南伊、カプリ島からの香り──カルトゥージア(2)
カルトゥージア──レモンの梢を駆け抜ける薫風(2)
カルトゥージアを取り扱うロゼストの五十嵐太一さんにうかがう後編。イタリアの地域性、なかでも“なぜ南イタリアが素晴らしいのか”について──
Photo by Jamandfix
ナポリは大阪、ミラノは東京?
基本的に“南”の人はにおうんですよね。においというか香りですけど。“北”の人たちは、僕にはあまり気にならない。南の人たちはそれぞれに個性的な香りがあるんですよ。そして、彼らは装うということにすごく貪欲です。南のほうがストレートに自分を表現する──そういうことに長けているという気がします。
ポケットチーフの挿し方ひとつとっても、南はあえて派手に見えるように挿しています。それに対して北は控えめ。挿さない人もいるくらいです。シャツの柄にしてもそうですね。南に行くほど派手な色になります。陽射しがちがうので派手な色が映える、ということもあるんでしょうけれど。
洗練という点では、正直なところミラノでしょう。ただ装うということでは、本能的な欲望としての“服を楽しむ”姿勢、自分の生き様みたいなことを服に込めて表現する──そういう文化は、南のほうにより根づいているのではないかという気がします。
香りというものもその延長線上にある。“アイツのにおい”みたいなものがあるわけです。南の人たちのほうが自分の香り、自分のスタイルをもっています。それが格好いいとかわるいとかはあまり関係がないですね。自分にとって心地よければそれでいいんです。
ミラノではトレンドに沿った着こなしこそがオシャレ、という考え方はつねにつきまとってきますが、ナポリなど南のほうにいるとまったく関係ないですね。そんなトレンドで固めたような格好をしている人は逆にいません。
街でおじさんどうしがしゃべっているのを見ても普通に格好いいですしね。彼らはトレンドを踏まえたうえでの色や素材、シルエットを装っているかというと、かならずしもそうではありません。でも、みんないいものを知っているということなんです。
仕立て屋だっていまもたくさんあります。上質なものを自分のバランスで着こなしている。それがあるべき姿なんじゃないかと最近思うようになりました。
それに対して、日本はある意味で世界のいちばん最先端です。
ファッションにかんして、とくに若い人たちのハイファッションをストリートとミックスするセンスなんて、世界中どこへ行ってもほかにはありません。彼らはいちばんオシャレだと思います。
それにくらべると40、50歳代のおとなたちは学生時代にはファッションにかける時間の余裕なんてじゅうぶんになかったでしょうから、いま興味がある人はトレンドそのままになってしまっていますよね。自分のスタイルというよりはそのときどきの流行というか、“着せられている”感が強い。しょうがないことなんですかね。
背景を知ったうえで、はじめて手にとってもらえる
私たちは大きな化粧品会社ではないので、派手な広告宣伝ができるわけではありません。それよりはむしろ取り扱っていただけるお店を制限させていただいているくらいです。ある程度こちらで選ばせていただいて、われわれのスタッフがうかがって香りの説明をします。
お客さまにはきちんと「こういう商品です」ということをわかっていただく売り方をしよう、むやみにいろいろなところで売っていくというスタンスをとるのはやめよう、と。イタリア本国側ともその点では一致しています。
価格もそれなりの商品なので、私たちとしてはいいものを知ってらっしゃる方に楽しんでいただければいいんです。
日本で一般的なのはオー・ド・トワレですね。ルーム・フレグランスも案外人気があります。練り香水は最近注目されるようになりました。
メディテラネオは万人受けする香りです。男性ならイオ・カプリ。少しスパイシーですね。リジェアは個人的には女性向きの香りだと思います。すごく上品な甘い香り。濃度の濃いいい香りとでも言うんでしょうか。
4種類のカタチは、たとえばおなじ香りでもふだん使いにはオー・ド・トワレやオー・ド・パルファム、旅には練り香水、そして自宅ではルーム・フレグランスというように、ライフスタイルに密着したかたちで自分の好きな香水をいつでもどこでも楽しんでいただけます。そういったコンセプトを広めていければと思います。