“語らずにはいられない”洋服

ひと言に“ファッションブランド”と言うには、「Nigel Cabourn（ナイジェル・ケーボン）」のコレクションは一般的な概念からかけ離れているといえるかもしれない。斬新なアイデアをもとに、つねに最先端を追い求め、ハイスピードで移り変わるファッションの世界とは一線を画し、デザイナー ナイジェル・ケーボン氏が生み出すアイテムは歴史的事実に基づいた確固たるストーリーを背景にもつ。彼はヴィンテージコレクターでもあり、そのコレクションは30年にわたり収集され、いまや4000点を超えるという彼のヴィンテージコレクション。

そのほとんどが1910年から50年代のイギリスを中心としたヨーロッパ、アメリカの軍服やワークウェア、世界の名だたる冒険家たちも愛用したアウトドアウェアである。それら膨大なアーカイブをとおして歴史が語るデザインの“理由”、その確かな“価値”を現代に蘇らせることで「ナイジェル・ケーボン」のコレクションは展開される。細かなデザインディテールはもちろん、一見しただけではわからない歴史に裏打ちされた機能美、それに基づき選ばれ、ときに開発される素材──そのすべてに“理由”がある。

大量生産、大量消費の現代において、これほどまで“語らずにはいられない”洋服があるだろうか。そんな「ナイジェル・ケーボン」渾身の新作シャツが11月3日（木）よりナイジェル・ケーボン各店、ショッピングサイト「ルモアズ」にて先行発売される。完成にいたるまでのコストなど度外視で作り上げられた新作、その魅力とは。

クイックデリバリーの流れとはかけ離れたプロジェクト

──もともとは2012年春夏に発売予定だったということですが、先行販売に踏み切った理由とは？

この製品に使われているファブリックは、ほかの多くの製品同様に、ナイジェル・ケーボンが開発したものです。そのなかでもこのファブリックは、糸の前段階、すなわち短繊維の設計、選択から着手したスペシャルな企画。ファッション界ではいまや当たり前となっているクイックデリバリーの流れとはかけ離れたプロジェクトです。

シャツのカラーバリエーション展開はブランドを問わず一般的な動きであり、本製品も一見するとどこにでもあるシンプルな無地シャツです。ただし特殊なファブリックを使い、特殊な方法で仕立てた本製品は、多くのお客さまにご支持をいただく定番シリーズとして確立しています。定番生地なのでシーズンは問いません。

この生地を使って定番の無地シリーズのほかに特別なモデルを作りました。これは今年の6月にピッティ・ウオモからスタートし、東京で終了した2012年春夏展示会用に作られたものですから、実際に店頭に置かれるのは12年の1月以降を予定していました。しかし展示会発表直後に「一刻も早く見てみたい」というバイヤーさんやお客さまの強いご要望をいただきました。そこで、数量は非常にかぎられますが、今回の先行発売が実現しました。

素材そのものに対する深い知識と、想像力が欠かせない糸の開発

──巷に溢れる同様のシャツと一線を画す特徴とは？

ひとつは素材が圧倒的にちがう点。まず糸についてですが、タテ糸には生成りのコーマ糸を使用しています。コーマ糸とは、2、3ミリから10数ミリのものまで、さまざまな長さのものが混在する綿の短繊維をコーミングしていくことで微細なカス、短い繊維をかき落とし、長い繊維だけの状態に整えたものを撚り合せて長くつなげたものです。基となる短繊維が長いほど毛羽が少なく、しなやかで肌触りのよい、強靭で光たくのあるコーマ糸ができます。素材を削ることで上質な部分だけを取り出し、使用するわけですから当然コストはかさみますが、そのぶん独自の特色をもった、質の高い糸が生まれるのです。

そしてヨコ糸には、スーピマ・コットンと、サンフォーキン・コットンというふたつの超長綿を掛け合わせて開発した太番の糸を使用しています。糸の開発にはシャツとして完成した状態を想像しながら数ミリ単位の繊維をどれにしようかと選んでいくわけですが、それには素材そのものに対する深い知識と、想像力が欠かせません。

本品はヨコ糸が太番のため生地全体に厚みと迫力を演出するとともに、豊かな表情を与えています。こうした糸の個性だけに頼らず、製織段階での打ち込み密度についても緻密な計算も欠かせません。このシャツの場合、1920年代のフレンチワークに使用されるオックス組織の密度をターゲットとしています。こうして高度な設計のもと作り上げられた生地は綿そのものの魅力を存分に発揮し、ハリのある、自然なままの光たくをはなっています。通常オックスフォードシャツというのはツヤ・ハリを出すために表面加工がされています。要はメッキです。このシャツにはそうしたメッキは一切ほどこしていません。

3年後、5年後も、いまと変わらぬシルエットであること

──なぜ糸から作るほどの手間をかけてまで、ベーシックなアイテムを作ろうと？

正直、年単位での作業でした（笑）。当然、失敗の数も数えきれません。しかしそれだけのコストをかけてでも、絶対的な価値観をもったものを提案したかった。逆にいえば、どこにでもあるようなものはやっても意味がない。先ほど数量が非常にかぎられると申しあげましたが、じつはこのシャツは生産に4ヵ月を要します。糸の段階から作りはじめるためです。

普通に考えれば生地のストックさえ作っておけばあとはカタチにするだけだと思いますよね。しかしこのシャツの場合、糸の基となる超長綿のストックはありますが、糸になった状態、生地になった状態でのストックがありません。表面加工には生地の防縮効果もあるため、生地が安定し、大量の作り置きが可能になるのですが、このシャツは表面加工をほどこさないため、織り上がった生地の縮率がロットによって微妙に異なり、そのため縫製作業をロットによって適合させていかなければならないんです。一般的な生産・販売の流れにあてはめれば非常に非効率です。

しかし3年後、5年後も、いまと変わらぬシルエットでお客さまの手もとにあること。たとえほかのシャツが5年後にはボロ布のようにクタクタになってしまうような着方をしたとしても、いまのカタチ、素材感を保ちつづけるための耐久性を、生地の質、縫製のクオリティをもって追求しているのです。

1940年代の英国士官のユニフォームをイメージ

──デザインのイメージソースとは？

ナイジェル・ケーボンは、一般的なファッションデザイナーが、みずからの感性を指針に机上でラインを描く手法はとりません。長い時の流れ、冒険、あるいは戦場において取捨選択され、さまざまな紆余曲折、改善に次ぐ改善を経て、ミリ単位まで追い込まれたヴィンテージウェアをベースにしています。まずシーズンテーマを決め、それに沿ってデザインを関連づけていく通常のファッションデザイナーのやり方と比べると、やや違和感があるかもしれません。デザインディテールにとどまらず、ファブリックについても同様のことが言えます。このシャツの場合は1920年代の緻密な設計がなされたオックスフォード生地との出会いから開発がスタートし、アップグレードさせてカタチになりました。

ディテールについては、1940年代の英国士官のユニフォームをベースにしています。着丈が長めで、裾を大きくカーブさせたデザインは、シャツの裾が出ているのはみっともないという、士官の習慣からパンツインをしたさいに裾が出ないようにと考えられた当時のアイデアをそのまま再現しています。前たてはパンツイン直上である第五ボタン位置までで終わり、裾までは大きくカーブした左身頃がつづきます。

オリジナルのヴィンテージウェアは生地自体がもっと分厚く、より固い生地で仕立てられています。フロントボタンの並んだ前タテの部分は縫製手順上、何枚もの布地が重なるわけですから、かなり分厚くなりますよね。だからパンツインしたさいにこの部分がゴロつかないように、また重なり分量を大きくすることで、激しい動きでも身体に沿うようにするためです。もちろん現代ではシャツを出した着こなしの方が多く見られますが、その場合でも、ほかのシャツとはあきらかに異なる個性をもったシルエットといえるでしょう。

ウェストがシェイプされたドレッシーな仕上がり

じつは襟もとはボタンダウンなんです。普通は襟を貫通したカタチでボタンホールをほどこしますが、このシャツは襟の生地を2枚重ね、中に隠れるようにしています。これは当時のアイディアではなく、ブランドのアレンジです。ボタンダウンシャツのルーツはポロ競技にあります。発祥はアメリカ発のスポーツ用シャツという、カジュアルな性格のアイテムです。今回のシャツはイギリスベースですので、便利なボタウンダウンの機能だけを採用し、ドレッシーに仕上げました。脇にダーツをとっているのでウェストがほどよくシェイプされています。

──いまですと秋冬コレクションとのコーディネイトになるかと思いますが、今季ブランドが提案しているスタイルとは？

今季のテーマは“In collaboration＝協力して”です。イギリス空軍の飛行場で、兵士たちが飛行機の傍らで話をしているようすをおさめた一枚の写真からイメージを膨らませています。しかし偶然にも、米国「エディー・バウアー」「ユケテン」や、英国「ブレディ」からコラボレーションの話がつぎつぎと舞い込み、文字どおり多くの“In collaboration”が生まれたちょっとユニークなコレクションとなりました。

そんな米国「エディー・バウアー」とのコラボレーションで作られたダウンウェアや英国伝統のマロリージャケット、ミリタリーピーコートなど、ディテールにしても素材にしてもパワフルなアウターウェアはブランドの特徴といえるでしょう。力強いアウターの重い印象に、上質でカラフルなシャツを合わせて軽さとさりげないエレガンスを取り入れた、ほどよく力の抜けた品のあるカジュアルスタイルを今季はお薦めします。

──ありがとうございました。

THE ARMY GYM
東京都目黒区青葉台1-21-11
Tel. 03-3770-2186
営業時間｜11:00～20:00
定休日なし（年末年始を除く）

先行販売を記念してノベルティキャンペーンを実施！
『THE ARMY GYM - Nigel Cabourn FLAGSHIP STORE』をはじめ、ナイジェル・ケーボン各店舗では3万1500円以上お買い上げの方に、そしてショッピングサイト「rumors」では「BRITISH OFFICERS SHIRT」をお買い上げいただいた方に、ノベルティとしてレザーキーホルダーをプレゼント。なお、ノベルティはなくなり次第終了となります。

対象店舗
THE ARMY GYM - Nigel Cabourn FLAGSHIP STORE
東京都目黒区青葉台1-21-11
Tel. 03-3770-2186

THE ARMY GYM - Nigel Cabourn FUKUOKA
福岡県福岡市中央区今泉2-5-29　2F
Tel. 092-761-8898

NIGEL CABOURN ISETAN SHINJUKU STORE
東京都新宿区新宿3-14-1 伊勢丹メンズ館6F
Tel. 03-3352-1111（大代表）

NIGEL CABOURN MATSUYA GINZA STORE
東京都中央区銀座3-6-1 松屋銀座 5F
Tel. 03-3562-2810

NIGEL CABOURN MITSUKOSHI ISETAN OSAKA STORE
大阪府大阪市北区梅田3-1-3 JR大阪三越伊勢丹 9F
Tel. 06-6341-1213

NAVY LOUNGE / PT ALFRED
東京都渋谷区恵比寿西2-4-5　星ビル2F
Tel. 03-3477-7952