第24回 TERAKOYA 間 光男×M.Y. LABEL 吉田眞紀対談(3)
第24回
身近なグッドデザイン
対談|TERAKOYA 間 光男×M.Y. LABEL 吉田眞紀
「グランメゾンとそのカトラリー」.....(3)
フレンチの精神、料理人の哲学についてお話をうかがってきた対談もシリーズ3回め。今回からは料理に華を添えるカトラリーにフォーカスしていきます。日用品とはちょっと縁どおいグランメゾンならではの豪華なカトラリーに、プロダクトデザイナー吉田眞紀は目を輝かせているようで……。
構成と文=秦 大輔Photo by Jamandfix
魚用ナイフとステーキナイフ
間 きょうのために埃まみれになりながら蔵から引っ張り出してきました(笑)。創生期の頃のものが多いですね。
吉田 ありがとうございます。蔵、たのしいカトラリーの宝庫だろうなぁ。
間 こちら(上写真左側の3本)は魚用ナイフですね。魚ですので切れ味うんぬんではなく、押して切る感じで使うものです。またこういうのは邪道なんですが『ステーキナイフ(魚用ナイフの右側3本)』といってギザギザがついているものもあるんですよ。あまりグランメゾンとよばれるようなレストランでは使いませんが。
吉田 筋の入った肉は出さないというコトなんですか?
間 どうでしょう(笑)。ステーキナイフとしてはライヨール(フランスの老舗カトラリーブランド。連載第13回を参照)のものが一般的です。ただこれを使うと当然、お皿にもキズがついてしまうんですよ。
吉田 これ、僕も前から買おうと思っていて。なんかいかにも切れそうなフォルムをしていますよね。
間 そうですね。こういうのを見るとフランス人って狩猟民族なんだって気がします。ヨーロッパの人たちは肉を噛み切ることにおいしさを感じるらしいんですよ。だからモチやトロロといったフニャフニャした食べ物は好きじゃない。パリッとしたクリスピィな食感をだいじにするんです。
吉田 ヘルシー食として向こうで流行している“トウフ”は例外なんですね。
いいとこどりの異端カトラリー『ソーススプーン』
吉田 ソーススプーン(上写真)ってあるじゃないですか。これって家庭からいちばんとおいカトラリーな気がするんですよ。イタリア料理じゃ見たことない気がするんですが、フランス独特のものなんですかね?
間 私も歴史的に詳しいわけではないのでわかりませんが、歴史的にはそんなに長いものではないと思っています。スプーンとフォーク、ナイフの機能のいいとこどりをしたのがソースプーンなので、ソースがおおめで柔らかいお魚料理の際にセッティングすることがおおいですよね。
吉田 このくぼみには何か意味があるのでしょうか?
間 おそらく由来があるんでしょうね(笑)
銀食器の王道ブランド『クリストフル』
吉田 (ソースプーンもクリストフルのものですが)じつはウチもお客さま用のカトラリーにクリストフルのものを使っているんですよ。おなじだったからうれしいなと思って。
間 パールとよばれているものですね。シンプルでいいですよね。ご存知かと思いますが、ちいさな刻印が入っていることで、素材が洋白(ニッケルシルバー)であることと銀メッキの厚さを証明しているんですよね。クリストフル製品でも刻印がないものもありますが、こちらは銀メッキの厚さ40ミクロンの製品です。
ヨーロッパでは銀製品は親から子へ、孫へと受け継いでいく財産。だから王家の紋章やイニシャルを刻印したりというものがおおい。むかしの貴族は家計が傾くと銀器を質に入れて足しにしていたらしいですね。
吉田 だからいま、アンティークのカトラリーを僕らが買えるわけですね(笑)。
間 ですね(笑)。そうそう、日本は貨幣を『お金』っていいますがフランスでは『アルジャン(銀)』といいます。幕末のころの日本では金1に対して銀5だかの破格に安い交換比率があって、だからヨーロッパ人はしめしめと大量に交換したらしいです。ヨーロッパは金の産出量が少ないんですからね。
吉田 たしかに、どんなレストランへ行っても金の食器が並べられることはないですもんね。
贅を尽くしたキャビアスプーン
吉田 グリップが銀で本体がホーンですね。さっきから拝見していて、これは豊かなプロダクトだなって思っていたんですよ。
間 これは眞紀さんが好きだろうなと思っていました。
吉田 欲しいんだけど、キャビア食べるためにコレをもっているのもイヤらしいし(笑)。プレゼントとしてキャビアスプーンを購入したことはありますけど、自分用というのはさすがにね。それはそうとホーンのキャビアスプーンは見かけますが、コンビ素材のものを見たのははじめてです。
間 食べたときにヒヤッとしない、またイオン化傾向によって変質しないためにバッファローホーンを用いるんですよね。キャビア専用の機能に特化したカトラリーといえますね。もしかすると、こういういつ使うかわからないような大仰なものを備えているのがグランメゾンなのかもしれません(笑)
吉田 でもゲストのリクエストに応じて食材を用意することもあるわけじゃないですか。するとこういうものも備えていなければいけないわけですもんね。
野性味あふれる装飾のカービングナイフ
吉田 またふるそうな食器ですが、いまも使っているものなんでしょうか?
間 使ってないですね。ドイツ製のカービングナイフで、グリップの素材は鹿の角です。二代目の叔父が昭和30年代前半にヨーロッパで買ったものですが、さすがに現行品でこういうデザインは見ませんね。
吉田 カッコいい(欲しい)! やっぱりこの装飾性は豊かさの象徴なんでしょうね。こういうものって本来はオーダーだから、いかに自分の好きな作家に凝ったものをつくらせるかというのが粋だったのでしょう。
間 狩りで獲った鹿の角でまた道具をこしらえさせて。狩猟民族らしいジビエを感じますね。
身近なグッドデザイン 番外編対談
TERAKOYA 間 光男×M.Y. LABEL 吉田眞紀「グランメゾンとそのカトラリー」.....(最終回)に続く
TERAKOYA
東京都小金井市前原町3-33-32
Tel. 042-381-1101
ランチ12:00~15:00 ディナー17:30~22:30
定休日 毎週月曜日、第一火曜日
http://www.res-terakoya.co.jp
profile
TERAKOYA オーナーシェフ
間 光男さん
1965年、生家であるレストランTERAKOYAに生まれる。幼い頃から食に親しみ、19歳より料理界へ。ほぼ独学にて自身の料理スタイルを修め、1991年より3代目オーナーシェフとしてレストランを引き継ぐ。料理創作数は3,000を超え、『料理の鉄人』などの料理番組にも出演。料理専門誌からの信望も厚い。