第4回 葉巻の通には違いがわかる
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2015年5月1日

第4回 葉巻の通には違いがわかる

第4回 葉巻の通には違いがわかる

text&photo by HIROMI Mamoru

ブエルタ・アバホ。キューバ最高の葉タバコはここで生まれる

本物の葉巻は、タバコの栽培から最後の巻き上げに至るまで、すべて人の手と目、経験と勘によって作られる。つまり葉巻は、経験豊かな農夫や熟練した職人たちが生み出す、手作りの芸術品だといえる。だからこそ葉巻は、かつては成功のシンボル、ある種のステータスとして人々に愛用されてきた。今でこそ一般の人々にも親しまれている葉巻だが、以前はごく限られた上流階級の住人だけが吸うことを許されていた、権力の象徴だったのである。

しかし、『葉巻』として世の中に出回っている製品は、このような極上品ばかりではない。一見、葉巻の顔をしているが、本物の葉巻とは似ても似つかない代物は山のようにあるのだ。それは、街角のタバコ屋の陳列棚などで見かける安価なマシンメイド・シガーである。ハンドメイドの逸品は、こうしたところではまずお目にかかれない。きちんと温度、湿度管理が行き届いたシガーショップでしか入手できないのである。

キューバ産最高級ブランド「コイーバ」を生産しているエル・ラギート工場。
ここで葉巻が1本1本手巻きされる

マシンメイドとハンドメイドの違いは、葉巻のよさを知っている人ならば一目瞭然。たとえ初心者でも吸ってみれば明らかな違いに気づくだろう。

マシンメイド・シガーを分解してみればわかるが、シガーの中身には細かく裁断された葉の小片が使われている。さらに、「シートタバコ」と呼ばれるタバコの成分を若干含んだ茶色の紙が混じっている場合がほとんどなのである。葉巻の外側を覆うラッパーは、葉脈の筋が目立って組織が粗く、手巻き製品のようなしっとりとした味わいがまったくない。さらにマシンメイド・シガーでは、香料や甘味料などの化学物質を添加する場合がよくあり、これでは当然葉巻本来の風味は望めない。

それに比べて、1から10までハンドメイドの葉巻には、添加物は一切使われない。だから、葉タバコそのものが持つ芳醇な香りとふくよかな味わいに包まれている。しかも、たっぷりと時間をかけて発酵、熟成が繰り返されているので、ニコチンやタールが減少し、よりマイルドな味わいに仕上がっているのだ。表面を覆う葉は、厳選された上質な葉タバコが使われているので、絹のようになめらかでしっとりとした美しさが私たちを満足させてくれる。故ジーノ・ダヴィドフは「100%天然の葉タバコを直接手で巻き上げた手巻きのもの以外は葉巻とは呼ばない。極上のワインと同じように極上の葉巻を愛好することはアートである」と言った。本物の葉巻を味わいたいなら、少なくともマシンメイドとハンドメイドの違いを理解し、本物の葉巻を見つけ出す審美眼を身につけるべきであろう。

ジュネーヴの葉巻商ヴァーエ・ジェラール氏。彼は2004年のハバノス・マン・オブ・ザ・イヤーに輝いた人物。葉巻の切断面の香りから熟成度合いを推測している

           
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