JOHN LOBB|最高のジョンロブの一足ができあがるまで(1)
製造ラインを増設したファクトリーを完全取材~革の検査から裁断へ~
最高の一足ができあがるまで(1)
ジョンロブをはじめ、エドワード グリーン、クロケット&ジョーンズ、チャーチ、チーニー、トリッカーズなどのファクトリーが揃う、英国を代表する靴の聖地、ノーザンプトン。ロンドンの北西に位置する街の中心部、「オリバーストリート」に、ジョンロブのファクトリーがある。私たちが持つ“ジョンロブ”のイメージからは意外なほど、ささやかで古びた印象のレンガ造りのファクトリーで、“最高の一足”ができあがるまでを、全4回にわたってフォトリポート。各回ごとに40枚、合計160枚の写真で、製造工程を公開する。
Text by KAJII Makoto (OPENERS)Photographs by ARAKI Ryuji
止まることを知らない挑戦と、徹底した品質管理
このファクトリーでは、製造はもちろん、ラスト開発からデザインまで、既製靴のためのすべての工程がおこなわれる。またジョンロブファンにはおなじみの「バイリクエスト」の靴も、この場所で作られている。
ジョンロブの最高峰であるビスポーク(フルオーダーシューズ)は、パリを拠点として作られているが、このノーザンプトンのファクトリーのスタッフは、職人というよりは、各自が担当する工程のスペシャリストといえる。
たとえば、のちほど紹介するマーティン氏は、ジョンロブ勤続26年目で、革の内部を手で縫い通すイギリスの伝統的な縫製法「スキンステッチ」のスペシャリスト。またカッティング担当も兼任しており、既製靴の新作サンプルはすべて彼がカットしているという。
増設にともない新設された革の検査スペース
先日、クリエイティブディレクター、アンドレス・ヘルナンデス氏へのインタビュー時に、このファクトリーの製造ライン増設について聞いた。増設にともなってあらたにできた革の検査スペースを見て、ジョンロブ最大の魅力のひとつである「革」の素晴らしさを体感できた。
ジョンロブが主に使っているのは「フルグレイン」の革であるのは良く知られているが、フルグレインレザーには、かたちを覚える特性と、元に戻ろうとする特性があるという。「元に戻ろうとする革の特性がないと、靴は履くほど広がっていくばかりです。靴の立体的な曲線を覚えさせながら、元に戻ろうとする特性をもったフルグレインレザーは、靴の素材として最適なのです。さらに、革本来の美しさも見逃せません」と、革担当の責任者。「女性の肌と化粧の関係とおなじですよ。プレステージラインの美しく光らせて履く靴には、若い牛のキメの細かい革が必要です」
彼は、革の購入から検査までの責任者で、革の鞣(なめ)し業者に行ってファクトリーに配達される前にチェックし、さらにつぎの工程のクリッキング(革を裁断する)前のチェックもおこなう。ちなみに、ジョンロブの定番として人気の「ミュージアムカーフ」は、イタリアのタンナーと共同開発し、鞣し工場で手作業でムラ色に仕上げているそうだ。
ここでの革のチェックでは、切り傷や擦り傷、虫刺されあと、血管の浮き、グロスマークと呼ばれる首回りのシワなどを丹念に見ていく。自然光のなかで目の当りにした作業は、まさに靴作りの第一歩という印象だった。
革の原皮は横から見ると6ミリほどの厚さがあり、それを工程のなかで剥(む)いていくのだが、ジョンロブでは革の一番上の1~1.4ミリを指定するそうだ。ジョンロブで使う革の厚みは3種類あり、モデルごとに革の厚みが変わるという。
さらに革の大きさも特徴で、既製靴の最高峰のプレステージラインの靴では、一枚の原皮からワンペアしかとらない。なかでも型紙(パターン)の大きいモデル「CHAPEL(チャペル)」は、一足に一枚という贅たくなとり方により完成する。
ほかにも、このスペースで、バッファローやリザード、クロコダイルも拝見。リザードは、モデル「CITY(シティ)」をカッティングするのに、腹の部分から3枚を必要とするそうだ。クロコダイルは、腹部の斑(ふ)の大きさを揃えながらカッティングしていくので、ワンペアの靴を作るのに最低2枚は使用するとのこと。
またジョンロブのカシミアスエードは、フルグレインを裏返して使う。そのため、非常にキメが細かく美しいのだ。
デザインのなかに盛り込まれる伝統的な縫い方
ハンドクリッキング(革を裁断する)セクションに移る。クリッキングは革の背中を中心に、左右対称になるようにカッティングしていくのが基本。取材時には「JOHN LOBB 2013」がカットされていた。
ジョンロブのクリッキングは、「すべてにデザインが優先されますが、余計なところにつなぎ目がないのが、ジョンロブの靴の誇りでもあります」と語る。靴全体でひとつの質感を保つために最高級の革があり、理にかなったカッティングがおこなわれる。さらに、「靴のプロポーションを犠牲にしないため、ジョンロブはハーフサイズをふくめて全サイズの型紙があります」という。サンプルを作って、それをたんにサイズアップ/ダウンするだけではないこだわりも、ジョンロブでは当然だ。
このセクションを担当するマーティン氏に話を聞く。彼は、カッティングとともにステッチングもおこなう。高度な技術を必要とするスキンステッチには、猪(いのしし)の毛に糸を巻きつけたものを使用する。その糸から製作するというこだわりようだ。「スキンステッチは、針を使わないイギリスで伝統的な縫い方です。この『JOHN LOBB 2011』を見てください。高い技術を要する工程ですが、ジョンロブではクリエイティブディレクターのアンドレアスの指示で、デザインのなかに盛り込んでいます」とマーティン。スキンステッチを実践して見せてくれた。手縫いの味わいがたまらない。
革がカットされたら、ファクトリー増設とともに導入した機械で、1パーツずつ傷の有無をチェック。職人が直接その目で根気強く確認をおこなう。
ジョン ロブ ジャパン
Tel. 03-6267-6010
http://www.johnlobb.com/jp