三原康裕 第1回 ピープル・ツリー代表サフィア・ミニーさんを迎えて(2)
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2015年5月1日

三原康裕 第1回 ピープル・ツリー代表サフィア・ミニーさんを迎えて(2)

第1回 ピープル・ツリー代表 サフィア・ミニーさん(2)
フェアトレードはスローファッション

ファッションデザイナーの三原康裕さんが、社会的な活動によって世論を動かしている人びととの対談を通し、いま世界をより良い方向へ変えるためには具体的になにをすべきか、そして未来の“クリテリオン=基準”とはなにかを探る新連載「Criterion MIHARAYASUHIRO」。
第一回目となる今回は、1993年よりいち早く日本でフェアトレード商品を販売し、2009年春夏コレクションで三原さんとのコラボレーションも決定しているフェアトレードカンパニー「ピープル・ツリー」代表のサフィア・ミニーさんが登場。フェアトレードについて、そして貧困や環境、児童労働などの社会問題について3回にわたって語っていただいた。

写真=北原 薫まとめ=竹石安宏(シティライツ)

哀れみではなく、人々への敬意の表れ

三原 サフィアさんの活動には、人びとに対する強い敬意を感じます。安い賃金で働いている人に対価を払いたいという思いは、けっして哀れみなどではなく敬意の表れだと思うんです。そういう思いをもっている人たちこそが、世の中を変えていく時代ではないかと感じていますね。

サフィア そうですね。現地に足を運んで素晴らしい技術をもった人たちに会うと、彼らを助けるのはそんなに難しいことではないといつも感じるんです。彼らの技術は本当に素晴らしいんですから。
なにがネックになっているかというと、世界のマーケットの情報や、原料を調達するための資本金、そして伝統技術を使って商品開発をする先進国のパートナーなんですね。そういった障壁さえ乗り越えられれば、彼らはちゃんと仕事ができるし、十分な収入も得られると思うんです。ですが、いまの経済システムでは難しいというだけの話です。
とくに私や三原さんが携わる現在のファッション業界では、生産期間がどんどん短くなっており、手刺繍や手織りなどの手づくりのものはとてもできないんです。

三原 それは難しいかもしれませんね。以前、フェアトレードのお仕事をさせてもらったとき、納品されるのが9ヵ月後といわれたんです。そのスパンでは、僕らとしてはどうしても気が遠くなってしまうんですよ(笑)。
ちゃんとひとつひとつ丁寧に手作業でつくられたものは、手にしたときに納得できるものだとはわかっているんですけどね。でも、現在の流通システムでは、やはり難しい部分があると思いました。

サフィア フェアトレードはスローファッションなんです(笑)。ちなみに、いま展示されているコレクションはいつから企画しはじめたものなんですか?

三原 2ヵ月前ですね(笑)。

サフィア そうですか(笑)。

第1回 ピープル・ツリー代表 サフィア・ミニーさん(2)<br><br>フェアトレードはスローファッション

ペルー・アンデス山脈の先住民族ケチュア族の女性。天然素材であるアルパカの原毛を手紡ぎし、手編みで仕立てた素朴なニットウェアは、とても軽くて温かい。©People Tree

三原 やはり、いまのファッションのサイクルは速すぎるんですよね。でも、そういった手間と時間をかけたものは、逆にとても贅たくだと思いますよ。現状のシステムではなかなかつくれないものですからね。ところで、サフィアさんから見た発展途上国はどういった現状なのでしょうか。

第1回 ピープル・ツリー代表 サフィア・ミニーさん(2)<br><br>フェアトレードはスローファッション

インド・デリーのスラム街でアクセサリーを作る子ども。こうした児童労働は深刻な問題となっており、子どもたちが作ったものは先進国のストリートで売られている。©People Tree

サフィア 現在、世界の人口の約2割が1日1ドル(約100円)で暮らしており、約5割が2ドル以下といわれています。そうした人びとが大半であるバングラデシュやインドでは、フェアトレードが導入されているかどうかで、平均収入が倍ほどちがっているのです。
デリーのスラム街などにいくと、10歳にも満たない子どもたちがアクセサリーをつくったりしています。あろうことか、そうした子どもたちのなかには遠方から親に売られてしまったような状態の子までいるのです。それは奴隷のような扱いであり、狭い部屋に何人もの子どもたちが一緒に生活しています。そうした子どもがつくったアクセサリーが、イギリスや日本で売られているんです。しかも、そんな児童労働に対するチェック機能はほとんど機能していません。

三原 それらの国には労働基準法などはないんですか?

サフィア あるにはありますが、警察はまったく動きません。そういった状況は、バイヤーの責任でもあると思っています。これくらいの納期で、お金はこれしか出せませんといった一方的な条件により、安く使える子どもたちまで駆り出されてしまっているのです。そのような子どもたちを生む貧困問題の根底にあるのは、グローバル化による多国籍企業の参入によって、かつては豊かな自然資源とともに暮らしていた現地の人びとの生活が変わってしまったことでしょう。

バングラデシュのフェアトレード団体で糸巻きの作業を行う女性とサフィアさん。民族衣装をまとい、伝統的な木製の糸巻き器を使ってゆっくりと糸を巻いていく。©People Tree

日本にフェアトレードを根づかせるために

三原 状況はとても深刻ですね。

第1回 ピープル・ツリー代表 サフィア・ミニーさん(2)<br><br>フェアトレードはスローファッション

サフィア その通りです。もっと消費者と生産者を近づけるような仕組みをつくっていかなければならないと思っています。

三原 消費者と生産者のあいだに入る、企業の問題が大きいのかもしれませんね。もちろん消費者はいいものが安く手に入るのが理想でしょうが、そうした現状をちゃんと知っていけば、なぜこの価格で売られているのかを理解するような姿勢はあると思います。でも、サフィアさんが運営されている「ピープル・ツリー」の商品は、けっして高くないと思いますけどね。では、今後のサフィアさんの目標をお聞かせいただけますか。

サフィア ぜひ日本に、フェアトレードをもっと広めていきたいと思います。そのためにも三原さんにひとつお願いがあるのですが、来年5月9日に「世界フェアトレード・デー」というイベントを開催する予定です。そこでさまざまなオピニオンリーダーたちから“フェアトレード+エコロジー”をテーマとしたメッセージを募り、Tシャツをつくりたいのですが、三原さんにもぜひ参加していただきたいのです。

三原 それは光栄です。ぜひ参加させてください。

サフィア ありがとうございます! それと、機会があれば三原さんをバングラデシュにご案内し、現地の生産者をご紹介したいと思います。私が世界一好きな村があるんですよ。

三原 ぜひ行きたいですね。じつは僕、現場フェチなんですよ(笑)。とにかくものをつくっている現場や職人の方に会うのが大好きで、靴づくりをはじめたようなものですからね。

サフィア そうなんですか。さすがご自分で靴をつくられていただけありますね。

三原 人がものをつくっているところを見ていると、言葉にはならないなにかが生まれてくるんです。もちろん尊敬もあれば、勇気づけられることもある。僕が毎シーズン前に進んで行けるのも、案外そういった人たちから勇気をもらっているところが大きいからだと思っています。その場でインスピレーションが湧くことも多いですしね。

サフィア なるほど。フェアトレード先の職人さんとも、ぜひ会ってなにかを生み出していただきたいです。

第1回 ピープル・ツリー代表 サフィア・ミニーさん(2)<br><br>フェアトレードはスローファッション

バングラデシュのフェアトレード団体にて。200人以上の女性が手織り、縫製、刺繍などの仕事を得て、家族を支えている。対談中にサフィアさんが三原さんを連れていきたいといっていたのがこの団体だそうだ。©People Tree

Profile
サフィア・ミニー

1964年イギリス生まれ。出版業界などで働きながら若い頃より人権・環境保護のNGO活動に参加。1990年に来日し、翌年にはNGO団体「グローバル・ヴィレッジ」を創立。1993年からフェアトレードを開始し、日本とロンドンにフェアトレード専門ブランド「ピープル・ツリー」を設立する。社会起業家として世界的な評価を得ており、現在も東京とロンドン、そしてフェアトレードを行うさまざまな国々を往復しながら多忙な日々を送っている。家族は夫のジェームズと息子のジェローム、娘のナタリー。

ピープル・ツリー
www.peopletree.co.jp

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