第47回 S.T.Dupont オリヴィエ・コクレル×M.Y.LABEL 吉田眞紀 対談(2)
Lounge
2015年5月11日

第47回 S.T.Dupont オリヴィエ・コクレル×M.Y.LABEL 吉田眞紀 対談(2)

第47回 S.T.Dupont オリヴィエ・コクレル×M.Y.LABEL 吉田眞紀

「男性が装うことについて」(2)

フランスからのお客さま、「エス・テー・デュポン」のアーティスティック・ダイレクター、オリヴィエ・コクレル氏をお迎えしての対談の第2回。
随所にこだわりが感じられるプロダクトのお話から、日本人男性の着こなしにまで話題は広がって……。

まとめ=戸川ふゆきPhoto by Jamandfix

最新テクノロジーと伝統技術の融合

吉田眞紀 それではプロダクトについて、ご説明いただけますか?

オリヴィエ・コクレル ご存知のようにエス・テー・デュポン社は、1872年にシモン・ティソ・デュポンによって、外交官や実業家のためにブリーフケースやウォレットを専門につくる革製品のアトリエとして創業しました。その後も、贅たくな一点もののトラベルケースなど、細部までこだわり抜いた革製品を、熟練した職人によってつくってきました。

吉田 エス・テー・デュポンといえば誰もが知っているのが、開くときにピーンと独特な音を発するライターかと思いますが。

オリヴィエ そうですね。しかしあの音はさまざまな部品の構成や組み立てから発生するものなので、すべての製品で発するわけではないのです。

現在では皮革製品をはじめ、ライター、喫煙具、万年筆、革製品、アクセサリーからアパレルまで幅広く展開しており、おしゃれにこだわりをもつ世界中の男性から支持をいただくファッションブランドに成長しました。

吉田 こちらは、新しいシリーズですか? これは黒蝶貝ですよね? とてもきれいですね。

「ブラック・マザー・オブ・パール」

オリヴィエ こちらは、「ブラック・マザー・オブ・パール」のコレクションで、ペンの専門誌『ル・スティログラフ』から賞をいただいたものです。

吉田 ライターでは、かなり広い面積で黒蝶貝が使われていますね。しかも表面がフラット。……これは材料を調達するのがそうとう大変ですよね(笑)。

オリヴィエ そうですね。貝はタヒチ産のものですが、深い玉虫色の光沢がリッチな希少性の高いシリーズです。

吉田 こちらは、新製品ですね。ペンにUSBメモリがついています。

オリヴィエ はい。「ネオ・クラシック」シリーズです。1973年に発売されて人気を博したボールペン「クラシック」の、贅たくな漆の手触りとシンプルでストレートなラインはそのままで、この「プレジデント」には、4GBのUSBメモリが搭載されています。

吉田 さすがに重厚なつくりです。

オリヴィエ USBメモリとしては2004年に発売していますが、いかにも事務用品的な感じではなく、このようにラグジュアリーなスタイルのUSBメモリをつくったのは、私どもが最初だったのではないかと思います。

吉田 なるほど。今ではいろいろなブランドがUSBメモリを発表していますが……。

オリヴィエ 最新のテクノロジーと伝統をミックスさせることは、デュポンのプロダクトのコンセプトとして、とても重要だと考えています。私どもは、USBメモリを「未来の筆記具」としてとらえているのです。
現在は4GBという容量ですが、次は8GBのものが発売されるでしょう。ほかにもハードディスクドライブなどの新しいプロジェクトが進んでいます。

吉田 デュポンの製品には、真面目でコンサバティブなイメージをもっていたのですが、このような茶目っ気たっぷりのモノもあるんですね。

「ダイアモンド・ケース」

オリヴィエ こちらは「ダイアモンド・ケース」といって、デュポンの得意とするトラベルケースの現代版で、自分の好きなものをつめ込んだ「書斎」なんです。ケースを開けるとなかがパタパタと左右に開くのですが、パソコンやお気に入りのCDに本、家族の写真、キャンドル、テディベアまでがセットされ、いつでも自分の好きなものと一緒に過ごせるようにと考えられています。

吉田 これはすごい。言葉は乱暴ですが、こんなふざけたモノを、大真面目につくっているのがいいですね(笑)。

オリヴィエ ただ、クロコダイル製なので、重さが20kgもあって、持ち運びなんてとてもできないんですよ(笑)。もともとデュポンのアトリエでは一点ものをつくっていたので、お客さまの注文に合わせた細部のつくりや、おもしろいモノを大真面目につくる茶目っ気は、デュポンの得意とするところなのです。

現代の日本人男性は、けっこうおしゃれ?

吉田 ところで、日本で実際に目にする男性のファッションについてはどう思われますか?

オリヴィエ 洗練されていて、フランスやヨーロッパの男性よりも、おしゃれに気をつかっているように感じますね。

吉田 そうでしょうか?(笑)。

オリヴィエ はい。とくに35歳くらいのひととそれより若いひとたちは、バッグや靴などのコーディネーションも進んでいると感じますし、日本のほうが社会のヒエラルキー(階級支配制度→この場合は上下関係)があると聞いてはいますが、そのなかで遊べる要素が多いのではないかと思います。フランス人は自由に思われていますが、やはりけっこうコンサバなんです。

吉田 日本人のほうが進んでいますか……。ちょっと意外ですね。

オリヴィエ 日本を訪れるたびに、毎回インスピレーションが湧いてきますし、フランス人よりも日本人のファッションのコーディネーションのほうが、「ひねり」をくわえておしゃれを楽しんでいるように感じられるので、たいへん興味深いです。

吉田 それはどのあたりに感じるのでしょうか?

オリヴィエ 多分、「男性らしさ」についての概念が、フランス人と日本人ではちがうのだと思います。

吉田 なるほど、そうなのかもしれません。

オリヴィエ また、日本人はすごくディテイルにこだわるのが好きなのかな? とも思います。どこがちがうか説明するのはなかなか難しいのですが、最終的にはシルエットとなって出ていると思います。

吉田 シルエット……。どこか変ですかね?

オリヴィエ いえ、ポジティブな意味です(笑)。日本人は、日本人にしかできない着こなしをしますから。知り合いのデザイナーやクリエイターが日本を訪れて帰って来ると、みんなとても面白かったといっているんですよ。

吉田 そうなんですか?

オリヴィエ 人間は五感を感じて生きているわけですが、日本人はまず情報が頭に入ってきて感じて、それから身体に入っていくのではないでしょうか。ヨーロッパ人は、本能的に感じて行動するから、より原始的なのかもしれません(笑)。

吉田 いやいや。なかなか面白いですね。

オリヴィエ 日本の気配りやサービスは、細部に神経が行き届いていますよね。ひとつ例をあげると、雨降りのときのデパートの入口で配られる「傘袋」には驚きました。

吉田 あの「傘袋」ですか……。

オリヴィエ もちろんフランスのすべてのサービスが遅れているとはいいませんが、日本を訪れると、レストランでもお店でも、いつも親切なサービスを受けられるので、それも愉しみです。

吉田 住んでいると慣れてしまいますが……。今日はいろいろと貴重なご意見をありがとうございました。たいへん有意義な時間が過ごせました。

(了)

銀座店

エス・テー・デュポン
Tel. 03-3448-1391(代表)
http://www.st-dupont.com

           
Photo Gallery