第32回 Wonderwall 片山正通×M.Y.LABEL 吉田眞紀対談(1)
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2015年5月11日

第32回 Wonderwall 片山正通×M.Y.LABEL 吉田眞紀対談(1)

第32回
Wonderwall 片山正通×M.Y.LABEL 吉田眞紀

「男の好きなモノ」……(1)

M.Y.LABELのショップデザインを手がけた、いままさに世界を股にかけて活躍するインテリアデザイナー、Wonderwall 片山正通氏と、M.Y.LABEL 吉田眞紀氏の対談です。それぞれ独自の世界観でクリエイティヴな活動をつづけ、友人でもあるふたりが「自分の好きなモノ」をもちよって、モノ選びの視点からデザインに対する思考回路に至るまでを大いに語り合いました。

まとめ=戸川ふゆきPhoto by Jamandfix

ストーリーのあるものに、なんだか惹かれてしまう

吉田 7~8年前に片山くんが載ってた自動車雑誌のインタビューを僕が偶然に読んで、「コイツ絶対面白い!」と思ったのが、そもそもの出会いのきっかけなんだよね。それから縁あって、この『M.Y.LABEL』ショップもデザインしてもらって……。お世話になってます。

片山 いえいえ。いやぁ眞紀さん、きょうはほんと、ひさしぶり。

吉田 ひさしぶりだよね。予想どおり、いろいろ変なモノ持って来たね~(笑)。

片山 これね、かわいいでしょう。家庭用の「手回しの小さいミシン」で、アメリカでつくられて日本に輸入されたモノなんですよ。日本語の取扱い説明書と保証書もちゃんとあるの。1860年(大正5年)って書いてあるでしょう?

吉田 ホントだ。かわいいね~。実際に使われてたモノなんだ。(取扱い説明書を手にとって)「米国ニューホームミシン會社」って書いてある。このマークも、かなりアールデコしてるね。(木製の)ケースは、日本製?

片山 う~ん。このテイストは日本でつくられた感じですね。和洋折衷でまたいいんですよ。このミシン、アメリカでつくられて日本に輸入されたあと、取扱い説明書も日本語でわざわざつくられて……。っていうストーリーを聞いたら、もうがぜん欲しくなっちゃって。べつに使うわけじゃないのに。だれも買わないだろうなっていうモノが好きなんだよね、なんか……(笑)。

吉田 片山くんは、もっと感覚的に、直感的にピッときたモノを買うのかと思ってたけど、以外と理屈っぽかったんだね(笑)。

片山 もちろん、そういう直感的なときもあるけど、僕はそのモノにストーリーがあると余計に好きになるんですよ。このミシンも、日本製のケースと翻訳された取扱い説明書がついていたから買ったようなもので……。

吉田 じゃ、ある意味、この取説の方が大事なんだ(笑)。なるほどね~。

「好き」でつくられたモノには色気がある

吉田 僕が持ってきたのは、アメリカのRONSON社製の「ペンがついているライター」。一応、フルバージョン揃ってて、プライスリストもついてる。僕はこのシリーズが大好きなの。自分がペンをつくるきっかけになったモノだしね。

片山 そうなんだ。ロンソンていう会社はいまでもあるの?

吉田 うん。あると思う。ライターのメーカーだから。僕がいちばん最初にこのペン型ライターを知ったのはまだ10代のころで、古いカタログかなんかで見かけて、かっこいいなぁと思ってたんだ。それが大人になってから、ニューヨークの汚い骨董屋で見つけて、これは見たことがあるぞと思って、まずは一本手に入れたの。不思議なもので、こういうのってなんだか自然と集まってくるみたいで、それからパリやほかの場所でも出会って、いま結局、手元に9本あるんだ。古いのは1920年代のモノで、だいたいは1930年代の製品。このペンタイプのライターは、ロンソン社が4~5年の間だけつくっていたモノらしいの。
どうやら僕は、1930~1940年代につくられた、いろんなモノが好きみたいなんだよね。全体的にエレガントな雰囲気があるというか……。

片山 そのころって、デザインに色気がぎりぎりある時代なんだよね。ブルジョワに向けてつくった感じが残ってるっていうか。ジャン・ミッシェル・フランクの家具なんかもそうなんだけど。1930年代は家具がまだ量産されてなくて、ひとつひとつ、顧客のためにつくられていたんですよ。階級社会のフランスでは、インテリアデザイナーよりもブルジョワのためのデコレーターが輝いていた時代。建築や家具も、1950年代からはガラッと変わるんだよね。

吉田 なるほど、そうなんだ。なんかわかった気がするよ。僕はいまのモノづくりって、万人に気に入られようとして、みんなの好みに合わせすぎていると思うんだよね。最初にマーケティングありきっていうか。1930年代ころのモノは、そういうのがまったくなくて、自分の好き嫌いで楽しんでつくっている感じが、すごく好きなんだよね。「気に入ったら買ってください」っていう感じが(笑)。

機能が自然とデザインされた美しさ

吉田 (サビだらけのオブジェを手に取って)これはまた、いったい何? すごい凝ったかたちだけど。

片山 これはね、1800年ごろにパリで使われていた「雨どい用のフィルター」なんだって。雨どいに入った葉っぱを詰まらせないようにするもの。日本人ならきっとこの部分をメッシュみたいなモノにしちゃうよね? 雨どいの中に入っているから人目に触れることはないはずなのに、そこはさすがフランス。機能が自然とデザインされているんです。しかもこれは、長年雨水にさらされて自然と錆びがついている感じもいいんですよ。その頃は、きっとパリではポピュラーなものだったと思うんですけど。

吉田 やっぱり、ストーリー好きなんだ(笑)。ニコニコしちゃってるよ、顔が。

片山 持っていても何の役にも立たないんだけど、ストーリーがあるとどうしても気になっちゃうんですよね。そのモノを取り巻く時代のムードや風景、それと生活が想像できるから、欲しくなっちゃうんです。


Wonderwall 片山正通
インテリアデザイナー

1966年生まれ。2000年ワンダーウォール設立。建築デザインディレクション、プロダクトデザインなども手掛け、独自のバランス感覚とデザイン構築力で海外からの評価も高い。2003年に初作品集「Wonderwall Masamichi Katayama Projects」が海外出版社より刊行。現在第2作目を制作中。

公式サイト│http://www.wonder-wall.com/

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