第25回 TERAKOYA 間 光男×M.Y. LABEL 吉田眞紀対談(4)
第25回
身近なグッドデザイン 番外編
対談|TERAKOYA 間 光男×M.Y. LABEL 吉田眞紀
「グランメゾンとそのカトラリー」.....(4)
番外編シリーズ最終回も引き続きカトラリー談義。機能性について進化の余地を考察するとともに、長い料理の歴史が生んだカトラリーの「モノとしての豊かさ」を再確認します。今度レストランへ行く際は、並べられた食器にも目を配るとおもしろいかもしれませんよ!
構成と文=秦 大輔Photo by Jamandfix
これまでのカトラリーはちょっと大きい!?
吉田 新しいカトラリーが欲しくて探しまわっているのですが、ヨーロッパのカトラリーってカッコはいいのだけど、ちょっと大仰すぎてあんまり機能的ではないな、と思ってしまうことがあるんですよ。重量にしてもサイズにしても若干おおきい気がするんです。そのあたり、間さんはどう思われますか?
間 そのとおりだと思います。というのは、むかしは前菜とメイン、で、最後にデザートがつくというメニュー構成だったので、ひとつの料理の量がおおかったんですね。山盛りの料理を食べるのに、大ぶりの食器の方が使い勝手もよかったのでしょう。でもいま、TERAKOYAのコース料理で12~13皿あるわけです。そう考えるともう少しちいさなカトラリーの方があうかなと思いますね。
吉田 やっぱりそうですか。
間 もともと純銀製のナイフやフォークが洋白製にとって変わったというのも、じつは重くて使いづらいというのを克服するためにクリストフルの創業者が洋白のカトラリーをつくったら大当たりした、という経緯があるそうです。
吉田 なるほど、これでもクラシックなものに比べれば軽くなっているんですね。じゃあ時代がさらに変わっているのだから、そろそろもうすこし進化してもいいわけですね。
間さんには以前もお話しましたが、じつはいつかカトラリーをつくりたいなと思っているんです。でもチタンやアルミを使ったりとか、そういうものでは決してないと思うんですよね。やっぱり、ボリュームに対する重量の安定感ってあるじゃないですか。それについては洋白はいい素材だと思っています。
間 ほんとうにそうですよね。僕も山登り用のチタンカトラリーをもっているのですが、軽ければいいというものではない。
吉田 たしかに、僕ももっているけどアレで食べてもなぜかおいしさが感じられない(笑)
間 ちなみに現行のカトラリーって、そういう重さや手にしたときの重量バランスなども考えてデザインされているものなんでしょうか?
吉田 もともとは考えられていたんでしょうけど、いまはどうでしょう。さきほどの話(対談第1回参照)ともリンクするんですけど『これはこういうものだ』とそのままにしていることっておおい気がして。ただ、機能ばかりを優先してしまうと豊かさがなくなってしまう気もします。
間 楽しみが削がれていってしまう。
吉田 デザイナーはそのへんのサジ加減というのが難しくもあり、おもしろくもあり、です。
間 料理でいえば『塩梅』ですね。僕は科学的に考えると塩梅も百分率だと思っています。クラシックに振るのか、ヌーベルに振るのか、右脳と左脳どちらで食べさせるのかを、0~100までの百分率で考えるんです。プロダクトデザインにおいても、機能とデザイン性の百分率を決定する権限者がデザイナーとはいえないでしょうか?
吉田 なるほど、そういうことちゃんと考えたことなかったな(笑)
クラシカルな趣ながら機能的なコークスクリュー
吉田 これもまたものすごくクラシックなデザインですよね。
間 眞紀さんがコークスクリュー好きだとオウプナーズで拝見していたので喜んでくれるんじゃないかと思っていました。
吉田 ええ、うれしい(笑)。でもクラシックなものまで集めようとすると本当にキリがなくなってしまうので、買うのはコークスクリューでもソムリエナイフ型だけに限るという自分ルールを敷いているんです。
間 たしかにここまでいくと博物館の世界ですもんね。でもこれ、意外と機能的にコルクを抜けるんですよ。
吉田 あっ、これ、コルクを抜く角度が途中で自動に変わるようになってる。つくった人はアタマがいいなぁ。でもさすがにいまは使ってないですよね?
間 はい。みんなそれぞれ自分用のソムリエナイフをもっています。サービス人が帰ったあとでワインを飲みたいな、と思ったらソムリエナイフがなくて自宅までとりに帰ったことがありますよ(笑)
吉田 あくまでパーソナルな道具なんですね。美容師でいうハサミみたいなものかもしれませんね。
間 ええ。ソムリエナイフって最初はカシメが固いじゃないですか。それが使ううちにだんだんスムーズになっていき、最後はさっと下に向けるだけで開閉できるようになる。僕なんて滅多に使わないからずっと固いままですけどね。
家庭では見られない、機能に特化したカトラリー
間 おおぶりのお玉はフルーツパンチをすくうためのパンチレードルというものですね。こぶりのお玉はソース用のソースレードル。むかしはソースをドバッとかけたのでこういうものが必要だったんです。だからソースを入れておくチュウリン(カレーの容器でもお馴染み)もおおきかった。右のひらたいカトラリーは切り分けたケーキをのせるサーバーです。
吉田 これらも家庭ではありえないプロダクトですね。ちなみにこのトレイって何に使うものなんでしょうか?
間 お皿を部屋の前までこれにのせて運び、黒服のサービス人がそれを受け取ってお客さまにお出しするんです。厨房からお皿を直接持って行ってお出しするのはカフェのスタイルですね。
吉田 そうか、そういうスタイルもグランメゾンの要素のひとつかもしれませんね。
間 そうですね。すると必然的にサービス人の人数も多くなくてはいけない。黒服がクロッシュを開けて料理の説明をして……という儀式ばったこともやります。むかしは『これからこの食材を調理します』といって毛がついたままの野鳥をうやうやしくお客さまにお見せしたりもしました。
吉田 そういえばこれからはジビエのおいしい季節になるわけですね?
間 ええ。ただ、いまはワシントン条約といった規制もおおいんですよ。たとえばツグミやライチョウはもう食べることができません。
吉田 ライチョウは日本でも天然記念物ですからね。やっぱり食べたらおいしいんでしょうか?
間 らしいですよ。もちろん僕は食べたことありませんが。
吉田 でも富山のほう行ったら食べてる人、いるんでしょうね(笑)
間 人間の食への欲求というのはスゴいですからね(笑)
吉田 きょうはありがとうございました。
TERAKOYA
東京都小金井市前原町3-33-32
Tel. 042-381-1101
ランチ12:00~15:00 ディナー17:30~22:30
定休日 毎週月曜日、第一火曜日
http://www.res-terakoya.co.jp
profile
TERAKOYA オーナーシェフ
間 光男さん
1965年、生家であるレストランTERAKOYAに生まれる。幼い頃から食に親しみ、19歳より料理界へ。ほぼ独学にて自身の料理スタイルを修め、1991年より3代目オーナーシェフとしてレストランを引き継ぐ。料理創作数は3,000を超え、『料理の鉄人』などの料理番組にも出演。料理専門誌からの信望も厚い。