ありふれた景色/立木義浩写真展 開催
ありふれた景色/立木義浩写真展
立木義浩氏からの特別寄稿を添えて
私はよくギャラリーの店番をすることがある。
人手が足りないというのもあるが、ギャラリーに訪れる人たちとのコミュニケーションをとるためでもある。
たくさんの人たちが写真を見にギャラリーを訪れる。
近所の住民や子連れの人たち、偶然通りがかった人たち、旅行者、学生、写真に興味がある人たちやない人たち、写真関係者、自転車や自動車で通りがかりにショーウインドウ越しに写真を見る人やサンドイッチを食べながらのぞき込む人たちもいる。
本当に多々なる人たちがいろいろな方法にて写真に触れている。
機会があればその人たちと何らかの会話をすることもあるが、その人たちをただ見ているだけのときもある。
私にとってのいつもの出来事である。(飯塚ヒデミ)
長い間、たくさんの旅をして、写真を撮ってきた。私は旅先に逗留し、その国で稼いだことがない旅人である。その土地で働いて稼がなければ、その国の人情はわからないとも思うが、通り過ぎながら見えるものもある。
目的地に向かう途中のよそ見に新鮮な発見があればあるほど嬉しい。テーマがあろうが無かろうが、目の前にあるものに直感が働くかどうかが問題である。直感の後に判断がやってきて写真をつまらなくする場合だってあるから厄介なのだ。
そんな風に森羅万象にレンズを向けてきたつもりではあるが、結局「人は見たいものしか見ない」らしく、森羅万象であるはずが、ごくありふれた景色ばかりのようでもあり、一方ではふつうの市民生活ではお目にかかれない光景があったりもする。よそ者の旅行者にとって異常と思えるものも、現地ではありふれたものとして目に映り始める。それらを時空を飛び超えて対にしたり、組み合わせて並べてみた。そこに、思いがけない異化効果や同化効果、あるいは感化が醸し出されることを期待してのことでもある。
むろん「その対にする・組み合わせてみる」には当方の企みや思惑を潜めてはいるのだが、本人の意図を超えた何かが付加されていれば嬉しい。もっとも、当人はもっぱら我が田に水を引きがちである。お断りするまでもなく、これらの写真にどういう感想を抱かれるかは、見る人のご自由である。かつて、カラーフィルムで撮った写真がいまや、電子技術によって見るに耐えるモノクローム写真に変換できる。ここに並べた写真の多くも、その技術革新の成果を活用したものである。これを体験して、新たな楽しみを見いだした。
Track Artwork Factory×TATSUKI Yoshihiro
フランス語で“いつものように”ということを comme d’habitude(コムダビチゥードゥ)という。
Habitudeとは習慣や慣れ、という意味で普段の生活のなかでいつも行うことや目にする物が慣れて習慣のようになることをいう。
私がギャラリーの店番で見る風景は、いつもの出来事でありいわゆる comme d’habitude ではあるが、私にとってのいつもの出来事であり、ほかの人にしてみれば面白い出来事でもあれば、変わった出来事や不思議な出来事にもなる。
このような考えを抱くようになったのは、現在Track Artwork Factoryで開催されている写真家立木義浩氏の個展「ありふれた景色」の写真に触れるようになってからである。
立木義浩氏の個展は昨年3月に「黒沢明監督ポートレート」写真展を行わせていただいてから今回で2回めになる。
日本人であれば誰もが知っている写真家ではあるが、フランスでは彼の作品に触れる機会があまりない。
作品に触れる機会が少ないということは、立木義浩氏の名前を知るフランスの人たちが少ないということでもあり、立木義浩氏はフランスにおいては commed’habitudeではないともいえるが、基本的に人それぞれcomme d’habitudeがちがうので一概にそうとはいえないような気もする。
そんな写真家立木義浩氏が、私の営むギャラリーTrack Artwork Factoryを訪れる機会があり、恐る恐るではあったが個展の提案をしてみた。
返事はふたつ返事であった。
“黒澤明監督を撮った写真にしよう”
そういって作品が送られてきた。
これは私にとっていつもの出来事ではなかった。
このようなことから「黒沢明監督ポートレート」写真展を開催させていただくことになり、今回の「ありふれた景色」写真展も開催することになった。
ここで私が展覧会や写真の内容について説明するより、実際ギャラリーを訪れ展覧会を見ていただくのとおなじように作品に触れていただき、立木義浩氏が思う「ありふれた景色」を堪能していただきたいと思う。
「ありふれた景色」立木義浩 写真展開催
キャノンギャラリー梅田 11/22から11/28まで
「長い昼・白夜」立木義浩 写真展
キャノンギャラリー梅田 11/29から12/5まで
http://cweb.canon.jp/gallery/ginza/index.html
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