more trees|坂本龍一氏が「バーニーズ アカデミー」で語る
more trees|モアトゥリーズ
「BARNEYS ACADEMY Vol. 1」をレポート
坂本龍一氏が語る、モア・トゥリーズのいままでとこれから
先日、NY発のスペシャリティストア「BARNEYS NEW YORK(バーニーズ ニューヨーク)」にて、「BARNEYS ACADEMY Vol.1」が開催された。これは、あたらしく2013年の夏からスタートしたメンバーズプログラム「MY BARNEYS」の上顧客限定イベントとして展開を予定しているイベントだ。第1回のテーマは「森を考える。more treesのいままでとこれから」。「more trees(モア・トゥリーズ)」の代表メンバーであり、世界的に活躍する音楽家・坂本龍一氏をゲストスピーカーに迎え、約1時間のトークセッションがおこなわれた。
Photographs by Shinya HiroseText by HIKITA Sachiyo(Fukairi)
モア・トゥリーズ誕生
「モア・トゥリーズという言葉は“NO NUKES, MORE TREES(原子力はいらない、もっと木を)”というスローガンからとったものです。青森県六ヶ所村の核再処理施設の稼働に反対して“STOP ROKKASHO“に取り組んでいた際に、ふと頭に浮かんだフレーズでした」
バーニーズ ニューヨーク 新宿店の9階、VIPルームに集合した約50名の出席者の前で、坂本氏はゆっくりと語りはじめた。ファシリテーターの末吉里花さんが、モア・トゥリーズの設立の経緯を尋ねていく。
「“NO NUKES, MORE TREES”の活動のなかで感じたのは、“more trees”という言葉の強さ。『もっと木を』というポジティブなメッセージに、多くの人が共感したんですね。そこで、六ヶ所村に木を植えに行こうという話になって、実際に現地に赴いたら豊かな森がすでにあったんですよ(笑)。でも、『じゃあ木を植える必要ないね』というとそうでもない。実は、先進国のなかでは世界第2位を誇る森林大国である日本で、森林の荒廃が深刻化していたんです。
厳密にいうと、過去に木材ブームを見込んで植えられた針葉樹が、50年、60年を経て『さあ、市場に出そう』という時期に、均質で競争力のある外国産材が市場に進出し、国産材の需要が激減してしまった。そうした背景があって、林業が衰退し、手入れの行き届かない人工林だけが残っていたのです。じゃあ、木を植えるのではなく、間伐などの森林整備によって日本の森を元気にしよう、と。そうして2007年、モア・トゥリーズを設立しました」
モア・トゥリーズの森づくり~LIFE311
現在、国内外12か所で展開している「モア・トゥリーズの森」プロジェクト。海外唯一の拠点、フィリピン・キリノ州の森では、植林を通じて地域経済の発展に貢献している。今後は、インドネシアなども視野に入れた展開を予定している。また国内では、北海道から九州まで、11拠点での森づくりプロジェクトが進行中だ。
「高知県中土佐町のカツオは本当においしかったですね。九州のマチュピチュと呼ばれる宮崎県諸塚村のシイタケも絶品でした。各地で味わう旬の素材は、豊かな森があってこそ育まれるもの。森も海も、すべてがつながっているんです」
長野県小諸市では、ルイヴィトンと協働した森づくりを進めており、森全体が優雅な雰囲気をたたえている。いっぽう、石油の生産地として栄えた歴史をもちながら、現在は木質エネルギーの地産地消に力を入れている新潟市秋葉区の森もある。
それぞれの地域が、独自の特徴を活かしながら森づくりに励んでいるのだ。
そして、出席者の笑いを誘ったのが「練習の会」と書かれたのぼりが目立つ大宴会の写真。「森づくりという長きにわたる活動は、人間同士の関係づくりでもある。特に、林業の人はお酒が大好きなので、酒を飲みかわすのは必須ですね。僕たちはお酒の席を“練習”と呼んで、熱心に練習しています(笑)」
地元住民と交流する1枚1枚の写真から感じる、モア・トゥリーズと地域との深い信頼関係。被災地においても、そうしたつながりが復興活動を支えている。
「震災後、あの緊迫した状況のなかで僕らが出会ったのは、震災直後から自腹を切って木造仮設住宅の建設に乗り出していた岩手県住田町の人々でした。その姿に感動し、僕たちは協働プロジェクトをスタートしました」
こうしてはじまった、モア・トゥリーズの被災地支援「LIFE311」。3億円の支援金を集めることを目標にチャリティー活動を展開しており、現在までに約2億円の寄附金が集まっている。今後も、被災地に寄り添いながら支援をつづけていく姿勢だ。坂本氏は「今後も地域の人々との関係性を深め、森のめぐみを活かしながら価値の高い活動をつづけていきたい」と強く語った。
more trees|モアトゥリーズ
「BARNEYS ACADEMY Vol. 1」をレポート
坂本龍一氏が語る、モア・トゥリーズのいままでとこれから(2)
Photographs by Shinya HiroseText by HIKITA Sachiyo(Fukairi)
モア・トゥリーズのものづくり
持続的な森づくりには、森林資源を市場に提供し、森づくりの活動資金を生み、森に還元していくというサイクルが欠かせない。そこでモア・トゥリーズは、深澤直人氏デザインによる間伐材のベンチを筆頭に、国産材プロダクトやオーガニックコスメなど、森のめぐみを活用したさまざまな商品を手がけてきた。
「BARNEYS ACADENY」を企画したバーニーズ ニューヨークは、これまでもモア・トゥリーズの活動をサポートしてきた。信國太志氏の手がけるブランド「botanika(ボタニカ)」からオーガニックコットンのタオルやウエアを発売し、売り上げの一部を森づくりへと寄付した「GO GREEN GO」キャンペーンをはじめ、ファッションというフィールドからの協力をつづけている。
さらに今回のイベントでは、モア・トゥリーズがあらたに企画する「モア・トゥリーズ レザー」を初披露。現在、害獣として駆除されているシカは年間40万頭に及ぶが、そうしたシカの革を森のめぐみとして活かし、生物多様性の豊かな森づくりにつなげていく試みだ。シカ革は今後、カバンや靴の素材として活用される。ファッションを通じて地球に貢献する「かっこいい大人」をプロデュースする、バーニーズ ニューヨークの店頭に並ぶ日もそう遠くないだろう。
イベント後には、モア・トゥリーズの森で育ったヒノキの桝(ます)でシャンパンを楽しみながら懇親会が開かれ、坂本氏直筆のロゴが入ったシカ革コースターなどがお土産として配られた。また、参加費は全額モア・トゥリーズの活動に寄付され、森づくりに活かされるという。
ファッション、アート、カルチャーなど、さまざまな分野のスペシャリストを招いて開催される「BARNEYS ACADEMY」は、シリーズとして今後もつづく予定。ファッショナブルな「かっこいい大人」を目指す試みに、これからも注目したい。
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Tel. 03-5770-3969