第46回 S.T.Dupont オリヴィエ・コクレル×M.Y.LABEL 吉田眞紀 対談(1)
第46回 S.T.Dupont オリヴィエ・コクレル×M.Y.LABEL 吉田眞紀
「男性が装うことについて」(1)
今回はフランスからのお客さま、「エス・テー・デュポン」のアーティスティック・ダイレクター、オリヴィエ・コクレル氏との対談が実現しました。
国際的に活躍される超多忙なオリヴィエ氏は、この日も前日に香港から到着されたばかり。今日のフランスのファッション事情や、男性が装うということについて、またブランド「エス・テー・デュポン」の考えるファッション観についてもお話を伺いました。
まとめ=戸川ふゆきPhoto by Jamandfix
コンサバでありながら、遊び心も忘れない
吉田眞紀 さっそくですが、一般的にフランス人の男性は「装う」ということについて、どのように考えていると思われますか?
オリヴィエ・コクレル ひとことでいうと、フランス人男性は、ファションについては非常にコンサバティブ(保守的)だと思います。
吉田 そうなんですか? 我々のイメージからすると、フランス人はファッショナブルでいつも自由な感じがしますけど(笑)。
オリヴィエ ある意味、伝統に忠実に従う傾向が強いと思いますよ。もちろん多くの若い人はおしゃれに興味がありますが、ことファッションに関しては、自分の祖父や父親がしていたように、「男性的」な装いをすることをよしとするひとが多いのではないでしょうか。
吉田 なるほど、そうなんですか。では現在のフランスで見られるファッションの顕著な流れというのは、なにかありますか?
オフィスからネクタイが消える?
オリヴィエ ネクタイをする人が、確実に減っています。ネクタイをしているのは極端に保守的なひとか、またはものすごくおしゃれな人の二極化されてきているんです。
吉田 それは非常に驚きですね。日本では、オフィスで働く男性 = ネクタイ姿のイメージがありますが、職業にもよるのでしょうか?
オリヴィエ もちろん、銀行や法律関係などある種の職業のひとたちは、ネクタイが一種のユニフォームとなっていますから、つねに着用していると思いますが、一般の企業ではほとんどのひとがネクタイをしなくなっています。
我々デュポンの社内でも、30~50代のマネージャークラスの大半は、普段ネクタイをしていませんね。
吉田 日本では、省エネのための「クールビズ」で、夏はノーネクタイでいこうという動きがありますが、フランスではこれとは意味がちがって、もっとリラックスした雰囲気で仕事をしようという考えなのでしょうか?
オリヴィエ ノーネクタイの流れは、アメリカの「カジュアルフライデー」の考えが、フランスにも入ってきてはじまったのだと思います。日本のようなエコロジカルな発想からではないですね。
吉田 しかし、ネクタイでおしゃれの主張をする機会がないとすると、ますますカフリンクスやほかのアクセサリーが大切になってきますよね?
オリヴィエ ええ、そのとおりです。実際、ネクタイをはずして、その代わりにカフリンクスやベルトでおしゃれを楽しむひとが増えています。もっというと、彼らはそれらにファンタジー(fantasy)を求めていて、カラフルな色や形、楽しい素材を選び、遊び心を表現していると思います。最近では、レストランでもネクタイをしていないからといって、入店を断られることはまずないと思いますよ。
吉田 なるほど……。ファッション大国のフランスでは、きちっとした格好 = ジャケットやスーツにネクタイだとばかり思っていました(笑)。
オリヴィエ ただ指輪については、ちょっとちがっていて、東京ではビジネスマンでも、おしゃれとして指輪をしているひとを見かけますが、フランスでは男性が大きな指輪を身につけることは、まだ非常に大胆なことと受け取られます。
吉田 たしかに日本の男性がおしゃれとして指輪をするようになったのは、早かったと思います。ヨーロッパでは中世から男性がアクセサリーを身につける歴史があるので、アクセサリーというものがフォーマルから入ってきたと思うんですが、日本の場合はそのような歴史がないので、かえって抵抗がなかったのかもしれませんね。
まずジーンズをはいて、カジュアルなアクセサリーを身につけて……、と。反対にカフリンクスのおしゃれに到達するには、ちょっと修業が必要というか、日本ではファッションの上級者のイメージですね(笑)。
オリヴィエ なるほど。フランスとは少し事情がちがうようですね(笑)。しかし、指輪に関しては、フランスはまだまだ成熟したマーケットとはいえないですね(笑)。
ますます人気のメンズアクセサリー
吉田 これからフランスでは、メンズアクセサリーの流れはどのように変化していくと予想されますか?
オリヴィエ カフリンクスやベルトをはじめとして、メンズアクセサリーの需要はこれからもっと増える傾向にあると思います。
吉田 というのは?
オリヴィエ 今、カフリンクスやピアスなどを日常的に身につけている若い世代が大人になって仕事をはじめたとき、彼らのカジュアルなスタイルをビジネスのシーンにももち込んでくるはずですから。
吉田 たしかにほかのジュエリーのブランドも、続々と本格的なメンズラインを発表していますよね。
オリヴィエ メンズのアクセサリーが本格化しているのは世界のファッションの流れですから、いずれブームがくると私は予想しています。
吉田 具体的にはどんなイメージを抱いていますか?
オリヴィエ 料理を例にとると、以前はフランス料理といえば、バターたっぷりのこってりしたものが主流でしたが、1970年代のヌーヴェル・キュイジーヌの登場以来、料理にも軽やかさ(cool)が求められるようなり、しきたりにとらわれず、他ジャンルとの混合(mix)や融合(fusion)をさせたメニューに人気が集まりました。
これはファッションにも共通していて、いろいろなテイストが融合した、軽やかなものが主流となってくると思います。
吉田 やはり「軽やかさ」の時代なんでしょうか……?
オリヴィエ ネクタイをしなくても、きちんとした印象を与えることは可能ですし、もはや「フォーマルではない = エレガントではない」とは、一概にいえなくなったということだと思います。
エス・テー・デュポン
Tel. 03-3448-1391(代表)
http://www.st-dupont.com