第33回 Wonderwall 片山正通×M.Y.LABEL 吉田眞紀対談(2)
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2015年5月11日

第33回 Wonderwall 片山正通×M.Y.LABEL 吉田眞紀対談(2)

第33回
Wonderwall 片山正通×M.Y.LABEL 吉田眞紀

「男の好きなモノ」……(2)

インテリアデザイナー、Wonderwall 片山正通氏と、プロダクトデザイナー、M.Y.LABEL 吉田眞紀氏の対談の2回めは、おたがいの好きなモノを披露しながら、その理由に感心したり、共感したり、驚いたりと、ますます盛り上がります。何気ない会話のなかには、ふたりのモノ選びの視点があちこちに……。

まとめ=戸川ふゆきPhoto by Jamandfix

なくても生きていけるけど、あると幸せを感じるモノたち

片山 (ミニカーを手にして)これ、シトロエンだよね?

吉田 そう。ちょっとガキっぽいんだけど。手に入れたのは20年くらい前になるんだけど、この「シトロエンDS(アバン)のミニカー」は、1964年の冬季オリンピック・インスブルック(オーストリア)大会の特別バージョンなんだ。(※1992年までは、夏季冬季ともおなじ年にオリンピックが行われていた)

僕はすっごくスキーが好きだから、店で偶然これを見つけたとき「へへへ。見つけちゃったもんね~!」って感じで、かなりうれしかった(笑)。内装がまたいいの。車中に乗ってる人が、このスキーをはいてストックもこうやって持っちゃったりするわけ。そこまでできたら運転席にもぜひ座って欲しかったんだけど、残念ながらそれはできなくて、ドライバーは普段ラゲッジスペースに転がってます(笑)。

片山 ほんとだ、笑える。でもよくできてるよね。

吉田 シトロエンっていう会社は、高級なモノをつくろうっていう考えがあんまりないんだよね。この時代は、いまでもときどき街で見かける2CVという庶民のクルマと、歴代の大統領も乗っていたDSの2車種だけだったし。

片山 そうなの? それは知らなかったな。

吉田 このヘルメットは? 材質は、あ、皮なんだ。硬いや。

片山 炭坑夫がかぶっていた「皮のヘルメット」なんだ。1800年代のモノで、皮製なんだけど、パっと見たところ、鉄っぽく見えるんだよね。

吉田 これはもしかしたら、現在アメリカの建築現場で使われているヘルメットの原型になってるかもしれないよね。真んなかにリムが入ってるし。それにしても、変なモノが好きだよね(笑)。

片山 ほんとにそう。手に入れたところで満足して、ちっとも使わないし、ケースに入れてディスプレイすることもないし、とくにこだわっている素材があるわけでもないし……。でも、今日もどれを持って行こうか迷うくらい、いろいろ持ってるんです(笑)。「生きていく上で必要じゃないモノにも存在価値がある」っていうところがいいんだよね。極端にいうと、眞紀さんのアクセサリーだってそうじゃないですか? なくても生きていけるけど、あると幸せになるっていう感じ。

吉田 そうそう、すごくよくわかる! 役に立たなくても、持っていたいモノってあるんだよね。(ミニカーを見つめて)……たしかに。

古いモノだけがいいわけではないけれど……

吉田 これはロンドンのホテル・サヴォイの、カクテルのレシピブック「The Savoy COCKTAIL BOOK」。僕は三度のメシよりお酒が好きなので(笑)。これも多分1940年代のモノだな。

片山 これは、かわいい! このころのモノの方が、かえってアバンギャルドな雰囲気がありますよね。「あのサヴォイの……」って言われなかったら、いまのデザインとカンちがいしてもおかしくないですよね?

吉田 ただのレシピブックといわれればそうなんだけど、誌面のデザインも、シルク印刷のようなベターっとした感じもまた気に入ってるの。見て、これ。

片山 わかるわかる。昔の印刷は、紙の厚さやザラっとした手触りや、しなっとした紙の奥行きまでちゃんと使って表現されてるんだよね。それがまた、手に取った人間にもしっかり伝わるから。

吉田 ほんとキレイなんだよこれ。眺めてて飽きないし。

作為的ではないモノがもつ強さ

吉田 ところで、そっちのは何?

片山 (木製の彫刻物を手にして)これはねー。なんだかわからないでしょ。(笑)「懺悔棒」って勝手に呼んでるんだけど。教会には懺悔をするための個室(コンフェッションルーム = 告白室)っていうのがあって、その小部屋のてっぺんについていたデコレーションらしいのね。これはヨーロッパのモノみたい。この装飾は、自分のエゴからではくて、いろいろなチカラにつくらされている感じが、なんか好きなんですよ。

吉田 すごいね、たしかにこれは。意図的に狙っている感じがしないよね。

片山 自然とこうなっちゃった……みたいな感じ。そういうところに僕は純粋なオーラを感じるんですよ。

吉田 この装飾に惹かれたのはすごくわかるな……。(まじまじと眺めて)ここに継ぎ目があるから、べつに一本の木から彫り出したモノではないんだね。

片山 作為的な感じがしないところが、いいんですよね。店に行くと僕を呼ぶんですよ、こういう変わったモノが「買ってくれ~」ってね(笑)。

吉田 片山くんは、その引きが強いんだよね、きっと人の何百倍も。僕にはちっとも聞こえないもの(笑)。


Wonderwall 片山正通
インテリアデザイナー

1966年生まれ。2000年ワンダーウォール設立。建築デザインディレクション、プロダクトデザインなども手掛け、独自のバランス感覚とデザイン構築力で海外からの評価も高い。2003年に初作品集「Wonderwall Masamichi Katayama Projects」が海外出版社より刊行。現在第2作目を制作中。

公式サイト│http://www.wonder-wall.com/

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