人生で二番目にタイヘンな舞台『グッドナイト・スリイプタイト』閉幕に寄せて
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2015年3月12日

人生で二番目にタイヘンな舞台『グッドナイト・スリイプタイト』閉幕に寄せて

人生で二番目にタイヘンな舞台
『グッドナイト・スリイプタイト』閉幕に寄せて

昨年の11月と12月・東京、明けて1月・大阪。稽古期間をふくめると4ヵ月近く、戸田さんが心身ともに打ち込んだ舞台『グッドナイト・スリイプタイト』が1月20日に無事、閉幕しました。
超ハードだった長丁場の二人芝居。すべてを終えた戸田さんの達成感と感慨が、たっぷり詰まった事後報告をお届けします。ご覧いただいた方には、アノ場面・コノ場面が浮かぶカモ?

まとめ=尾上そら

大阪公演のピンチと喜び

まず、11月からはじまった『グッドナイト・スリイプタイト』の舞台、全66回を休むことなく演じ切ったことを皆さまにご報告できることがなによりうれしいです! とびきりの緊張感のなか、心と体を張り詰めた4ヵ月間は、「これほどタイヘンなことってある?」と思った一人芝居『なにわバタフライ』に次ぐハードな日々。

この作品、私のなかでは見事「人生で二番目にタイヘンな舞台」の地位を獲得いたしました(笑)。

歌も踊りも断然ハードな、本格的ミュージカルに出演していても、体に支障をきたすことなぞまずない私ですが、『グッドナイト~』の後半戦ではさまざまな故障に見舞われてしまって。

人生で二番目にタイヘンな舞台<br><br>『グッドナイト・スリイプタイト』閉幕に寄せて

一番つらかったのは、筋肉疲労による腰痛。とにかく痛みをおさめなければと、東京公演が終わってから大阪公演がはじまるまでの年末年始の数日はお正月どころではなく、ひたすら安静に過ごすだけの日々。タロー並みにじっと暮らしていたのです(笑)。

それでも痛みは引かず、結局痛み止めのブロック注射を2度打つはめになりました。その後はなんとか千秋楽まで、痛みが再発せずにすんだのはありがたかったけれど、二人芝居だからといつも以上に気をつかっていたはずの体調管理が足りないほど、前半の自分がガンバっていたことには正直驚きました。

でも、そんな身体的なハンディを抱える私を励ますかのように、大阪のお客さまはいつも通りあたたかく、ノリ良く迎えてくれました。どんな作品でいっても、大阪公演の客席から返ってくる反応はラテン系というか、とても楽しみ上手でお芝居のツボを心得たもの。

今回も、三谷幸喜さんの作品としてはビターで、笑って楽しんでだけで終わるものではなかったにもかかわらず、そのぶん笑える場面は細かなところまできちんとひろい、切ないところでは思い切り泣いて、というビビッドな反応で私たちのお芝居に応えてくださいました。東京での試行錯誤、練り上げる時間が実ったようでとてもうれしかった。

また後半戦は、スタッフの方々の心づかいにもとても助けていただきました。この作品は早替えなどがとても多く、そもそも息の合ったスタッフさんとの連携が必須のもの。本番中の絶妙のサポートはもちろん、早替え部屋に「頑張ってください」「あと何回ですね」というような、ちょっとした応援のメモなども置いてくださって。

中井さんとともに、ただ黙々と毎日の舞台を務めるしかない二人芝居の現場。ひとつ間違えば煮詰まってしまうような過酷な日々を、そんなスタッフの方々の、優しくあたたかい思いやりが和ませてくださり、乗り切らせてくれた。改めて、心から感謝したいと思います。

最強のパートナーに恵まれて

そして、どんなに感謝しても感謝しきれないほど大きかったのが、中井貴一さんというパートナーの存在です。がっぷり組んでのお仕事ははじめてでしたが、まさにプロフェッショナル中のプロフェッショナルというべき俳優さんだと思います。

三谷さんが私たちに書いてくださったこの『グッドナイト~』は、場面ごとに役割がくるくる変わっていく構成。ボケとツッコミ、両方ができないと演じきることができないものでした。中井さんはそんな難しい要求に対しても柔軟に対応できる方で、テンピュール素材のように(笑)、シリアスもコミカルも自在に表現していらした。そのうえ身体は動くし歌も歌え、滑舌も抜群!

人生で二番目にタイヘンな舞台<br><br>『グッドナイト・スリイプタイト』閉幕に寄せて

プロの俳優というものは、求められたときに必要な引き出しが開くかどうかが大事、と私はつねづね思っているのですが、中井さんは開かない引き出しはないのではないか、と思わせられるほどの見事さで三谷さんの要求に応えていらっしゃいました。

このところの私の舞台人生は、比較的頼られることが多かったのですが(笑)、今回に関しては微塵もそんなことはなく、生意気を申しますがプロ同士互いにベストを尽くしあえる、素晴らしい環境で仕事をさせていただけたと思っています。中井さんは二人芝居という戦場で、ともに戦う相手としては最高のパートナーでした。きっと作・演出家にも分からないことが、本番66回を共有した二人のあいだにはあるんじゃないかと、三谷さんには申しわけないのですが、ちょっと思ったりもしているんです(笑)。

もうひとつ、演じていて面白かったのは演じた妻役との距離感について。三谷さんが「戸田さんの演じたことのない役を書きました」とおっしゃったとおり、彼女は私のもっていない要素ばかり。とくに、バイタリティだけで、未知の世界に飛び込んでいく、ペットシッターや英会話教室のエピソードなどはあり得ない。私、最低限の準備なしには行動しないタイプなもので(笑)。

でも同時に、自分のこれまでの経験がふと重なる場面もいくつもあって。夫の曲が不採用になるところでは、友人や後輩が理不尽な目に遭った際に「そんなの言わせておけばいいじゃない!」と強い言葉で守ってあげたいと思ったときのことが浮かび、タローの遺骨をもち帰る場面ではどうしようもなく母への想いがよみがえってきました。普段は役を自分に引き寄せることがほとんどない私ですが、今回は、仕事に関係ない日々の経験が役に返っていくこともあるのだ、という自分としては珍しい実感を得ることができました。

また、夫婦の物語を演じているのに、なぜか結婚や恋愛についての感情部分では、そういう反映や実感がなかったのも私らしくて面白いな、と個人的には思いました(笑)。

すべてが終わったとき私が味わったのは、北島康介選手の「チョー気持ちいい!」ぐらいの大きな達成感だったのではないでしょうか。あまりに爽快で涙はなし! 三谷さんが最初におっしゃった、「より高みをめざしてほしい」という言葉に、100%ではないにしても、少しは近づけたような気がしています。

たくさんのエネルギーを注ぎ、多くの糧をいただいた。私にとって『グッドナイト・スリイプタイト』はそんな大切な舞台です。なにせ、中井貴一さんという最高最強の共演者と出会い、また、三谷幸喜さんという素晴らしい作家の、新境地をともに経験させていただけたのですから。

ここで得たたくさんのことを胸に、また新しい作品に飛び込んでいきたいと思います!

戸田恵子

           
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