多くは、蛍光灯のシーリングライトをはじめ、部屋のどこでも新聞が読める、まぶしいほどの明るさです。蛍光灯は昼間の明るさを再現したもの。そこには情緒も何もありません。しかし人間本来の生理はどうでしょう。自然のリズムにならって暮らした時代の人々は、日の出とともに目覚め、日が暮れれば炎のあかりのもと、ゆっくりと時間をすごしながら眠りについたはずです。
仕事を終えてお酒を飲むひとときは、煌煌と照らされた照明の下ではうまくリラックスできません。やわらかなロウソクのあかりや、ほの暗い照明は、人間本来の生理にかなった、こころが鎮まる方法なのです。しかも、雰囲気の演出されたあかりの中で飲むお酒は、とてもおいしく感じるものですよね。部屋の中は、必要なところだけが明るければいい。オンとオフを上手に切り替えて、あかりを愉しむこころのゆとりを持ちたいものです。
自然素材とモダンデザインの融合
上の写真の照明は川村忠晴さんというアーティストの作品で、十数年前に家具を見に行ったギャラリーで偶然出会い、一目惚れして購入したものです。彼の作品はどれも、ホウズキやススキ、麦などの植物がランプシェードのごとくあしらわれ、自然素材の素朴なうつくしさと、モダンなデザインのかけ算が見事というよりほかにありません。また彼の作品からは、自分が日本人に生まれたことを喜ばしく思える懐かしさが感じられます。見る人をほっとさせてくれる、そんなやさしさのあるグッドデザインですね。
実はこの照明に出会って、僕のあかりに対する概念は全く変わってしまいました。日本に生まれ育ち、照明イコール明るいものという日常にすっかり慣らされて、疑問すら感じていなかったのです。今では光と影の醸し出すうつくしさに目覚め、自然木や建物のライトアップにも大いに興味を抱いています。照明の光源が直接見えなかったりすると、いったいどこから照らしているのかと気になって仕方がないほどです(笑)。
せっかくの秋の夜長。虫の声に耳を傾けるもよし、月を愛でるもよし、読書に耽るもよし、もちろん一杯やるもよし……。みなさまも、やわらかなあかりを愉しみながら、今年の秋をすごしてみてはいかがでしょうか。