Chapter17:南アフリカ/ゲットーから
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2015年5月1日

Chapter17:南アフリカ/ゲットーから

Chapter17:南アフリカ/ゲットーから

2008年3月3日から4月8日まで「African JAG」のメンバーとしてマラウイ、南アフリカの支援および視察に行ってきました。今回は、南アフリカ/ゲットーの最新情報をお伝えします。

2010年にワールドカップを控え、国のあらゆるところでスタジアムや地下鉄の工事が行われている南アフリカ。ちょうどこの時期、ケープタウンで年に一度行われる“JAZZフェス”にあたり世界中から観光客が訪れていた。 現在、南アフリカにおいては、いわゆる都市、観光地のホテルや別荘は、アフリカとは思えないほど立派な建物で、レストランでは先進国と同じようなものが気軽に食べられる。日本料理屋ももちろんあり、そこそこ美味しかったりする。ただし、料金も相当高く、3人で軽く飲んで食事をすればすぐにUS$100はいってしまう。到底、この国の通常世帯が支払える額ではない。ヨハネスブルグで労働者階級の一ヵ月の賃金を聞いたら約US$400~US$500、ゲットーに住む人々は、US$200ほど。スラムに住む人は、月US$100にも満たない。それでも他のアフリカ諸国の平均に比べれば相当高いが、物価も高いから結局は同じことだと思う。ともかく、南アフリカの二極化は、相当進んでいる。
そんな中、今回はいわゆるゲットー、スラムに入り、そこに住む人たちの生活、現状を取材することができた。

Chapter17:南アフリカ/ゲットーから

<ソゥエト/ストリートLIVE>
数年前までは、アフリカで一番危険な地域といわれていた“ソゥエト”。強盗や殺人、銃の氾濫がいわれ、夕方以降は、決して近づいてはいけないと念を押されていたところだ。
今回、そのソゥエトでストリートLIVEが行われるという情報を入手。どうしても行きたくて足を踏み入れた。
夕方5時。あたりが徐々に暗くなっていく。住宅街を抜けると少し危なそうな気配のエリア。人影も疎らで何となくゾクゾクする。しばらくすると空き地があり、数人の若者がたむろしている。“絶対ここだ!!”と直感。

Chapter17:南アフリカ/ゲットーから

空き地から裏路地に入る。薄暗い裏路地。舗装されていない道。その途中に簡易テントと簡単なステージが組まれている。そこが、ストリートLIVEの場所。チョット危なそうな地元の若者たちが集まっている。白人もカラードもまったくいない。葉っぱの匂いが強くなる。私たちは、真っ直ぐにテントに向かった。みんなの視線が一気に向けられる。でもビビルことはない。

テントの中には、このLIVEのオーガナイザーだというDJの若者がいた。私は、自分の職業とJAGのことを話
し取材したいと申し出た。彼は、笑顔でOKしてくれた。
MCがステージに上がるまで私たちは、続々とその場所に集まってくる若者たちにインタビューをした。

Chapter17:南アフリカ/ゲットーから

「俺たちは変わったんだ。自分たちの手で。以前は、この街にたくさんのギャングがいた。今もいないとはいえない。でも銃を持っている奴はここから出て行った。ここには、政府が用意したポリスもいらない。コミュニティ・ポリス(自警団)で充分だ。俺たちには、音楽がある。銃を捨ててマイクを持て!!ってこと。ソウェト、最高!!」……なんか、感動した。胸を張って自分たちの街を最高!!って、言える若者たち。みんな、目がキラキラしていた。なんか最近忘れかけていた感覚……自分の原点を感じた。

Chapter17:南アフリカ/ゲットーから

午後6時を過ぎた頃、辺りはもう暗くなっていた。テントの中でDJがレコードに針を置く。そこには、決して充分とはいえない機材。日本だったらもう誰も使っていないような古いもの。スピーカーもマイクも安物。照明もない。でも彼らにはそんなことはどうでもよかった。ステージの周りにはいつの間にか数百人の若者が集まってきていた。
MCがマイクを握る。歓声が上がる。こらえきれない興奮。MCが次々に替わっていく。リリックに耳を傾ける若者たち。キチンと歌詞を聴き、反応する。さまざまな反応。有名とか、無名とか関係なく、仲間が発するメッセージを本気で受け止める。彼らは、自分たちの手で
未来を変えようとしていた。

“銃を捨ててマイクを持て!!”
ストリートから発するメッセージは本物だ。

Chapter17:南アフリカ/ゲットーから

<ケープタウン/ゲットー&スラム>
ケープタウンの空港を車で出て左に曲がるとすぐにスラムと思われる一帯が目の前に現れ、それが延々と続く。ここが、Nyanga、Langa、Guguletu……etc.といわれ、数十万人が暮らすゲットー。ただし、そのほとんどがスラムで板張りの家にトタン屋根。最貧困層が暮らしている。
このエリアは、今でこそ多少安全になったというが、それでも数多くのギャングスターが存在し、その30%
が銃を保有しているのだそうだ。ドラッグも蔓延しているという。

Chapter17:南アフリカ/ゲットーから

そして、そのほとんどが、アパルトヘイト撤廃後、海外から入ってきているものでヘロイン、コカイン、LSD、エクスタシー、そして今、一番問題になっているのが“TIC”といわれるドラッグ(南アフリカ製)で11歳くらいの子供も使用しているという。そのドラッグを使用すると平気で人を殺せるのだそうだ。ドラッグを使用して飲酒をし、SEXをする。もちろん、コンドームなどは使用せず、そのため、HIV/AIDSに感染する子供が増えている。TICの価格はR30.約400円。簡単に入手できる。このドラッグは、今、南アフリカで大きな問題になっている。

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Nyanga(ニャンガ)
ともかくパトカーの数が異常に多い。パトカーといってもただのパトカーではなく小型のバスで、窓には鉄条網が張られ、その中に5人~6人の警官が乗り込んでいる。私たちが、車で走っていると後ろからすぐに止められた。「このエリアは、危ないから充分注意するように!!」というお達し。ここにも白人、カラードの姿は一切ない。確かにメインストリートから一本中に
入ると人々の目つきが変わる。しかし、こちらから微
笑みかけると誰もが微笑み返してくれるし、親指を立てて歓迎してくれる。それでも私たちだけで車の外に降
りることはできなかった。まずは空気を感じ取ること。

Chapter17:南アフリカ/ゲットーから

Guguletu(ググレト)
……ラガマフィンのMCであり、ソーシャルワーカーの肩書きを持つTEBAが、私たちを案内してくれた。彼はここググレトの出身。ゲットーでの生活は、非常に厳しいものだったという。多くの教育を受けられない人々は、ゲットーの中でギャングに
なっていく。ドラッグに溺れ、死んでいく人々。アパルトヘイト撤廃後、政府は無料の教育を約束した。しかし、14年たった今もその約束は果たされていない。ゲットーに住む親たちは、自分の子供たちがギャングにならないように、少しでも明るい未来が訪れるようにと子供が学校に行くためのお金を工面する。しかし、それはここゲットーの中では容易なことではない。

ググレトでは、ラッパーのクロスビーの家にも遊びに行った。26歳の彼は驚くほど自分の意見を持っていて、今の南アフリカの問題を熱く語っていた。(このインタビュー内容は、African JAGのHPに掲載するのでそちらを参照してください!!)

Chapter17:南アフリカ/ゲットーから

クロスビーは、私たちをニャンガにあるラスタのコミュニティに案内してくれた。コミュニティに入った途端、
警察の車が後ろにつき、車を止められた。私たちがクロスビーに拉致されたとでも思ったのだろうか……車を止めるとすぐに5人の警官がものすごい形相で降りてきた。私が「彼は友人だから……」と言うと警官の顔が笑顔になり「この辺は危ないから、なるべく早く出なさい」と言ってパトカーに戻って行った。どれだけ危ないところなのだろう……。その後も警察は、私たちがコミュニティを出るまで近くをパトロールしていた。音楽の話をして子供たちと遊んでいただけだし、正直、みんなPeaceな奴らだったんだけど……。

Chapter17:南アフリカ/ゲットーから

スラムに住む人たちの生活は、かなり厳しい。板張りにトタン屋根の家は、冬になると凍死するほど寒いのだそうだ。アフリカと聞くと“暑い”と思う人も少なくないだろう。しかし、ここ南アフリカは南極に近く、4月頃から8月末ぐらいまでものすごく寒くなる。以前7月に来たときは氷点下1℃だった。もちろん、スラムに住む人の家には電気もない。暖を取る術がない。小さな家で家族全員が肌を合わせて眠る。そして夏になると家の中は50℃近くにもなる。ここの子供たちの多くは、貧しくて学校に行くことができない。ケープタウンには、そのスラムが数十キロに渡り存在している。ここがソゥエトのように変わっていくには、もう少し時間が必要なのかもしれない。

今回私たちは、非常に貴重な経験をすることができました。南アフリカは、今、大きな変化の時を迎えています。それが、どういう方向に行くのかは、今の若者たちの意識にかかっていると思います。問題は山積みです。しかし、南アフリカの若者たちの意識は、しっかりと前を向いていました。その前を向いている彼らの意識が、純粋なエネルギーが、“絶望”に変わらないことを私は祈りたいと思います。そして 私に自分の表現の原点を思い出させてくれた彼らに感謝!!

African JAG Project/ 浅野典子

※ African JAG ProjectのHPのアドレスが変わりました。
新しいアドレスは、www.africanjag.org になります。

           
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