ラフォーレ原宿に突如として現れた、「BE AT STUDIO HARAJUKU」。新たなるカルチャーの発信地があった!|FASHION
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2021年7月21日

ラフォーレ原宿に突如として現れた、「BE AT STUDIO HARAJUKU」。新たなるカルチャーの発信地があった!|FASHION

FASHION|BE AT STUDIO HARAJUKU

かつての原宿を甦らせる「BE AT TOKYO」

東京の中でも原宿という街は特別だと思う人は少なくない。多くのデザイナーたちはここでブランドをはじめ、様々な分野の人たちを巻き込んでその渦は大きくなっていった。かつてあった原宿のカフェソサイエティを現代に甦らせるプロジェクト「BE AT TOKYO」。最初の拠点をラフォーレ原宿にした想いを聞いた。

Text by KITAHARA Toru

原宿伝説、再び!

原宿という街には「伝説」という言葉が似合う。それは表参道、青山、南青山、代官山でも渋谷でもない、原宿という街だけが持っている特殊な時空間のある街だからだ。
今から40年ほど前、筆者は原宿に行って長方形の線の中に「BEAMS」とプリントされただけのエンジのトレーナーを毎日のように着ていた。あまりに着すぎて、袖、首周り、肘などがボロボロになるほど着ていた。そこまで着ていた理由はそれが「BEAMS」であり、原宿で買ったものだったからだ。シャンブレの水色のボタンダウンも「BEAMS」のタグがついていた。同じように襟も袖口も擦り切れてしまった。いつの間にか母親が捨ててしまったけれど、それは本当に大切に使った、ぼくのサスティナブルな記憶だった。
余談ですが、80年代当時の「BEAMS」をはじめとする「SEA’S」「CREW’S」「CANOE」といった原宿のショップ、ちょいと外れて渋谷あった「Boat-House」「SHIPS」といったショップのトレーナーは段ボールが到着すると段ボールから直接レジに行くという社会現象まで起こしたのだ。プレッピー全盛の時代だった。
東中野育ちの筆者にとって、原宿はそれほどまでに特別な「世界」であった。怖い場所であり、おしゃれをしていないと火傷しそうな場所だったのだ。そして、今でも原宿は常に「今」を発信し続けている。そこに魅了される人は少なくない。原宿という街は、常に「何ができる」という目的があるわけではないのにもかかわらず、確かに“何か”ができる場所であり、“何か”が始まる予感がある独特な匂いがする場所だった。
そんな原宿を象徴するラフォーレ原宿にまるで古い感覚であり、とても新しい空間が誕生した。「BE AT STUDIO HARAJUKU」と名付けられている。
この“場所”をスタートさせた「BEAMS」の執行役員であり、「BE AT CO.,LTD.」代表取締役の土井地博さんにお話を伺った。
「4、50年前、ぼくもリアルに体験したわけではないですが、原宿のセントラルアパートの下に「LEON(以下レオン)」という喫茶店があり、そこに面白い人たちが集まるカフェソサエティができ上がっていました。そんな原宿、そして東京のアパートをここに作りたかったんです」
当時、原宿にはビギやミルク、マドモアゼル・ノンノン、ゴローズなどが今でいう「カリスマショップ」が点在していて、ヘルプという店ではコム デ ギャルソンが初めてのショップを開いたなど、さまざまな話が今でも語り継がれている。その中心にあったのがレオンだったという。
「レオンには当時のクリエーターたちが集まって、カルチャーが発信されていました。そこにいるだけで刺激があり、コミュニケーションができ、面白いことが始まったのです。世代を超えたカルチャーの集いの場だったのです。今はクリエーションのエキスパートと新しい世代のクリエーターの接点って、どうしても師弟関係とかになると思うんですが、今って、混ざっていかないといけないとダメだと思います。上の人は上の人で下の世代を引っ張っていかない、未来を作らないといけないと言い、下は下で聞いたこともないし、思ってもいないから、本気で相談したいとか、一緒に仕事をしたいってことができるか、といえばできないんです。そんな世の中の“ねじれ”とまでは言わなくても、仕組みそのものを変えていく、東京を伝えることが大事だと思っています。そのためには「BEAMS」を取っ払ってカルチャーのアパートメントにしたいんです。」
そんな思いは社名にも現れているようだ。
「会社名はBE ATです。これはBEATであり、BE ATです。ここに意味があります。BE ATという会社がやるBE AT TOKYOというプロジェクトなのです。ここで何かが生まれる、ここで何かを発信していくというBE ATです。このコンセプトがいずれ「KYOTO」になったり、「SHANGHAI」になったりしていけばいいと。それをカルチャーのアパートメントとしてやっていくのが副題です」
まさにかつてあった火傷しそうなほど熱かった原宿の時空間の再来を目指していることがわかる。

カルチャーのアパートメント。

「代表の設楽(「BEAMS」社長)と話していて、今後何ができるか、そんな話をしながら、2月にアメリカを見に行っていました。必ずロサンゼルスは行きました。     更にシアトルに行ってアマゾン本社を訪ねたり、サンフランシスコ郊外のアップル本社とか、早い段階で俗にいう「GAFA(「Google」「Apple」「Facebook」「Amazon」の頭文字)は行っていましたね。西海岸のカウンターカルチャーとGAFAやスターバックスなどのグローバル企業を解釈したり、理解していく。設楽が50年前に感じたアメリカの文化と同じように今のアメリカを感じていこうという感じです。今まで「BEAMS」ではPR宣伝という立場でしたが、それを超えて人と人、企画と企画の仲介者をしてきました。それが企画になり、商品になってきたわけです。バリューとして育ったりして、面白いことをやってきました。今回のBE ATの副題にカルチャーのアパートメントという位置付けをしていますが、セントラルアパートメント、原宿アパートメント、同潤会アパート、コープオリンピアの住人同士が夜な夜な「こんな東京にしたい」「こんな原宿にしたい」「こんな日本の文化を伝えたい」と語っていたのが時を経て、今世界の注目するカルチャーの都市になったと思います」
この50年で最も変化があったことはPCの発達、そして、スマートフォンの登場などがあり、フィジカルだけではなく、テクノロジーが入ってきたと土井地さんは続けます。
「状況は喫茶レオンの時代と状況は似ていて、50年前の良かったところが今ちょうどあると思っています。そこにテクノロジーが入ってきて、50年前のアパートメントをやる時期だと思いましたね。それを設楽とふたりで話してきたわけです」
BE AT TOKYOのロゴもアパートの部屋をイメージして作られた。そこにはあえてのTOKYOでもあった。
「東京とは何か? という問いかけでもあると思います。東京というブランドをみんなで有名にするとか、持ち上げたりしない? という思いでBE AT の後にTOKYOとしています。今ってSNSがあり、芸術系大学を出た人が芸術家になる時代ではなくなりましたよね。Tiktokで人気が出て、その年の紅白に出るなんて、今まで考えられなかったじゃないですか? それが今だと考えると面白くなりませんか?」
小学生のなりたい職業も、随分様変わりしている。ユーチューバーという言葉さえそこまで成熟していないにもかかわらず、サッカー選手、芸能人と同じようにゲームプログラマーと並んで上位を占める人気職業になる時代だということだ。
「10年前では考えられない状況が今だと思います。ですが、一方でアマゾン、楽天で数限りない商品が並んでいる中で何が良いか、ということを選んで教えてくれる人が実はいないんです。専門的な著名人、例えばワインのソムリエが選んだ10本は確かに美味しいのかもしれないけれど、どうなの? と思うこともあります。それよりは「PLEASE」を作っている北原さん(目の前にいる筆者です)の選んだ10本のほうが惹かれることもありますよね。その人のプロフィールを見て、ワインのストーリーや考えを聞きながら飲むほうが面白いんですよ。今まではみんな右へ倣えだったのですが、今はそれぞれ。このワインが良いというとそれしか置いてない(笑)。今は違うんですよね。そういう時代だからこそ、カルチャーを今一度発掘して、混ぜる。DNAって距離がある、振り幅が広いほうが面白いものが生まれますよね。仮に匠からオタクみたいな振り幅とか。伝統工芸とテクノロジーとか。その発掘して、混ぜて、物語をしっかり伝える。文字に起こすとか、映像に残す、語るということが大事だと思っています。その人たちを混ぜ込んであそこにいる50代の人とこっちにいる10代でアパレルを作ったらどうなんだろう、と思います。副業がOKとか言われる時代ですから、セカンドハンドが自己表現になる。サラリーマンだけれど写真がすごい、漁師だけれどDJ、とかね」

解放された時空間を演出する。

このBE AT STUDIO HARAJUKUを眺めてみると小さな箱がいくつも重なって、ひとつひとつの箱がそれぞれの表現になっている、という印象がある。
「ここでものを売って商売をするというよりは、文化庁の文化支援なり、各企業のタイアップで表現するときに、BE ATの会員として集う人たちが一緒にクリエイティブできる場にしたいと思っています。そのためにここBE AT STUDIO HARAJUKUに人が集ってくることが大事ですね」
ひとりでものを創っている人が直接企業に売り込んでも、なかなか採用されないが、団体に属するだけでうまくいくこともある。プロダクション化することによって、クリエーターたちの動きがスムーズになる役割ができてくるのだ。
「BE ATは合弁会社です。BEAMSのほか、株式会社フロウプラトウという株式会社ライゾマティクス(現:株式会社アブストラクトエンジン)で培ってきた統合的なクリエイティブ力をべースにしたカルチャーとテクノロジーを融合させた会社と共同でやっています。発掘して、掛け算して、伝えるというコンセプトをやっているという感じです」
このBE AT STUDIO HARAJUKUはスタジオがあって、ライブができたり、公開収録ができたり、YouTubeの配信もできます。約300席の椅子もあります。イベントもできますし、映像も見せられますし、バンタンデザイン研究所の課外授業を開催したり、エスモードジャポンはアトリエをここBE AT STUDIO HARAJUKUに常設しています。BE ATが、学校の中では出会えないような社会、人との出会いを提供し続けているんです。これは授業では教えてくれない社会実装のためのカリキュラムを組んでいます」
取り組み自体は本当に多岐に渡り、面白さがある。今までとは違ったアプローチをするためにできることをやっている、という印象だ。
「やっていて肌で感じることなのですが、このビジネスモデルって今までなかったものだと思います。アカデミアみたいな文部科学省にアプローチすることもやっていますが、それ以外のアプローチがBE ATにはあります。例えば車。新車は出ますが、若者は買わないという現状があります。ですが、興味はあるんです。車を持つことでどこに行くか? そのどこや、車という部屋が増えたときにその部屋で何を聴くか? ということを伝えないと車は売れない。広告を打つことはひとつの手段ですが、それ以外に何ができるか? それを何でも相談いただきたい、という場所でもあります。日々、さまざまな企業とやりとりをしています」
BE AT TOKYOにはサブタイトル的に「Cultural Apartments」という言葉が入る。実際にサイト(https://be-at-tokyo.com)を覗くと“BEAT CAST”という実に様々な分野の人たちを見ることができる。彼らを土井地さんは“住人”と呼んでいます。
「彼らにはアパートの鍵のキーホルダーを渡します。それで住人である自覚をしていただきます。お隣さんに面白い人が引っ越してきたぞ、お茶でも飲むか? となれば良いと思っています。サイトの中で23区を書いてくださっている方も一般の方なんですね。今までだったら、ライターさんに頼むわけですが、その地区の住人がそのままダイレクトな記事を書いてくれるわけです。今までだったら、知り合うはずもない人に知り合える時代ですよね。SNSきっかけでも良いと思うんです。人が人を呼ぶ装置なのですよ。DMして知り合うきっかけになる。人と人の距離が99%最速になる魔法がSNSであり、インターネットだと思っています。地球の裏側に立って繋がるわけです。残りの1%は信頼できる人の後押しだと思いますね。憧れや共感がある人です」

「全ての表現者が創造することによって、生きていける社会をつくる」

BE AT STUDIO HARAJUKUの小さなケースは1ヶ月5500円、大手のギャラリーは借りられなくてもここでは借りられる。ここから始まる期待感がある場所だ。サイト内ではさまざまなアーティストの動きも見ることができる。
「企業タイアップをメインにしているが、1の価値を1000にできる可能性があるアーティストたちなんで、企業の期待値も高いです」
冒頭で「原宿という街は、常に「何ができる」という目的があるわけではないのにもかかわらず、確かに“何か”ができる場所であり、“何か”が始まる予感がある独特な匂いがする場所だった」と書いたが、話を聞いているとそんな軽やかに何かが始まっているのだと思った。喫茶レオンがあったようにBE ATが軽快なビートを奏でて、東京という街をそのビートに乗せていくのだ。
かつての伝説も今は昔。だけれど、この地の持つパワーは今でも何ら変わらない。いつまでも続く原宿という名のBEATは、確実に新しいグルーブとなって、東京の街を踊らせてくれるのだろう。
土井地 博 
株式会社 ビームス執行役員 経営企画室 グローバルアライアンス部・部長 コミュニケーションディレクター 株式会社ビーアット代表取締役 INTER FM 897で「Cultural Apartments produced by BE AT TOKYO(毎週水曜日18:40〜18:55)のパーソナリティをはじめ、大学の非常勤講師、司会業、各種講演など活動は多岐にわたる。
                      
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