INTERVIEW|戸田恵子×植木 豪、進化するライブとモノ作り
「BGブランド」新作はラフなボーダーシャツ
戸田恵子×植木 豪、進化するライブとモノ作り(1)
年明け間もない1月16・17日の2日間、東京・六本木にあるライブレストラン「スイートベイジル139」にて今年最初のカジュアルライブが開催された。今回もまた歌あり、ダンスあり、落語あり(!?) という盛りだくさんの内容に沸いたライブを振り返るとともに、会場で初披露された植木 豪さんとのアパレルプロジェクト「BGブランド」新作アイテムについて二人に聞いた。
Photographs by JAMANDFIXText by FUJITA Mayu
ボーダー×カモフラ、“柄 ON 柄”にトライ
女優の戸田恵子さん、ダンサーの植木 豪さん(PaniCrew)による“BGコンビ”も、2007年の結成から今年で7年目を迎える。きっかけは07年、戸田さんのオリジナルアルバム『ACTRESS』のリリースと、その名を冠したライブだった。これが先日で11回目を数える「カジュアルライブ」の原点であるわけだが、この時、植木さんにオリジナルグッズのデザインを依頼したことから、「BGブランド」は始まった。
その後「BGブランド」では年に二度開催される「カジュアルライブ」に合わせ新作を発表。今回もまた新たなアイテムが披露された。なお、ECサイトrumors(ルモアズ)では新作はもちろんこれまでのアイテムが揃うので、この機会にぜひチェックしてほしい。
戸田 当初から言っていることだけど、女優という仕事があるなかで、これは別にやらなくてもいいことだと思うんです(笑)。だけど、やりはじめたらおもしろくって、角度は違うけどいろんなことを勉強できる。夜な夜な、プリントする絵柄を紙に描いてTシャツに安全ピンで留めたサンプルを作っては、業者に持参して打ち合わせを繰り返す。そうやって少しずつカタチになっていくことが楽しくて。いまは1年に少なからず2回という決められたペースでやっているなかで、やりたいことはたくさんある。でも全部はできないから、一回、一回やりたいことを突き詰めるべきだなと思っていて。無理かなと思うことでもトライしたいんです。
──新作のデザインのポイントについてお聞かせください。
植木 今回は初めての総柄、ボーダーです。最初から姉さんのなかにコンセプトがあったから、デザインはやりやすかった。スターモチーフやボーダーの上に迷彩柄を合わせるというのも姉さんのアイデア。ただ、ボーダーの上に迷彩柄のスターモチーフを乗せるだけだと“柄 ON 柄”のおもしろさが活きないから、スターからチェーンを垂らして、よりボーダーに影響するようアレンジしました。飾りをつけたことで勲章のようにも見えるでしょう? ベースがダークトーンだからホワイトをアクセントに効かせています。
戸田 前々からボーダーはやってみたかったから、それはすぐに決まって。ブラック×グレーのダークトーンでまとめて、ラインも細くすることでスタイリッシュな印象になりました。ベースがシックな分、スターモチーフも活きてくるかなと。ボディは今回、襟ぐりを広げたり、裾や袖口もリブではなく“切りっぱなし風”に仕上げたりと、ユルい雰囲気に。着るうちに袖がクルっと丸まってくるんだけど、USEDっぽいというか、ラフでいいかなって。もちろん始末してあるので、糸がほつれたりということはありません。
植木 ブランドロゴもチェーンの先にある“BG”の文字だけでに留めてさりげなく、シンプルに仕上げました。ベースが総柄(ボーダー)なので、あまりうるさくしてもね。バランスをみながら足し引きして、意外と手間がかかっていたりして(笑)。
戸田 じつはこのロンT、サイズによって微妙にデザインが違うんです。裾からボーダーをはじめているので、スターモチーフの位置が変わるんですね。ちなみに、いま私が着ているのがレディスのSサイズ、豪くんはメンズのMなので、参考にしてみてください。
モノ作りを通して「ラブジャンクス」を支援
「BGブランド」では、展開するアイテムの売り上げの一部を特定非営利活動法人トイボックスの活動「ラブジャンクス」に寄付している。この「ラブジャンクス」とは、ダンスや歌、演劇などのエンターテイメントを通じてダウン症のある若者たちの自立支援をおこなう活動で、2002年に発足したダウン症のある方のための本格エンターテイメントスクールである。07年より支援を続ける二人に、「ラブジャンクス」との出会いについて聞いた。
──「ラブジャンクス」との出会いは?
戸田 そもそも「BGブランド」を始める前に、私はドラマで共演する機会があって、豪君はダンスで、偶然にもそれぞれ「ラブジャンクス」と接点があったんです。さっきも言ったけど、本来ならばやらなくてもいいことをやるわけだから、なにかに活かされたらいいなって。せっかくものを作るのであれば、なにかの役に立ちたかった。それで互いに縁のある「ラブジャンクス」をサポートしよう、ということになったんです。
植木 僕たちパニクルーのパフォーマンスを見てダンスを始めた方がいて、それがきっかけで「ラブジャンクス」のあいだでダンスが広まったそうで、発表会に招待していただいたんです。僕らの曲で踊ってくれているのを観て、僕もメンバーもうずうずして。最後は僕らもステージに上がって一緒にダンスしました(笑)。それが彼らとの出会いで、いまもダンスを教えたり、彼らのステージを観に行ったり。教えているつもりが、教わることの方が多いかも。純粋にダンスが楽しいって気持ちとか、かっこつけて踊る必要ないんだなとか、忘れてしまいがちな大事なことをね。
──具体的にどのような支援を?
戸田 彼らのステージに合わせてタオルやリストバンド、バンダナなどオリジナルグッズを作ったり、パーティがあればお菓子をプレゼントしたり、さまざまなカタチで届けています。ポケットマネーで寄付だけしようと思えば、それでもいい。でも、自分たちが目標に向かって努力して、そこで得たもので支援したかったし、その方が私たちらしいと思ったんです。じつは「BGブランド」よりももっとたくさん作っていたり……男女やチームごとにカラーやパターンを分けたりね(笑)。
新春にふさわしい豪華ゲストは春風亭昇太さんと三谷幸喜さん
1月15日に久々の地元、名古屋ブルーノートでの2ステージを経て、16、17日の2日間にわたりSTB139で開催されたカジュアルライブ。やなせたかし先生の詩の朗読、『アンパンマンのマーチ』にはじまり、序盤はご機嫌なジャズナンバー。途中トークを挟みつつ、BGコンビのデュエット曲を含むオリジナル曲を多く披露した。
中盤では植木さんの圧巻のダンスはもちろん、ゲスト出演には、初日に落語家の春風亭昇太さんが、二日目には脚本家の三谷幸喜さんが登場し、会場を沸かせた。今回のライブは昨年10月にやなせ先生が逝去されてから初めて迎えるライブだったこともあり、氏への想いが語られる一幕も。フィナーレでは、先生のシルエットがプリントされたオリジナル生地で仕立てたジャケットで登場し、『Over The Rainbow』を捧げた。
──やなせたかし先生へのオマージュが盛り込まれていましたね。
戸田 あまり暗い感じで触れたくはなかったので、冒頭と最後だけ。絶対に泣かないようにと思って……それだけはね。前々から“自分の場”でメッセージを届けられる機会があれば、と思っていたんです。公にはコメントしてきたけど、自分の場で、自分の言葉で、歌で、贈ることができたらいいなと。あのジャケットは本当は先生と一緒に着るために作ったものだったけど、着る機会のないまま、ね。
──ゲストのお二人はなにを歌われたのですか?
戸田 ゲストの方には毎回、私とのデュエットを一曲とソロで一曲お願いしているんだけど、昇ちゃん(春風亭昇太)は『My Blue Heaven』を一緒に。私が歌って、彼はなんとトロンボーンを! ソロも歌ではなく、高座を組んで落語を一席。「ベイジル寄席」みたいなね(笑)。豪君もだけど、私のライブがいろんなライブパフォーマンスに触れる機会になればいいなと思っていて。今回はじめて落語を観たという人もいたと思うんだけど、もっといろんなライブパフォーマンスを身近に感じてもらえるように、自分の範囲のなかでプレゼンしていけたらいいな。
植木 三谷さんだけど、ステージを観てあらためて演出家というか、物語を作っている人だなって感じましたね。鼻笛(鼻息で鳴らす笛)を仕込まれてきたんですけど、演奏のもっていき方というか、ずっと普通に吹いて最後に遊ぶっていう……そもそも、事前にあれを練習しているってこと(笑)!
戸田 三谷さんはつねにアイデアを持っていて、演出プランがあるんだよね。これを歌って、ここで鼻笛を吹いて……というように。今回だってものすごく忙しいなか、ましてや自分の仕事でないにも関わらず、ですよ。曲は桑田佳祐さんがタモリさんのために作った『狂い咲きフライデイ・ナイト』を歌われたんだけど……もう、うまい、下手ではないんです。そういうことを教えられますね。
植木 特有のスタイルがありますよね。楽屋にいるときなんて「豪君、ダンディにいこうと思うんだけど、これどうかな?」って聞いてくるんですけど、スーツにサングラスかけてキメてるけど鼻笛っていう……僕、困っちゃって(笑)。でも、数分間の出番であっても全力というか、集大成をみせる三谷さんの姿勢に、自分ももっとこうしたい、あれをやってみたいって触発されるんですよね。
戸田 その瞬間、瞬間を最大限に楽しむ天才なんです。実際、本当に忙しい方だし、ライブに出演する余裕なんてないはずなのに、楽しんで参加してくれる。見習うべきだなといつも思いますよ。リハーサルでも別に必要ないのに、前日に昇ちゃんが吹いたトロンボーンを聞きたいって。演出の範囲に入れておきたかったんだと思うんだけど、そういう時間を惜しまないんですよね。
──植木さんから見て、戸田さんのステージはいかがでしたか?
植木 舞台とは違って自由にやっているところがいいよね。あと、やっぱり歌うまいなって毎回思います。当たり前のようで本当に大事なことなんだよね。ダンスにもいえることで、「ノリが大事だよ」ってよく言うでしょう? それはスキルがあったうえでのことだと僕は思っていて。高い標準装備を備えたうえでやるからかっこいいし、やっていいことだと思う。姉さんはちゃんとベースがあって、コントロールしながらやっているから素敵なんだよね。
──新曲の予定は?
戸田 いえ、今回はなかったんですけど。曲作りもグッズとはまた違うおもしろさがあって。たとえば作曲家、作詞家が仕事上で作業するのと違って、知っている者同士が持ち寄ってする作業なので、いつもとは違う部分を合わせるというか。普段とは違うチャンネルで会話するみたいな。一緒にものを作っていると、普通に接しているだけでは合わない“点”がいくつも合うからおもしろい。また、ぜひなにかやりたいですね!
──ありがとうございました。