Life is Edit. #003 ~2人のキャラ立ちデザイナーの共通点~
ひとりのヒトとの出会いによって紡がれ、生まれる新しい”何か”。ひとつのモノによって惹きつけられ、生まれる新しい”何か”。編集者とは、まさにそんな”出会い”をつくるのが仕事。そして人生とは、まさに編集そのもの。
──編集者、島田 明が、出会ったヒトやモノ、コトの感動を紹介します。
文=島田 明
#003 2人のキャラ立ちデザイナーの共通点
いまや日本で知らなぬ人がいないほどの抜群の知名度とキャラが立ったデザイナー、Sir.ポール・スミス。
そして冬でも短丈パンツにグレイスーツでクールに決める、今をトキめく米国人デザイナー、トム・ブラウン。
彼らに接し感じること、それは~決して偉ぶってはいけないよ、僕らはただの人なんだから~なる人生訓。
ポールさんの粋なはからいに、感涙……
ポールさんと出会ったのは、いまから20年前。当時は、さほど彼の素顔も知られていなかったので、一緒にクラブに行ってハジケてもノー・プロブレム(笑)。自由に遊び呆けることが出来た、懐かしい時を共有しました。
しかし彼ほど群雄割拠な日本のファッションシーンのなかで、これほどの長いあいだ、人気をキープしているデザイナーは皆無ではなかろうか、とつくづく思うのです。その人気の理由は勿論、彼の才能もさることながら、私自身が直に接して感じるのは彼の温かい人柄とサービス精神。一度、会った人でも即、虜にしてしまう、じつにチャーミングなお人柄で、彼の周りには素敵な友達の輪が自然とできあがっているんです。幸いにも数多くの才能ある人たちに接する機会に恵まれてきた私ではありますが、ポールさんは私にとってダライ・ラマとおなじくらい、私に影響を与えてくれる尊敬すべき人。それは決してSirになっても偉ぶらない、じつにまっとうな人間性ゆえ、なのです。
お土産のウサギグッズ、気に入ってくれました? ポールさんにとってウサギは
ラッキーアニマル、いろんなウサギグッズをず~っと集めているんです。
そんな彼の温かい人柄にまつわる思い出話は数知れず……。私が編集部を移るとき、突然ファックスで励ましのメッセージを送ってくれたり、ヴァージンの創始者であり会長のリチャード・ブランソン氏との撮影時に、ポールさんがブランソン氏に直接「アキから聞いたんだけど、君と撮影やるそうだから、よろしく頼むよ!」と電話してくれたり。
そして、その極めつけが、今春、ポール・スミスのパリ・コレクションでの出来事。ショウの出部分、フロントロウに座っていた私をショウ開始直前に見つけてくれたポールさん、ひょっこり舞台袖から顔を出して手を振ってくれて。それだけでも感激していたのに、ショウのエンディング中、観客の拍手のなか、モデルに囲まれて花道を歩くポールさんが突然、モデルの間からスルリと手を私の方に出してきて「ハーイ、アキ!」と私を呼ぶではありませんか! 私も反射的に手を出して見事にハイタッチ成功! 周囲の人もビックリしていましたっけ「こいつ、何者?」って(笑)。
そりゃ、そうです、ハイタッチした私がいちばん驚いていたんですから(感涙)。
そんなポールさんが、以前、ロサンゼルスでトム・ブラウンと対談した時の様子を雑誌『ブルータス』の木下クンから根掘り葉掘り聞き出していた私。早速、その時のトムの印象を直接ポールさんに聞いてみました。
「とにかく彼はタレンティッドだね。それにシャイでクレバー。ちょっと僕のスタイルとは違うけど(笑)。でも、彼のアイデアには感服することも多いよ。」とトムの実力をしっかり評価、認めておりました。
かつてキーン・エトロやドリス・ヴァン・ノッテンが、ポールさんに公私にわたりイロイロ相談してた、という話もあるくらい、ポールさんってファッション界きっての人格者であり兄貴的存在。その一端をトム・ブラウンへの温かいメッセージにも感じた私でした。
トム・ブラウンとのヒソヒソ話
前回#002で紹介した、ダンヒルのディレクター、Mr.ヤンにススメられてニューヨークでシャツを購入したのが4年前。
その後、そのシャツが縁で、ニューヨークの知人を通じてトム本人と会うことができたり、ユナイテッドアローズがトム・ブラウンの扱いをスタートするさい、彼を交えて内輪だけの食事会にハリウッド・ランチ・マーケットのゲン垂水さんや祐真朋樹さんと一緒に招かれたり、とトムとの繋がりも月日を追うごとに濃くなる一方。
そして今回、5度目の再会の場所は、ミッドタウンにあるハリー・ウィンストンのショップでした。
ブラウン氏。次のシーズンでニューヨークコレクションは終了し、いよいよパリコレ・デビュー。
ってことは、パリでポールさんと3人で会えるかも……?
昨年末、ニューヨークでトムに会ったさい、彼が私に教えてくれた新企画のひとつが、ブルックス・ブラザースとのコラボ。そして、もうひとつが、その時はまだマスコミ未発表であった、ハリー・ウィンストンとのコラボ話でした。
トムは、僕がその時していたアンティークのカレッジリングを褒めてくれたあと、こっそり教えてくれたんです。
「じつはね、ハリー・ウィンストンでカレッジリングをつくるんだ。スペシャルなやつをね。無論, ダイヤモンドだよ」それを聞いた時の私のエキサイトぶりは相当なものでして、彼も若干引き気味だったような(笑)。
で、日本に帰るや否や、早速ハリー・ウィンストン・ジャパンの広報に連絡をした突撃! 編集者な私。
後々に日本スタッフに伺ったら、私からの電話を受けて「なんで、この人、その話を知ってるの?」と不思議に思ったそう。そりゃ、そうですよね。だって、関係者しか知らないシークレット企画だったんですもの…。
で、今回、その実物を手にした私の感慨もひとしおでして…ひとりウルウルしておりました(笑)。しかも、このリングは日本で1個しか入荷しない貴重な逸品。誰かの手にわたれば一生お目にかかれない代物ですので、みなさんにはぜひとも実物をご覧いただくこと、おすすめします(ちなみに、お値段1270万円!)。
そして今回、おなじ時期にポールさんも来日していることを、トム本人に伝えると、目を輝かせながら「Oh!ポールさん、いま日本にいるのですか? 会いたいですね……。彼との話はじつにエキサイティング。本当に話題がつきないし、またいろいろな面白いを話したい、とポールさんに伝えておいてください」
トム本人も、すっかりポール・スミスのファンの一人に(笑)。その語り口は兄貴想いの弟のようでした。
綺羅星のように輝くふたりの才能あるデザイナーは、決して偉ぶらない真の人格者。
何かに突き抜けている人は、やはり違うなあ、と感じ、少しでも彼らの才能に近づけたらと心あらたに。しかし、その前にまずは編集者として、表層的なファッションではない、しかも誰も読んだことがないふたりのキャラを前面に出したスペシャルな対談の実現を、と誓う私でありました。
それにしても自分の生き方や人生のよき指針を与えてくれる人たちに、こんなに出会える――。
ああ、やっぱり編集者って楽しい仕事です。