デザイナー・松井征心が語る「シセ」の正体|SISE
SISE|シセ
インターナショナル・ウールマーク・プライズ世界大会へ臨む、日本の新星
デザイナー・松井征心が語る「シセ」の正体(1)
カール・ラガーフェルド、イヴ・サンローランなど、ファッション界のレジェンドを輩出してきた権威あるコンテスト「インターナショナル・ウールマーク・プライズ(IWP)」。この大会に本年、アジア代表として日本のブランド「SISE (シセ)」が出場する。大会を目前に、デザイナーの松井征心氏へ、インタビューを試みた。
Photographs by TAKADA MidzuhoText by IWANAGA Morito(OPENERS)
あたらしい世代が作る日本のモードを示す
――インターナショナル・ウールマーク・プライズ(以下、IWP)への参加のきっかけは?
メルセデス・ベンツ ファッション・ウィーク 東京でコレクションを発表した際、ジャパン・ファッション・ウィーク・オーガナイゼーションが、参加ブランドのなかからいくつかIWP出場候補として、ザ・ウールマーク・カンパニーへ推薦したなかに、僕たちも含まれていました。それから、過去に発表したコレクションの資料などが、IWPの主催者であるザ・ウールマーク・カンパニーへ提出され、審査の結果、選出されました。
当初は、大会のことを詳しく知らず、その分、気負いがなかったんです。世界的に大きなタイトルであることを知ったのは、参加が決まったあとですね。
――ブランドとしては、ウールを使うことが多かったのですか?
立ち上げ当初から、得意としています。おなじ編地や織地のアイテムでも、コットンとウールだったら、絶対にウールを選びます。不思議と僕は、以前からウールには惹かれるものを感じていました。
――ウールにたいするイメージは?
特性によっておなじ工場でも仕立てが変わるという、とても面白い素材であり、生き物(天然素材)であることを強く意識させられる素材ですね。
個人的には、“綺麗な面(つら)”をしているものが好みです。ウールが高機能素材だということは知っていたのですが、今回のプライズで、その機能性、可能性を再認識しました。
――大会に提出した作品で、アピールしたかったことは?
日本にもシンプルでミニマムで、いいブランドがあるということを伝えたかった。僕たちのような若い世代が作るモードはすでに存在している“日本のモード”とは絶対的に違うものがあるはずなんです。
いわゆる日本のメンズブランドにはある種の色がついていると思うんですね。その色のなかのひとつには、なりたくなかった。
これまで自分たちがやってきたことへの自負はもちろんありますが、IWPのアジア大会で結果として第三者から認めてもらえたのは、今後ブランドが展開していくうえでも、大きな意味があるとおもっています。
――コレクションを拝見させていただいているなかでも、パターンワークやカッティングが特徴的だと感じました。
シルエットとバランスによるデザインで、デイリーに着られることを意識しています。それは、今回のIWPの審査基準にもマッチしたと考えています。クリエイションだけではなく、実際に着るということも評価する、ビジネス面も加味した内容だったので、僕たちにとって、非常に有意義な大会であるという認識をもっています。シセよりもクリエイションに特化したブランドは日本にもたくさんあるので。
SISE|シセ
インターナショナル・ウールマーク・プライズ世界大会へ臨む、日本の新星
デザイナー・松井征心が語る「シセ」の正体(2)
洋服を作るのではなく、ブランドを作る
――松井さんが考える「シセらしさ」とは?
デイリーであること、シンプルであること──それがシルエットやバランスに表れているのかな、と。ここ数年、“シンプルではないシンプル”を作ることをコレクションの課題としています。概念ごと作るというか。
“シンプル”ということを“デザインしない”ことと、履き違えていた時代があったように思います。ちゃんと、“シンプルではないシンプル”をデザインし、そこにアイデンティティを組み込んでいく──そういうしていくことで、おのずと「らしさ」というものが姿を現してくるのではないか、と。
――自身のクリエイションにたいして、おもうところはありますか?
最近は、一概に自分だけのものとは言えない、とおもいます。当初考えていたものから、ファンの存在によって変容していますね。以前はシセを体現するために、ヘアスタイルやファッション、ライフスタイルも、ブランドの世界観がプライベートを侵食していました。現在は、ファンがそれぞれシセのイメージをもってくれている。肩の荷が降りたというか、より自然体でいられるようになりました。
僕は、服が作りたかったのではなく、ブランドが作りたかったんです。学生のころから「マルタン・マルジェラ」が好きで。Tシャツも、あの4本ステッチが入っているだけで、まったく別物になる。僕は、Tシャツが欲しかったわけではなく、マルタン・マルジェラの服が欲しかった。それが、“ブランド”であることだとおもうんです。
――シセにおける「4本ステッチ」のようなブランドとしてのアイデンティティはありますか?
やはりシルエットとバランス、ですね。シンプルでどこにでもある服といえばそうかもしれませんが、シセのことを理解している人は、僕らが描きたいイメージも理解して、それぞれに表現してくれる。そういうものだとおもいます。ある種、芯や背景が見えないブランドだとおもうんです。日本には、バックグラウンドを大切にするブランドが多いですよね。
もちろん、僕自身に背景がない、ということではないんです。一度、好きなものをちりばめた『HERO』というコレクションで表現しました。ラリー・クラークやライアン・マッギンレーや、音楽だとシガー・ロスとかですね。
――インスピレーションは大切にしていますか?
はい。今回のIWP世界大会でも『This Moment』という、いま自分が思うものを短期間で表現して短期間で評価してもらうということをテーマにしています。だからアジアともまったくちがう6体のデザイン画を描きました。
――アジア大会の作品も短期間で製作されたと伺いました。
そうですね。あのときに、自分が好きなものや、ニュースで目に留まる事柄などを集めて。そのときが「STAP細胞」とか「2014 FIFAワールドカップブラジル」だったんですよ(笑)。
――日常性を取り入れているんですね。
はい。時代背景を汲んで。誰もがニュースのなかで気になるトピックって、ちがうじゃないですか? それがおもしろいな、とおもいまして。なので、いま自分が感じるものや好きなものが反映されていますね。
――たしかに、ヴィンテージのアイテムを再現するような洋服とはちがいます。洋服が好きな人からすると、背景がないと感じられるのかもしれません。
いまの瞬間を切り取っているんです。オフィスでデザイン画を描くことは、まずないですし。だから、ミシンやトルソーも置いていません。
――デザインはどういうときに浮かぶのですか?
出かけていたり、映画を観ていたりするときに、メモをとるように。別の業界で頑張っている友人と話をしているときだったり。空想をするというよりは、体験からイメージを獲得することが多いです。どこかにこもって、搾り出すということはないですね。それが必要だと考えてしまったときは、もう、やらないです。それでスタッフに負担をかけている部分もありますが(笑)。
――IWP世界大会への意気込みは?
これまではコンペティションに参加することはありませんでした。誰かに審査をされるということ、とくに同業者が同業者を審査するということが、理解できなくて。それならば、バイヤーに見てほしいとおもっていました。しかし今回の大会は、ビジネスとして、あくまでリアルというところも評価されます。そこをアピールできるのであれば、全力で臨もうと。
グランプリを取らないと、日本に帰ってこれない!ぐらいの気持ちです。アジア大会のときから、グランプリのことしか考えていない。そこは変わっていません。
インターナショナル・ウールマーク・プライズ
http://www.merino.com/jp/fashion/international-woolmark-prize/
松井征心|MATSUI Seishin
2007年、文化服装学院卒業後、ブランド「SISE(シセ)」を立ち上げる。「innocent」×「insanity」=「SISE」を掲げている。2010年に東京コレクションにデビュー。2011年、mugamiyahara × SISE「辿 ― tan ―」を発表。2012年、シセがマーク・スタイラーの傘下となる。2014年に独立し、株式会社「S. I. S. E」を設立する。
https://www.sise.jp/