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第22回 TERAKOYA 間 光男×M.Y. LABEL 吉田眞紀対談(1)
第22回
身近なグッドデザイン
対談|TERAKOYA 間 光男×M.Y. LABEL 吉田眞紀
「グランメゾンとそのカトラリー」.....(1)
有名無名あらゆるプロダクトに目を向け、その魅力を探るプロダクツデザイナー吉田眞紀による連載。番外編と題した今回は趣向を変え、武蔵小金井で1954年創業のフレンチレストラン『TERAKOYA』を営むオーナーシェフ、間 光男さんとの対談をとおして、料理と、料理を楽しむためのカトラリーにスポットを当てます。シリーズ第1回は間さんのレストラン哲学についてお話をうかがいます。
構成と文=秦 大輔Photo by Jamandfix
手間を惜しまないTERAKOYAの料理に思わず顔がほころんだ
吉田 旧交詢社ビルにあったビアレストラン『ピルゼン』のパーティで紹介されたのがお付き合いのきっかけですね。
間 その後はスキーにもご一緒させていただいて。
吉田 じつは子供のころちょくちょくTERAKOYAさんには親に連れられて来たことはあったんですけどね。あらためて料理をいただいたときに『この人バカでぇ~!』と思ったんですよ(笑)、もちろんいい意味で。モノづくりもそうですが、損得勘定でやっているとどんどんつまらないものになるじゃないですか。それが間さんの料理は、何から何まで手間暇をとにかく惜しんでいない。おどろきました。
間 ありがとうございます。やりたいからやっているだけなのですが(笑)。最高の素材を使い最高のアイデアをもって最高に手間をかけたものを、よりリーズナブルにお出しすればお客さまに喜ばれます。月並みですが、僕はそのとおりするのがいちばんだと思っているんです。
吉田 なるほど、よくわかります。きょうお出しいただいた料理のように、間さんの料理は『うわっ、何だろうコレ!?』という視覚的に惹きつけられるものと、純粋に『おいしそう!』と思わせるものがあって、一皿一皿にリズム感がある気がしますね。
間 まさにそういうコンセプトをもってつくっているので、感じていただけてうれしいですね。眞紀さんの作品に人柄が表れているように、料理にも人柄って出るんですよね。すごく遊びがあったりとか、ド真ん中のストライクを狙っていたりとか。
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エビや白身魚、生タコを、トマトやハーブ、黄カブのパスタでサンドした前菜。左はアーモンドやアサリ、クリームからなる『貝のミルク』。お皿に彩られた装飾は黒オリーブとビーツのソースによるもの。幾重にも渡る手間と料理の美しさ、旨味のバラエティに驚かされる
教科書どおりにはしたくない!
吉田 間さんは2ヵ月に1回、料理のメニューを変えて、しかも一度メニューに載せた料理は二度と載せないというじゃないですか。それはどういう考えからなんですか?
間 どんな商売でもおなじだと思うのですが、名物とかその人を代表する作品をつくってしまうと勉強しなくなるというか、おなじものを焼き直しでずっとやってしまうと思うんですね。するとお客さまの『また行きたい』という気持ちも薄れてしまう。(メニューを新しくし続けるのは)つぎに行ったらどんなものが出てくるのだろう、どう進化しているのだろうという好奇心をもっていただきたいからです。
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こちらはそれがプレッシャーになって、もっといいアイデアを生みたい、もっと手間をかけたいという刺激になる。新しい作品をデザイナーさんが発表するのとおなじかもしれません。眞紀さんも『これはこういうものだから』という既成概念にものすごいアンチテーゼをもっていらっしゃいますよね。
吉田 たしかに。それを言われると余計に燃えちゃうんですよね。理由を突き詰めずにできないと決めつけているパターンって多いから。
間 同感です。これは笑い話なのですが、ある料理人のタマゴ(見習い)がベシャメルソースをつくっていたんです。40分も50分も鍋をかき混ぜ、さらにまたおなじような作業を繰り返していく……で、あるとき先輩に『これはどんな意味があるんですか?』と聞いたら『粉っ気を飛ばしているんだよ』というわけです。それで『じゃあさっき煮たのはどんな意味が?』と聞けば『粉っ気を……』と。つまり作業自体がおまじないになっているんですよね。やることが目的になってしまっている。長い歴史をもったレストランとか、厳格なピラミッド組織をもった厨房にはよくある話です。
吉田 うーん、修行する若い方が気の毒ですね。
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子持ち昆布やヒラメ、水前寺海苔という和の食材を用い、ホワイトバルサミコのソースで仕上げた前菜。味の意外性、装飾の美しさともに、アーティスティックな感性にあふれた逸品
ゴージャスな空間で暖かみのあるサービスを
間 サービスについては、ゴージャスな空間で、かつ暖かみのあるサービスを、というのを心掛けています。ただ、お客さまに近づきすぎてもいけない。サービスは奉仕なので、その気持ちを大切にしたいですね。お食事の途中に会話が生まれてフレンドリーな雰囲気になったとしても、最後はお客さまとレストランという関係に戻ってお見送りするのがいちばん心地よい関係だと思います。どんなに親しい間柄でも。
吉田 そのとおりですね。レストランにかぎらず飲食店って常連になるほど距離が近くなりすぎてしまって、それがイヤになって行かなくなる店が結構多いんです。
間 よく聞く話ですけど、バーのマスターがお店が終わってからお客さまと一緒に飲みに行くとか、休日にゴルフへ行くとか、それを営業活動と思っている方がいるみたいですね。そういうことではなく、お客さまがレストランに来た数時間ですべての勝負をするのがプロなのに。眞紀さんのように、最初にお友達から入ったお客さまと遊びに行くのはもちろん別ですけど(笑)
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眞紀 パーティで会っておいてよかった(笑)
身近なグッドデザイン 番外編対談
TERAKOYA 間 光男×M.Y. LABEL 吉田眞紀「グランメゾンとそのカトラリー」.....(2)につづく
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食材は北海道から取り寄せた若い雌のエゾジカ。シカの骨で出汁をとったソースをかけたヒレ肉のロースト、そして前足の肉を栗のニョッキとともにやわらかく煮込んだ食感の異なるふたつの料理に、ジビエの野性味、旨味が余すところなく盛り込まれている
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TERAKOYA
東京都小金井市前原町3-33-32
Tel. 042-381-1101
ランチ12:00~15:00 ディナー17:30~22:30
定休日 毎週月曜日、第一火曜日
http://www.res-terakoya.co.jp
profile
TERAKOYA オーナーシェフ
間 光男さん
1965年、生家であるレストランTERAKOYAに生まれる。幼い頃から食に親しみ、19歳より料理界へ。ほぼ独学にて自身の料理スタイルを修め、1991年より3代目オーナーシェフとしてレストランを引き継ぐ。料理創作数は3,000を超え、『料理の鉄人』などの料理番組にも出演。料理専門誌からの信望も厚い。