連載|祐真朋樹・編集大魔王対談
vol.41 野村訓市さん
Interview by SUKEZANE Tomoki|Photographs by MAEDA Akira|Text by ANDO Sara
多くの再販希望を受けたコラボセットアップ、待望の第二弾が登場!
野村訓市さん(以下、野村) ありがとうございます。それが、実はモノを作って売るというのが苦手で。
祐真 というのは、自分のブランドを持つとかそういう意味で?
野村 はい、まったく興味がなかったんですよね。昔、とあるブランドに頼まれてTシャツなんかを作ったこともありましたけど、なんだか自分には向いていないなと思っていて。作ったものを商品としてではなく、プレゼントとして人にあげることは好きでやっていたんですけど。そんな時にビームスと仕事をすることになって。
祐真 どういう内容だったんですか?
野村 お店の中を全部壊してギャラリーにしたり、もう4年ぐらい原宿店のリブランディングなどをやっています。今回のコラボに関しては、最近、年も取ってきているから葬式もあるし、冠婚葬祭用のちゃんとしたスーツがないなと思っていたこともあり、じゃあ手っ取り早くスーツを作ろうかなって。
祐真 ご自身が欲しかったわけですね(笑)。
野村 そうですね。周りにスケーターも多かったし、ずっとディッキーズが好きだった。ビームスもディッキーズとコラボレーションをしていたということだし、ビームスと一緒にディッキーズのスーツを作ろう、と思い立ったのが始まりです。
祐真 ディッキーズはよく着るの?
野村 着ますよ。そもそも、僕らの世代の若い頃は、スケさんと違って、スーツとかフォーマルを一切着ないから。
祐真 (笑)
野村 どんな時もスニーカーで行っちゃって。今でこそ普通になったかもしれないけど、90年代で「罰当たり!」なんて言われてしまうようなシチュエーションでも平気でスニーカーを履いてました。だからディッキーズのスーツだったら、僕も着られるし、普段スーツを着ない若い子も着られるんじゃないかと思って。ちゃんとしたオケージョンにはスーツを着ろと言われて、じゃあ一着買うかと思っても最低でも5、6万するんですよ。
野村 たくさんスーツを持ってる人は別として、年に1、2回着るかわからないような服に5、6万払うのは絶対嫌だろうと思って、できるだけ上代を安くしてもらえないかという条件を受け入れてもらいました。いい生地を使っていいものができたとしても、ディッキーズのスーツが5、6万だったらまず自分が買わない。だってディッキーズは安くて丈夫だからいいわけで。
祐真 3万円っていうのは驚きでしたね。話を聞けばなおさらいいなって思う。
野村 自分が二十歳で、成人式のためにスーツを買うとなったら、3万円ぐらいだったら買いやすいし、その上、このスーツでスケートもできてデートにも行ける。そういうのが面白いんじゃないかなって。
祐真 とてもいいアイデアだと思いました。
野村 ……っていうスーツを作るんだよって(野村)周平とか若い子たちに話したら、「この値段だったら、5人ぐらいでこれを着て『レザボア・ドッグス※2』ごっこができるね!」って喜んでくれた。ウールサキソニー※3でネイビー、黒と茶の3色を作ったんですよ。それが2018年の話。3万円だから若い子が成人式とか卒業式に着れてくれたらいいなと。そしたら、思いのほか売れたんですよ。
祐真 ほぼ一日で売れたと聞きました。すごいなぁ。値段もだけど、作りもしっかりしているからいいよね。
野村 スーツって、シャツがないとかコートがないってなるじゃないですか。でもこれなら、寒かったら中にパーカを着るだけでコートいらず。
祐真 オーバーサイズだから中に着込めるわけですね。
野村 スウェットとかセーターでそれっぽくなるから、シャツも着たくなかったら着なくていいし。ジャケットはワークジャケットをベースにしています。
祐真 懐かしい。90年代にこういうジャケットをよく着てました。
野村 アンコンジャケット※4?
祐真 そうそう。ドルチェ※5のリバーシブルのジャケットがあって、それを思い出した。ロメオ・ジリ※6とかもあったけど、このサイズ感はドルチェに近いなと。
野村 コートを着るのが面倒だから、中にパーカを着たり、フードをかぶれるような仕様にしたんですよ。
祐真 改めて、こんな風に服が売れてるっていう話は最近聞かないからすごいと思う。
野村 最近は昔と服の買い方も違いますし。
祐真 着てたね。
野村 ツイードはもともとイギリスのワークウェアだから、今の若いストリート好きの子たちにそんなイメージで着てもらえたら嬉しい。そして何より、3万円っていう価格はどうしても譲れなかった。
祐真 すごいよね。見事です。
野村 ビームスがまとめてくれたからこの金額にできたんです。僕らが金を取らない分、絶対3万円にしろって言ったから、わりとみんな泣いていると思います(笑)。
祐真 冒頭でモノを作って売るのが性に合わないと言っていたように、結局、商品じゃないようなものになってしまったということだよね。
野村 はい、僕らからの勝手なクリスマスプレゼントですね(笑)。
祐真 訓市くんのまわりの若い子とか面白い人たちが買って、着てくれるのはいいことなんじゃない?
野村 洋服ってやっぱり遊びで着たいし、僕とかスケさんの若い頃より、服の買い方が違うから。
祐真 服へのゆとりがないんでしょうか。今の若い子たちは服を買っているのかな。
野村 きっと買ってはいるんだろうけど、音楽と一緒なのかなと思いますね。新しい音楽を聴くんだったら、昔はCDを買わなきゃいけなかったのが、今はタダで聴けちゃうじゃないですか。それでもお金を出して買う人はいるけど、ただ、買うまでの敷居が高くなっているというか。
祐真 確かに。よっぽどよくないと買わないよね。
野村 今は安くていい服がたくさんあるから。作り手が「どうだ!」と思っても、必然性を感じられなければ買ってもらえない。僕も二十歳の時よりはお金を持っているけど、これが6万円だったら絶対に買わない。3万だろ、みたいな。みんなもそう思ってくれたのかなと思います。
祐真 それも上下でね。とてもいいんじゃないでしょうか。こういうものがどんどん増えていけばいいよね。
野村 売れないとたくさん種類を作る傾向があるじゃないですか。みんな欲しくないものも作ってるんじゃないかな。
祐真 それがさっき言っていた“必然性”がどんどんなくなっていく理由でもあるのかもしれないね。価値を見出せないというか。
野村 欲しくならないんですよね。僕らの時代って、いい洋服が少なかったじゃないですか。数が少ないからこそ、それが欲しかったし、詳しい人が偉かったりもした。でも今はモノがたくさんあるから、逆に絞ったほうがいいのかもしれないですよね。
注釈
※1 ディッキーズ
1922年に創業した、アメリカ・テキサス州で生まれたワークカジュアルブランド「Dickies(ディッキーズ)」。メンズ、レディス、キッズをはじめ、バッグやキャップなどアクセサリーも展開する。1922年創業。 正式な社名は「Williamson-Dickie Manufacturing Company」
※2 レザボア・ドッグス
『レザボア・ドッグス』(原題:Reservoir Dogs)は、クエンティン・タランティーノが、監督・脚本・出演の三役を務めた1992年公開のアメリカ映画。宝石店襲撃に失敗した強盗たちの確執を描いたバイオレンスアクション
※3 ウールサキソニー
柔らかな肌触りと弾力性、軽さを特徴に持つ、メリノウールを使用した薄いツイード調の生地。 フランネルとメルトンの中間的な風合いを持つ。ドイツのサキソニー(ザクセン)地方で作られていたことから「サキソニー」と呼ばれるようになった
※4 アンコンジャケット
アンコンストラクテッド・ジャケット。裏地や芯地、肩パッドなどを使わず、できるだけソフトな着心地でカジュアルに仕立てられたテーラードジャケットの総称。アンは否定の意味で、コンストラクテッドは構造や組み立てられたという意味
※5 ドルチェ
イタリア出身のドメニコ・ドルチェとステファノ・ガッバーナが1985年に結成したファッションブランド「Dolce&Gabbana(ドルチェ&ガッバーナ)」
※6 ロメオ・ジリ
イタリア出身の同名のデザイナー、ロメオ・ジリによる1983年設立のファッションブランド
※7 バスキア
20世紀を代表するストリートで活躍したアーティスト、ジャン=ミシェル・バスキア。1960年、ニューヨーク・ブルックリンで、ハイチ出身の父とプエルトリコ出身の母の元に生まれる。80年代のニューヨーク・ダウンタウンのアートシーンに彗星のごとく現れ、アンディ・ウォーホルやキース・ヘリングなど当時を象徴するアーティストと交流を深めたが、88年、ヘロインのオーバードーズが原因で27歳という若さで死去
それでも「どうしても着たい!」っていう声がたくさん届いたので、今回ツイードのスーツを作るに至ったというわけ。
ただ、成人式へいく子たちは普通のブラックスーツがいいはずだから、それだけは再販したほうがいいっていうことでまた作ることにしました。