INTERVIEW|渡辺 謙、菊地凛子インタビュー  映画『シャンハイ』の舞台裏
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2015年3月2日

INTERVIEW|渡辺 謙、菊地凛子インタビュー 映画『シャンハイ』の舞台裏

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ミカエル・ハフストローム監督作 映画『シャンハイ』公開記念

渡辺 謙、菊地凛子インタビュー(1)

ジョン・キューザック、コン・リー、チョウ・ユンファらとともに、日本を代表する役者 渡辺 謙さん、菊地凛子さんが出演するとあり、公開前より大きな話題となっている映画『シャンハイ』が、先日公開された。太平洋戦争前夜という時代背景のなか、アメリカ、中国、そして日本という立場のちがう者同士のあいだで繰り広げられる策略、複雑に絡み合う人間関係、動き出す歴史……息つくひまを与えぬスリリングな展開で、観る者を“魔都”へと引き込んでいく。このたび、そんな『シャンハイ』に出演する渡辺 謙さん、菊地凛子さんのインタビューが実現。映画『シャンハイ』の舞台裏について聞いた。

文=OPENERS写真=鈴木健太

──第二次世界大戦という時代背景は、役づくりにおいてなにか影響をあたえましたか?

渡辺 インターナショナルさ、ユニバーサル感というのはどの現場でもあると思うんです。ただ、こういう時代背景だからこそ、それぞれのキャラクターの背景に国旗が見える、ということはありますね。今回僕のなかでちょっとちがうんだな、と思ったのは、いつもなら僕は西洋文化のなかにアジア人がひとり飛び込んでいく、というイメージがあったんだけど、今回はアジアの文化のなかに西洋人がひとり飛び込んでくる。そういう新鮮な感覚がありましたね。

菊地 戦地に向かう決意というか、男性のもっているスピリットのようなものは、実際にはわからない。想像でしかないわけですよね。私はいつも演じる役の人物が、そこまでにいたる足どりみたいなものを設定として自分のなかで作っていて、もちろん作品のなかでは描かれませんが。今回ですと“スミコ”という女性は、夢とか希望をもって上海という土地にわたったと思うんです。でも時代の渦に飲み込まれ、娼婦と言う道を選択しながら、だけど誰かを愛す、ということも人間として当然あって……とても悲劇的な女性です。

INTERVIEW|渡辺 謙、菊地凛子インタビュー  映画『シャンハイ』の舞台裏 02

そんな彼女が物語のキーとなっていて、ある事件をきっかけに、彼女は悲劇のなかにどんどん流されていく。私のなかでは太平洋戦争の直前の話で、そのとき時代はこう動いていて、といったことは意識しなかったというか、もっとちがうところを考えていました。

渡辺 全体のキャラクターもそうなんですよね。“戦争”という大きなフレームがありながら、ぞれぞれのものすごくパーソナルな部分を描いている。

菊地 なにかに中毒になったひと、なにかにアディクトになっている状態を演じるのはとても難しかった。それが愛であろうが、アヘンであろうが、なにかにとり憑かれていく役は、ちょっとちがうところの、変な集中力を使う。そいう意味では、いままでにないものが自分のなかに生まれたように感じました。

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渡辺 僕が演じた“タナカ”という男は、時代背景もありますし、彼の抱えている重い職務という部分もあると思いますが、なかなか感情をおもてにあらわさない、非常に冷酷で緻密な男です。しかし最後には心にずっと秘めていたものが、堰をきったように溢れ出てくる。

でもずっとそんな冷酷な人物像で演じていて、突然感情を噴出させるのは、すごく唐突な感じがしたんです。

だから監督とも相談しながら、さりげないシーンだったり、全然関係のないことを話しているシーンなんかで、たとえば目線の配りや、フレームのなかのポジションといった、些細なことを意識しましたね。“彼がなにを抱えているのか”という、ある種“毒針”のようなものを、観客にそっと刺しておきたかった。

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渡辺 謙、菊地凛子インタビュー(2)

監督はなにも言わない方だったので、逆に不安に

──先の読めない、非常にミステリアスなストーリーですが、現場はどんな雰囲気でしたか?

渡辺 それぞれのキャラクターが内面をさらけ出さないので、相手の表現に対して“あ、そうきたか”というおもしろさはつねにありました。それに対して自分はこう返していこうかな、って、そこでも探り合いですね(笑)。でもやはり、このシチュエーションをみんなきっちり背負っていたので、わりとセットの中ではくだけた空気にはなれないんです。“ピリピリ”ということではないんですけど、役の中の立ち位置がそのままというか、コスチュームを着てオンセットにいるときは、談笑するような雰囲気ではなかったですね。

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© 2009 TWC Asian Film Fund, LLC. All rights reserved.

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菊地 50何日間でしたっけ? 撮影自体は意外と短かったですよね。今回のミカエル・ハフストローム監督はなにも言わない方だったので、逆に不安になってすごい集中できました。いままでは細かく指示を出す監督としかやってこなかったので(笑)、なにも言われないと“私、大丈夫かな……?”って逆に不安になっちゃって。後々聞いたら、「言わないのは凛子がすごく集中していたから、その集中を崩しちゃいけないと思った」って。

監督のもつバックグラウンドは現場の空気に大きく影響する

渡辺 役者のことをすごい見ているんだよね。やはり監督のもつバックグラウンドというのは、現場の空気に非常に大きく影響するもので、たとえば大阪の監督だとラテン系のノリだったり、スパニッシュ系の監督だったらにぎやかで、『バットマン・ビギンズ』や『インセプション』のときのクリストファー・ノーラン監督は非常にロジカルでイギリス人らしいシニックな感じがある。今回のミカエル・ハフストローム監督はスウェーデン出身ですが、世界のなかではいわゆる“大国”ではなく、ある意味ヨーロッパの、少し遠い国という感じですよね。

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だからこそかな、と思ったのが、たとえばそれぞれの国の在り方みたいなものを、ステレオタイプに “こうだよね”って決めつけていない感じがしたんです。“どうだと思う?”と、それぞれのもつ文化や価値観の立脚点とか、役の立場といったものを、ちゃんと理解しようとしてくれる。

菊地 むしろ、こういう監督のほうが役者を煽るのかなって思いました。それもわかっていてやっているのかな、というふうにも思えましたね。ほんとに監督によって役者は……私はとくに監督によって影響されるので、今回はかなり新鮮でしたね。

渡辺 スウェーデンって寒い地方でしょう? 1年間のうち4、5ヵ月すごく寒い時期がある。僕も新潟出身なので、冬のあいだのずっと“ドヨヨン”としている時間ってすごくわかるんです。そういうものってある精神性みたいなものに影響するというか、彼とは近いものを感じたんですよね。言ってしまえば、“根暗”(笑)? 独特のロジカルさみたいなものが僕はちょっと近い感じがして、わりと話しやすかったですね。

トライする姿勢がちがう

──日本を代表する国際俳優のおふたりですが、共演されてみて、お互いどのような印象を受けましたか?

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渡辺 “スミコ”という女性は、どんどん日常とかけ離れていくわけで、けっこう厳しい現場もたくさんあったと思うんです。そのなかで“非日常性”をずっとキープしつづけるというのは、集中力ふくめ、“俳優としての体力”みたいなものがすごく必要で、やっぱりいろんな現場で鍛えられているんだなって感じましたね。

菊地 渡辺さんはまずスケールの大きい方なので、海外の役者と並んでもひけをとらないんです……って私が言うことじゃないんですけど(笑)。

なのでジョン・キューザックと並んで対等にやってもまったく違和感がないんです。そういう意味でも本当に国際的な俳優さんなんだって感じましたし、トライする姿勢がちがうんだと思います。あと監督とのやりとりを見ていて、“こうすればいいのか”と、とても勉強になりました。

渡辺 ジョン・キューザックがあんなにデカいとは思わなかったね(笑)。

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ミカエル・ハフストローム監督作 映画『シャンハイ』公開記念

渡辺 謙、菊地凛子インタビュー(3)

自分が想像している以上のことが待ち受けている

──役者として、日本の作品と海外の作品のちがいはどんなところに感じますか?

渡辺 一番大きなちがいというと、やはりマーケットの規模だと思います。たとえば本作でも、僕は日本の俳優として、完成された脚本のなかで精一杯いろんなことをトライしてやっていくのですが、この作品が中国で上映されたとき、僕の役はどう映るのか? 韓国で公開されたときは? それはある意味僕の範疇を超えた、その国の歴史にリンクしてしまう。だからといって、それをあまりに僕が意識しすぎて、カドのとれた演技をしても、この話にそぐわなくなってしまいますよね。ただその“辿りつく先”みたいなものは、自分が想像している以上のことを受け止められてしまうんだなってことを強く感じますね。撮ってる最中はそんなこと考えてないんですけど、その後のリアクションを聞いたりすると、ああ、なるほど、そう見るのかって。

『硫黄島からの手紙』のとき、ゴールデングローブの投票権ももっているハリウッドの外国人記者クラブがあるんですけど、韓国の記者の方がプレスカンファレンスのとき、「あなたは日本が戦争中におこなった行為についてどう思っているのですか」って質問してきたんです。

いや驚きましたね、この映画との関係はないわけですから……さすがにここでそれを聞くかって!? って思いました(笑)。一応、僕は僕なりの意見として、この映画、硫黄島についてこう思っていますって話はしましたけど。

INTERVIEW|渡辺 謙、菊地凛子インタビュー  映画『シャンハイ』の舞台裏 10

映画というものは国も歴史も思想も超えている

でもプレスカンファレンスが終わって、軽食を食べながら話をしているときに、韓国の記者の方が来て、「さっきはごめんね。一応聞いておかないと俺も立場的に……」と。そのとき、なるほどなって思いました。みんな自分の国を背負って来ている。

やっぱり背景に自分の国があったり、自分の立場があったり。でもそういうものを全部ひっくるめて映画を受け止める。映画というものはそういうものを超えていくんですよね。国もそうだし、歴史もそうだし、思想も。世界中にハリウッドのマーケットというのは拡大しているんですよね。まぁ、撮っているときは夢中で、全然そんなことはこれっぽちも考えないんだけどね(笑)。

──ありがとうございました。

『上海』 丸の内ピカデリーほか、全国の劇場にて公開中

シャンハイ
丸の内ピカデリーほか、全国の劇場にて公開中
監督|ミカエル・ハフストローム
キャスト|ジョン・キューザック、コン・リー、チョウ・ユンファ、菊地凛子、渡辺 謙
配給|ギャガ Powered byヒューマックスシネマ
http://shanghai.gaga.ne.jp/
© 2009 TWC Asian Film Fund, LLC. All rights reserved.

陰謀うずまく開戦前夜の上海を舞台に、運命に挑む愛を描くサスペンス大作!

1941年、上海。イギリス、フランス、アメリカ、そして日本が租界を置き、妖しくも危険な“魔都”を制しようと、睨み合っていた。上海に降り立った米国諜報員ポール・ソームズ(ジョン・キューザック)は、親友である同僚のコナー(ジェフリー・ディーン・モーガン)の死の真相を暴くべく奔走。捜査線上に浮かび上がったのは、いずれも謎に包まれた者たちばかり。執拗にポールをつけ狙う日本軍の大佐タナカ(渡辺 謙)、忽然と姿を消したコナーの恋人 スミコ(菊地凛子)、中国裏社会のドン・アンソニー(チョウ・ユンファ)と、彼の美しき妻アンナ(コン・リー)。やがてポールは革命の指導者として暗躍するアンナの裏の顔を知り、理想に生きる彼女に強く惹かれはじめる。そんななか、コナーが探っていた空母“加賀”が、800キロの魚雷を積んで密かに上海の港を出発する。コナーが握った死に値する機密とは?

もはやアンナへの想いを抑えきれないソームズ。妻の秘密を知っても、命をかけて守ろうとするアンソニー。執拗にアンナを追うタナカ。はたしてスミコは、アメリカと日本、どちらのスパイだったのか──? すべての謎を解くカギは、男たちの“愛”にあった。

           
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