生方ななえ|連載第18回「パリとキリンと地図帖」
連載第18回「パリとキリンと地図帖」
写真・文=生方ななえ
子どものころ、よくキリンに似ていると言われた。たしかに背が高いところ、首が長いところ、食べる時にもしゃもしゃとゆっくり噛むところが似ているなと自分でも思って、“うまいこと言うなぁ”と結構気に入っていた。そんなこともあってか、昔からキリンに妙な親近感をもっている。
先日パリに住んでいる友人から「5区にある国立自然史博物館で、キリンの剥製を間近で見ることができる」という話を聞いた。至近距離でキリンに会うなんて動物園でもなかなか叶わない。これはぜひとも行きたい……と行きたい熱がムクムクと沸き上がった。友人に会いたいこともあって、10月半ば、思い切ってパリに行くことにした。
私のパリ歩きのおともに欠かせないのが『Paris Arrondissements』という地図帖。パリの本屋やキオスクで手軽に買える、パリ市内の地図だ。メトロの路線図、バスの路線図、それから20区のすべての通りが載っている優れもの。ちょうど文庫本ほどの大きさで、厚さは5mmくらい。ポケットサイズで持ち運びにとっても便利なのだ。これさえあれば、住所だけでどこにでも行ける。
パリの通りにはどんなに小さくても必ず名前がついていて、「◯◯通り」と建物に標識がついている。私はその通り名を地図と照らし合わせながら歩くのが大好きだ。大昔から通りの名前も街並もほとんど変わらない石造りのパリの街。歩いているとタイムスリップしたような不思議な感覚にとらわれる。
地図を片手に石畳の上を歩く。コツコツと小気味よい音が耳に響き、歩くのが楽しくなってくる。さっきまで1区を歩いていたかと思えば、いつのまにか3区を歩いていたなんてこともしばしば。パリの街はコンパクトだなぁと実感する。なんでも20区全部合わせても、東京の山の手線の内側とおなじくらいの広さなんだとか。
さて、メトロのモンジェ広場駅から歩いて5分ほどのところに国立自然史博物館はあった。館内に入ると天井から吊るされた巨大クジラの骨格がお出迎え。あまりの大きさにちょっとビクビクしながらつぎの展示へと進む。何気なく見上げてみると、自然光が差し込むガラスの天井と大きな吹き抜けが開放的で、なんだかホッとした。
上の階に行くと、ついにお目当てのキリン剥製に遭遇! 間近で見るキリンのド迫力にうれしくなった。あっちから眺めてみたり、こっちから眺めてみたり。写真もいろんな角度からパシャパシャ撮って大興奮だった。見学していた子どものひとりが剥製に触っていて、うらやましいなと思ったけどおとななのでそこはぐっと我慢した。
気が付けば日本に帰ってきて数日経つ。まだ渡せてない友人へのお土産の整理なんかをしつつ、ふと手もとにあった地図帖を開くと、5区のページには大きくキリンマーク。パリの空気が、思い出が、感動が、また一気に溢れてくる。散歩した公園、歩いた道やおいしかったビストロ……。これから行きたいところもつぎつぎと浮かぶ。地図帖から広がる世界。それはまるで私だけの物語のようだ。