佐々木進氏×鈴木正文氏 スペシャル対談
佐々木進氏(JUN代表取締役社長)×鈴木正文氏(ENGINE編集長)対談
あたらしい時代を担うクリエイティブなひと、来たれ(1)
ファッションを中心に、レコードショップや飲食店など情報発信の場をとおして、魅力的なライフスタイルを提案するファッションブランド「JUN」。2020年に向けてさらに進化すべく「JUN2020」プロジェクトを発足。同プロジェクトの中心を担う人材を公募するという。その総指揮をとる佐々木 進社長に、旧知の仲であるENGINE編集長が期待することは。
文=小川フミオ写真=五十嵐隆裕
クルマ趣味という共通点
──ファッションとクルマを軸に、クリエイティブな仕事の楽しさについて、話しをうかがいたいと思います。そもそも『ENGINE』の鈴木正文編集長と、佐々木進社長が知り合ったきっかけは?
佐々木 12、13年前になりますね。共通の友人を介して、お話をするようになって。鈴木さんがENGINEの創刊準備でお忙しくしていらっしゃるころだったと記憶しています。熱気に溢れていて、楽しそうでしたね。
鈴木 佐々木さんも、APCとか立ち上げられたころでしたよね。
佐々木 個人的な親交ができてからはクルマのことをいろいろ教わりました。ポルシェにも乗せてもらいましたねえ。
鈴木 911GT3ですね。いまもポルシェ911です。少し前の964という型のカブリオレです。佐々木さんは何に乗っていらっしゃるんですか。
佐々木 アウディRS4です。それまで理性系のクルマ選びが多かったのですが、これからは情熱系にしたくて。鈴木さん、欲しいクルマはありますか?
鈴木 ベントリーのミュルザンヌでしょうか。ロールズロイスのゴーストもいいと思うのですが、どちらかというとミュルザンヌですね。自分で乗るなら、とボディ色まで決めているんです(笑)。
佐々木 何色ですか? ぜひ教えてください。
鈴木 外板色がシグナルレッド。イギリスの信号の赤って少しピンクが混ざっているような色合いなのですが、その色と、濃いグレーのシート色との組み合わせがボクの趣味です。スポーツカーなら、ポルシェのボクスター・スパイダーに、いま興味があります。6段マニュアル、エアコンなしのスペックで行きたいですね。
自己表現としてのファッションとクルマ
佐々木 魅力的なクルマがいろいろあるのに、若いひとがクルマに興味をもたないという傾向はつづいているわけですね。
鈴木 洋服はどうでしょう。
佐々木 似てますねえ。ただ、これまでの“安いがいい”という流れから潮目が変わってきているように感じています。それなりの価格を払って質のいいものを手に入れたほうがいいと思う顧客層が、私たちの店に来てくださるようになっています。
鈴木 洋服を着るって、すごく大事なことなんですよね。一歩外に出ればそこは公共空間ですから、自分がどう見られるか意識しなくてはいけません。それが洋服を着る楽しさでもあると思うのですが。前に、スーパーでアジの開きを買っていたのを見られて、「スズキは意外にふつうのものを食べている」とか目撃したひとが触れまわったり(笑)。実際、ふつうのものを食べているんです。要するに、自分というのは、他人の眼に映った姿だと意識しなくてはいけないんですね。誰だって、洋服を選ぶときは、“彼にこう思われたいな、彼女にこう思われたいな”と思ったりしていますよね。
佐々木 そうですね。私もこういう自分であろうということを意識しています。
鈴木 外に出ていて四六時中、これはオレなんだ、これはアタシなんだ、と強い意志をもちつづけるのは大変です。そういうとき、サポートしてくれる何かが欲しい。他人から尊敬を勝ち得るためには知性ある話し方や教養ある振る舞いでもいいのですが、洋服も味方になってくれます。オシャレをしていると、誰と会っても気後れしないで済みますから。
佐々木 洋服を作っている私が言うのもなんですが、オシャレは別に意識しないでもいいんですよね。無意識の一貫性というんでしょうか。自分の好きな上下を着ると、なんとなくそのひとの自己表現になります。
鈴木 あきらめてはいけないですね。子どものころを振り返ると、勉強を途中で投げ出したり、野球やってもピッチャーで四番という希望を途中で捨てたり、誰しもそんな経験があると思うんです。オシャレもおなじ。でも、いちどオシャレしたいと思ったことがあるひとなら、根っこはどこかに残っています。“ウチの部長、服に全然関心ない”と女子社員にくさされるようなひとでも、シャツの選びに凝っていたりするでしょう。
佐々木 そうそう。そんな方のお手伝いをするのは楽しいですよ。生活全般にいえることですが、ほんのすこしのヒントでクオリティがぐっと上がる。洋服のアイテム選びにかぎらず、小物だって、石けんや化粧水だって、レストランだってバーだって、クオリティのいいものがあって、それを体験すると、一種の目覚めみたいなものを味わっていただけることもあります。白金の『ビオトープ』ではそんな生活全般の提案を目指しています。
JUNが求めている人材とは
──さまざまな分野で魅力的な提案をしていくにあたって、スタッフは大事ですね。
佐々木 はい。いま弊社では人材を公募しているのですが、一緒に仕事をしたいのは、自分の興味を仕事につなげられるひとです。それが私の考えるクリエイティブ。
鈴木 営業担当だってレストランのキッチンにいるひとだって、クリエイティブであることが大事ですからね。
佐々木 たとえばスタッフのなかに、異業種とのコラボレーションをしたいという人間がいました。先方に何度働きかけてもなかなかいい返事が返ってこない。でも最終的にはそのスタッフの情熱とネバリで口説き落とすのに成功しました。それで実現したのが、カルピスの水玉を使った服と、メリーチョコレートのシンボルである女の子の横顔を使った服。
鈴木 それはおもしろいですね(笑)。
佐々木 こういうミーハーさが意外に大事なんですよ。“それはちょっとミーハーすぎるんじゃない?”と他人に言われるようなことのなかに、いまの時代求められているものが潜んでいる、と私は思っています。だからうちではミーハーさがないと企画がとおらないほどです。
鈴木 結果が分からないけれどやる、という姿勢をもつひとは大事にしたいですね。水玉だって最初はどこまで考えていらっしゃったか分かりませんが、企画としてはおもしろい。そのあと先方を説得できたのは、きっと“こいつなにかありそう”と思わせたからでしょうね。それはひとの力ですよね。
佐々木 そのひとを信じれば、私は基本的に全部オーケイという姿勢なんです。もちろん失敗することだってあるでしょう。でもそこから学ぶ姿勢があれば大丈夫です。
佐々木進氏(JUN代表取締役社長)×鈴木正文氏(ENGINE編集長)対談
あたらしい時代を担うクリエイティブなひと、来たれ(2)
『ビオトープ』が提案する理想のスタイル
──対談を聞いていると、ひととモノとのコミュニケーションがなにより大事、と思われます。
鈴木 クルマにしても性能やデザインがすべてではないですからね。どう楽しむか。たとえばボクは洋服を買うとき、クルマで出かけることが多いのですが、本当は店の前にさっと駐めたい。それで出てきたとき、見送ってくれた店員さんが“カッコいいですねえ”と言ってくれれば、うれしいわけです。
佐々木 買いにきた方と商品だけでなく、クルマがあいだに入って、より気持ちのよい関係が成立するというのはわかります。
鈴木 離れた駐車場に駐めて歩いていかなくてはならない、というのでは寂しい。
佐々木 自動車で店に乗りつけるのは、楽しいですからね。さらに、ショップではいかに商品を扱っているか上手なプレゼンテーションが店頭にあって、また、いかにコンセプトを説明しながら販売できるか、それも大事だと思います。ただ売ればいいというビジネスではだめだと私は思います。そこにひとの力が必要です。たとえば「オシャレをしたい」と思っていらっしゃったお客さまに対して、ラグジュアリーに見せる着こなしもあれば、ナチュラルに品よくまとめる着こなしもあって、提案には幅が広い。そこも私たち、売るがわがご提供するコミュニケーションの範囲だと思います。
鈴木 クルマでいえば、たとえばランチアのテージスというモデルがあります。目立たないオシャレ。ファッションでもたしかに、質の高いカシミアのジャケットに、しっかりしたフランネルのパンツ、それにクラシックなレースアップの靴というオーソドックスなスタイルだって、とてもいいですよね。佐々木さんの理想はどんなスタイルの提案ですか?
佐々木 お店のコンセプトとしては、「ワクワクしていただくこと」につきます。服もコーディネートで、現代的なあたらしさを提案したい。
鈴木 自分が興味をもつことに集中するというのがもっとも大事ですね。雑誌でも、本当に興味ある事柄について書いたとき、読者の方からの反響が大きいですから。いまボクたちがいる『ビオトープ』3階の「アーヴィングプレイス」の内装だって、誰かのこだわりでデザインされているわけでしょう。すごく印象ぶかいですよね。椅子とかシャンデリアとか。いろいろなスタイルを上手に組み合わせていますね。
佐々木 リニューアルしたのは2010年3月ですが、それに先だってディレクターの熊谷隆志氏と、スタイルの確認の意味でマンハッタンなどをまわりました。1階では洗練されたアロマと植物を販売する。2階は洋服ですがセレクト的な要素も入れています。考えたのは、都会に生きるひとたちのためにアーシーな要素を入れようということでした。人工的なものばかりでは今の気分にフィットしないでしょう。
鈴木 佐々木さんが興味をもっていらっしゃる世界を一緒に作りあげてくれるスタッフと仕事をする。
佐々木 クリエイターには、こういうものを作りたいというイメージや目的を提示して依頼しますが、そこにそのひとの価値観やテイストが反映されるのが楽しみです。私が信頼できるひとが世界観を100パーセント発揮してモノづくりをしてくれると、ビジネスとしてもいいかたちになると信じています。
内面にやる気が溢れていれば経験は問わない
鈴木 佐々木さん、いま何に興味ありますか?
佐々木 個人的にはからだを動かすことです。
鈴木 個人的なことが、ビジネスのヒントになるかもしれないですね。たとえばジムのトレーナーにいいひとがいませんか? そのひとと何か一緒にできると考えられないですか? そんなふうに融通無碍にビジネスを拡げていくのが、ボクが佐々木さんに期待していることです。
佐々木 たしかにビジネスの種というのはどこからでも芽を出す可能性があります。それを育てられるかどうか。その感受性こそ私がスタッフに求めているものです。
鈴木 これからのビジネスでは、あまり大きな規模でモノを作らないのがいいかもしれないと思っています。小さなグループを相手にした真摯なモノづくり。お店に来てくれるお客さんを巻き込んで、いわばイベントを興すのが、ボクがいいと思う売り方。だから、生の声で唄える人間がもっとも重要ですね。
佐々木 生の声で唄う?
鈴木 比喩ですが。音楽ライブでももっとも感動的なのは生声での歌でしょう。それとおなじように、ダイレクトなかたちでお客とコミュニケートする能力があるスタッフがいれば、お店は伸びていくのではないでしょう。
佐々木 それが鈴木さんの求める人材ですか?
鈴木 ボクは顔のいいひとが好きです。顔がいいというのは美男美女というのではなく、内面のやる気がはつらつとあらわれているような顔つきのことです。そういうスタッフと仕事をするのが好きですね。
佐々木 同感です。さきほども申し上げましたが、私の会社ではいま人材を募集しています。ファッションビジネスを広義にとらえて、事業を伸ばしていってくれるひと。経験者でも未経験者でもいい。こんなことをやりたいというものを内部にもっているひとがいたら、私たちのもとへすぐにでも訪れてきていただきたい。
鈴木 JUNというブランドとはつきあいも長いし、今後の変化を楽しみにしています。
佐々木 進|SASAKI Susumu
1965年生まれ。アメリカに留学後、四方義朗氏率いるサル・インターナショナルにて国内外のショーの演出や選曲に携わる。89年JUN入社。90年に「アダム エ ロペ」を立ち上げ、「A.P.C」のオンリーショップ展開なども手がける。98年常務就任。2000年9月、代表取締役社長に就任。現在にいたる。
鈴木正文|SUZUKI Masafumi
1949年東京都生まれ。英字紙記者を経て、二玄社に入社。自動車雑誌『NAVI』の創刊に参画し、89年に編集長就任。数値だけでなく社会的、文化的な尺度で自動車を批評する自動車文化雑誌をスローガンに編集を行う。99年に独立し翌年から男性ライフスタイル月刊誌『ENGINE』(新潮社)を創刊。著書には『マルクス』『走れ!ヨコグルマ』など。
Adam et Rope [biotop]|アダム エ ロペ ビオトープ
『アダム エ ロペ白金台本店』が、“ビオトープ(人間もふくめた生き物本来の生態系が保たれた空間)”をコンセプトに緑溢れる複合ショップにリニューアル。ファッションのほか、植物のある暮らしを提案するボタニカルショップやナチュラルコスメ、カフェ&レストラン「アーヴィングプレイス」などを展開、ライフスタイルを提案する空間となっている。
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