「ジョンロブ」ビスポークアトリエ責任者が語るシームレスシューズへのこだわり|JOHN LOBB
SponsoredJOHN LOBB | ジョンロブ
ビスポークアトリエ責任者
パトリック・ヴェルディロン氏インタビュー
ジョンロブにおける既成靴の歴史は、実のところわずか30年ほど。むしろ1866年に創業してから150年以上もの間、お金よりも品質こそが重要だと考える熱心なカスタマーにとってのビスポークメーカーとしてあり続けている。完璧なフィットを求めるためのメジャーネント、上質な皮革工場とのリレーションシップによる素材の調達、そして完成へと導く職人の感性と技術。それらは何世代にわたって継承され続けているものの、ジョンロブがもっとも大切にしているのは、カスタマーとの信頼関係の構築にある。パリのビスポークアトリエとの協働で作り上げる「アルチザン・シリーズ」。その2018年モデルはすべてがシームレスだった。その経緯や深いこだわりを来日したビスポークアトリエの責任者、パトリック・ヴェルディロン氏に聞く。
Photographs by NAGAO Masashi Text by OZAWA Masayuki
シームレスでビスポーク、それは崇高なアートピース
―改めてシームレスシューズを提案した理由を教えて下さい。
それが今、ジョンロブがビスポークで表現できる最高の手段だからです。
すでに500足以上ものビスポークシューズを所有されている、素敵なロイヤルカスタマーがおりまして。
これ以上どんな靴を欲しているのかと思うくらい、それはもうすごい数です。
2年くらい前でしょうか、その彼から「新しい靴を作りたいのだが」という相談を受け、ジョンロブの職人がステッチのないシームレスはどうかと提案しました。
すると彼も「それはいいアイデアだね」という話になり、1足だけ作ることができたのです。
素晴らしいオックスフォードシューズでした。とても喜んでいただき「追加でもう10足作ってくれないか」と言われました。
それがこのシームレスシューズのきっかけになっています。
―それを他の顧客にも、ということになったのですね。
しかしそれは困難を極めました。
シームレスシューズを1足作るには、その他の靴とは比べものにならない時間を要します。他のすべての生産を止めてしまわないといけないレベルです。
そこでもう10足の追加オーダーです。
さあどうしよう、ということで我々と同じグループであるエルメスのチームから職人を何名か呼び、作れる手段を考えました。
パターンメーカーと一緒に新しい素材や道具を探しにも行きました。そうして最終的に独自のツールを開発し、新しい靴作りのプロセスをエルメスのチームと生み出すことができたのです!
おかげで10足をお渡しすることができました。とても喜んでいただき「もう7足追加で作ってくれないか」と言われました。
―具体的には、どのような工程に時間をかかるのでしょうか?
7足をお渡しして、とても満足して頂いたのですが「そのシームレスシューズをクロコダイルで作ってくれないか」とリクエストをいただきました。
美しい模様のあるクロコダイルをシームレスで作るには、例えば無地のカーフに比べて、扱うのが格段に難しい。
前提として、とても滑らかな1枚の革を伸ばして、足の形にカーブさせていく作業はとても困難です。革自体に傷があってはいけませんし、引っ掻いた跡が入ってもいけません。
しかし手作業で吊り込みを行う際には、アッパーからウェルトにつながる部分に、細かいシワがあります。マシンメイドでは生まれないため、これがハンドメイドの証しです。鋭いカスタマーは、その存在を知っていらっしゃいます。
彼は、クロコダイルの靴を非常に喜んでおられました。そして「もう5足追加で作ってくれないか」と言われました。
-まるでおとぎ話のようなストーリーですね。
2年を要して開発されたシームレスの技術に、アーティスティックディレクターのパウラ・ジョルバーゼはとても興味をもちました。その技術が使えるのであれば、ぜひデザインをしてみたい、ということで今回のシームレスシューズのコレクションが誕生しました。
彼女は5つのデザインを製作しました。バックルがついたタイプ、レースアップ、ローファー、ローブーツ、そしてオックスフォード型のスリップオンです。
―パウラ・ジョルバーゼ氏のクリエイティブとシームレスシューズの相性は良かったと思いますか? シームレスは技術ではありますが、そこから広がるイメージはとても奥行きを感じます。ミニマムでありエレガントでありモードであり、一方でとてもセクシーです。
パウラはジョンロブにおけるシームレスシューズのスピリットを完璧に理解されていました。彼女のデザインは、とてもシンプルでピュアなものです。
装飾を加えていけば、何かを隠すことができますが、シンプルであるということは、誤魔化しがききません。
純粋に革の美しさ、そこから靴を作る技術を見せるシンプリズムの追及にはフェイクが存在できないところに、パウラはチャレンジングな精神を掻き立てられ、妥協をせず、ベストを尽くしてくれました。
彼女はシームレスシューズのフィットを“まるでグローブ”と形容していました。その柔らかな履き心地に加え、別のコレクションで既に使われているクッションソールを施しています。
細かいディテールまで考え尽くされていますが、その根底にある考えはシンプルで快適で、心地よいものです。
―パトリックさんのお気に入りはありますか? そしてシームレスシューズを履いた時にもっとも美しさを感じる瞬間はどこですか?
個人的にはバックルのついたタイプが気に入っていますが、全ての型に思い入れがあります。
5型それぞれに技術が注ぎ込まれていて、すべてで1つのコレクションを構成しています。
人は足を組むと、どちらのサイドからも靴の内側と外側が見えます。外側の美しい曲線と、内側のまっすぐにカットされたシェイプ。このバランスがとても好きです。
しかし究極的な考えかもしれませんが、ビスポークのデザイナーはカスタマーです。このシームレスシューズは何よりも靴好きのためのコレクションでありたいと思っています。
使われる革の素材もさることながら、使われる技術や一足にかかる時間はまるで別格です。もちろん価格もですが。だからこそ、このユニークなアイデアをユニークなカスタマーと一緒に作りたいと思っています。
―最後に、日本のファンに向けてメッセージを。
ビスポークで作るには、ラスト(木型)が2つ必要になります。一つはクラシックラストをベースにカスタマーの足型をとり、実際に作り込む際にもう一つのビスポーク用のラストが必要になります。
とにかく生産に時間がかかるため、残念ながら今回は、既にビスポークをオーダー頂いたことのある、つまり自分のラストを所有しているカスタマーのためにしか作ることができません。とても限定的ではありますが、限りある時間を、ジョンロブを理解してくださっているシューラバーと楽しみたい。
シームレスの靴を作ったのはジョンロブが初めてではありませんが、ビスポークのシームレスシューズのコレクションを作ったのは私たちが初めてだと思います。それは私たちが大切にし続けているクラストマンシップから生まれた、美しいアートなのです。