第23回 TERAKOYA 間 光男×M.Y. LABEL 吉田眞紀対談(2)
第23回
身近なグッドデザイン
対談|TERAKOYA 間 光男×M.Y. LABEL 吉田眞紀
「グランメゾンとそのカトラリー」.....(2)
フレンチシェフの間光男さんとプロダクツデザイナーの吉田眞紀さんとの対談、その第2回。
数あるフレンチレストランのなかでも、最高に贅たくなレストランとされる『グランメゾン』。究極のレストランづくりに生涯を捧げる間さんに、グランメゾンの定義とその精神についてお聞きします。話は料理人とデザイナーの共通項にも及んで……。
構成と文=秦 大輔Photo by Jamandfix
究極のレストランとは何か!?
吉田 この建物を維持するのは大変なのでは?
間 TERAKOYAの建物のいちばん古いところは、昭和9年に建てられたものです。もともと絵描きだった私の祖父が木造の洋館を建てて、創作の場にしたんですよ。(古い建物ということもあり)毎年のように手を入れて、改装を重ねています。
オリジナルを大切にすることはもちろん必要だと思うのですが、食事をする場なので機能的でないといけない。だから骨格は古いままでも、たとえば水まわり等などのユーティリティは現代のニーズに耐えうるようアップデートしていく、というのが僕の考えなんです。
吉田 なるほど。実績があってその積み重ねがないとできないことですね。
間 ありがとうございます。『究極のレストラン』とは何か? と考えて僕が思うのは、パレスと呼ばれるようなゴージャスな雰囲気のなかで暖かみのある、かゆいところに手が届くサービス人たちに囲まれ、ブ厚いワインリストから好きなものを選び、そして新しいエッセンスを採り入れたシェフの個性が感じられるような料理が食べられるところなんです。だから(料理もサービスも建物も)一歩でもそこへ近づけられればと。
吉田 レストランの定義を考えたこともなかったけれど、聞くとなるほど、と思いますね。
間 人間とおなじように、星の数ほどあるレストランもそれぞれ人格があります。TERAKOYAの人格を考え、それをかたちにするのがオーナーシェフの仕事なんですよ。たとえばサービス人に燕尾服を着させて、イギリスの執事のように慇懃にサービスしようと思えばそれもできるわけです。ただお客さまにとっての心地よさを考えるとそれはちがう。
同様に、バターごてごてのクラシックな料理を『これこそが真のフランス料理でござい』なんてお出ししても満足していただけない。1900年前半と現在では消費カロリー自体が圧倒的にちがうわけですから、それも当然なんですけどね。
絶対的な価値と相対的な価値
間 眞紀さんの家ももともとは料亭だったんですよね?
吉田 祖父がそうでしたが、継ぐ人がいなかったんです。じつは僕も中学時代までは料理人になりたかったんですよ。でも親は料理人の大変さを直に見ているから反対されて。
料理人がいいなと思うのは、料理って音楽もそうなんだけど実体としては残らなくても印象としては心に深く刻まれますよね。僕はデザイナーの道を選んだけど、モノとしてではなく印象として残るものをつくりたいと思うことがあります。
間 僕は逆に、消化されずに残る眞紀さんの仕事がうらやましいです。ジュエリーはショーケースにある状態でも、買った人が身につけた状態でも、絶対的な価値があるじゃないですか。それにプレゼントとして貰ったものであればそのときの感情も刻まれますし、それを身につけ続けることによってちがう感情を生み続けるかもしれない。それが素晴らしい。
料理の場合、絶対値というものがありません。おなじ食事でも親しい人と席をともにすればおいしいと感じても、嫌な人と無理に食べに行ったときではそう感じない。
だからこそ、サービスや雰囲気を含めたあらゆることを大切にしなければならないんです。ミシュランのガイドブックでも必ず雰囲気、サービス、料理を評価しますから。うちは窓から見える風景が僕の料理を随分助けてくれているかもしれません(笑)
“グランメゾン”の定義とは?
吉田 間さんのお店は『グランメゾン』と呼ばれていますよね? その定義って何なのでしょうか?
間 かたちはどうであれ、フランスの根幹を体得している、理解しているお店かな、という気はします。
吉田 ホテルだと設備のしつらえによってグレードが決まったりするじゃないですか。そうではなく、あくまで精神的なものだと?
間 そういう気が僕にはします。たとえばニューヨークの一等地にあるどんな大箱のお店でも、だからグランメゾンだとは言えない。フランス文化って結局、階層社会なんですよ。レストランもシェフがいてスー(次席)シェフがいて、部門シェフがいて、給仕人たちがいて見習いがいてというピラミッド型になっているんですね。グランメゾンとは、そういう機能的な集団が出来ていることだと思います。階層がいいとかそういうわけではなく。
もちろん規模もありますし、ゴージャスなワインをどのくらい備えているとかチーズの品ぞろえはどれくらいだとか、そういうのもひとつの要素なんでしょう。ただ『仏像つくって魂入れず』では本当の意味でのグランメゾンではない気がしますね。
吉田 そうなんですか。ではグランメゾンを名のるのに資格は必要ないんですね。
間 まったくないです。
吉田 じゃあ自分で名のっちゃうか(笑)、あとはまわりがそう呼ぶかってことなんですか?
間 ええ。グランという言葉には『大きな』という意味とともに『偉大な』という意味があります。僕は自分のなかではグランメゾンたりえたいと思っていますが、自分から言ったことはまずありません。
メゾンという言葉も家そのものを指す場合とその一族を指す場合があります。フランスの料理人たちは父親が包丁をふるって竈(かまど)の前で鍋を振ってという姿を見て、代々店を継いでいく。そういう意味ではうちも三代続いているのでメゾンなのかもしれないですね。
身近なグッドデザイン 番外編対談
TERAKOYA 間 光男×M.Y. LABEL 吉田眞紀「グランメゾンとそのカトラリー」.....(3)につづく
TERAKOYA
東京都小金井市前原町3-33-32
Tel. 042-381-1101
ランチ12:00~15:00 ディナー17:30~22:30
定休日 毎週月曜日、第一火曜日
http://www.res-terakoya.co.jp
profile
TERAKOYA オーナーシェフ
間 光男さん
1965年、生家であるレストランTERAKOYAに生まれる。幼い頃から食に親しみ、19歳より料理界へ。ほぼ独学にて自身の料理スタイルを修め、1991年より3代目オーナーシェフとしてレストランを引き継ぐ。料理創作数は3,000を超え、『料理の鉄人』などの料理番組にも出演。料理専門誌からの信望も厚い。