EXHIBITION|「感じる服 考える服:東京ファッションの現在形」展リポート
アーティスティックでクリティカル
「感じる服 考える服:東京ファッションの現在形」展リポート(1)
ファッションは時代の流れを目に見えるかたちで表現してきた最たるもののひとつである。現在、東京オペラシティ アートギャラリーで開催中の「感じる服 考える服:東京ファッションの現在形」は、日本のトラディショナルな装いとも、伝統を革新していくヨーロッパのハイファッションとも異なる、世界中から注目を集める東京ファッションの現在と未来の可能性を探る展覧会である。
写真と文=加藤孝司
東京のいまを感じさせる、あたらしい「ファッション」の波
東京ファッションと聞いて、いったいどんな姿をイメージするだろうか? ストリートファッションを中心としためまぐるしく変わる流行、世界のトレンドを敏感に反映させた若手デザイナーのクリエイション、いまやグローバルマーケットをも席巻する勢いのファストファッション、繊細な手仕事に裏打ちされたクラフトなモードなど、カラフルなファッションのイメージとリンクするような多種多様な側面が思い浮かぶ。
洋服はデザインであることはもちろん、寒さや暑さを防御するために身にまとうファンクショナルな装飾品であり、それを身につけるひとの社会的な地位や、アイデンティティを表現するものとして、異なる場所、時代において機能してきた。その表現は現代において、服だけにとどまることなく、アートやデザイン、音楽、映像などとリンクしながら、最新のクリエイションを刺激しつづけている。
今回のエキシビションの参加デザイナーは、東京ファッションのいまを感じさせる、感度の高い作品で注目を集める10組のクリエイターたち。
服がもつ既成のスケール感が喪失した、身体と洋服の関係を問いなおす視覚的な展示をした「アンリアレイジ」。 天井高のあるギャラリー空間を活かし、パンクやゴシックなど前衛的なファッションをリコンストラクションした廣岡直人による「h,NAOTO」。「ケイスケカンダ」は写真家の浅田政志氏や音楽家のやくしまるえつこ氏とのコラボレーションつうじ、自身のコミュニケーションツールとなっているファッションをアキバ的女子のイメージとシンクロさせたような作品を発表した。
「matohu(まとふ)」は、コレクションのテーマにもなった「無形の美」によるコンセプチャアルなインスタレーションを展開。レディー・ガガが着用するなど、肌に寄り添うような機能的なファッションで世界的に注目を集める廣川玉枝の「ソマルタ」は、無縫製ニットによる作品を展示した。優しい色やモチーフに定評のある「ミントデザインズ」は、シュレッダーで裁断された紙片を積み上げたダイナミックでありながら繊細なインスタレーションで作品世界を表現してみせる。
ほかにも、美しいテキスタイルやプロダクトも人気が高い、新世代の日本を代表する「ミナ ペルホネン」や、アヴァンギャルドでありながらリアルクローズを感じさせる「サスクワァッチファブリックス」。建築家 伊藤 暁氏が手がけた内外が反転した小屋で、サウンドインスタレーションや映像が一体となった作品を発表した「シアタープロダクツ」。洋服をとりまく“ファッション”が置かれた社会的な側面に着目する「リトゥンアフターワーズ」など、精鋭的な東京ファッションが集まった。
アーティスティックでクリティカル
「感じる服 考える服:東京ファッションの現在形」展リポート(2)
ファッションと建築のコラボレーション
今回のエキシビションでは会場構成にも注目したい。デザインを手がけたのは、昨年のDESIGNTIDE TOKYO 2010の会場構成も記憶にあたらしい、建築家の中村竜治氏。展示空間には目線の高さに梁(はり)が巡らされ、それが個別の展示空間を隔てながら、ゆるやかにつなぐように会場全体の空間をつくっている。通常は建物の天井付近にある梁が、目線の高さにあることで、鑑賞者自身も受動的に展示作品をみるだけではなく、自発的に作品と向き合うようになっている点がユニークだ。またここには現代の若手建築家たちが共有するであろう、さまざまな関係性への指向が感じられて興味深い。
この空間の設計にあたり中村竜治氏は、「サイトスペシフィックな考え方と、ホワイトキューブの中間のような考えかたで空間をつくった。敷地境界線に対して、普段洋服をつくっているデザイナーたちがどのようにアプローチするのか興味があった」と語る。
ギャラリーやミュージアムでおこなわれるファッション展はめずらしくないが、高度に情報化が進んだ東京という街がもつネットワークを顕在化させたような、カオスとも調和ともとれる空間が、東京ファッションの現在を鮮やかに浮かび上がらせている。
東京においてファッションはときに「消費」というポジティブにもネガティブともとれる表現と密接にむすびつきながら、それに抵抗するような等身大のリアルクローズ、批評的で先鋭的なモードを生み出しつづけてきた。ここにきてあらたに流行とも消費とも一定の距離をおきながら、社会的なスタンスで行動するデザイナーたちがあらわれはじめてきている。アーティスティックにリアルに、よりクリティカルに。
会期中には東京ファッションを巡る状況と、現在形の問題意識をデザイナーや研究者が語り合うトークイベントも開催され、見るだけでなく、考える仕掛けも用意されている。