米山庸二×宮下今日子 特別対談「素敵に年齢を重ねるために」|M・A・R・S
FASHION / FEATURES
2017年5月10日

米山庸二×宮下今日子 特別対談「素敵に年齢を重ねるために」|M・A・R・S

M・A・R・S|マーズ
米山庸二×宮下今日子 特別対談

素敵に年齢を重ねるために(1)

2016年に25周年を迎えた「M.A.R.S.(マーズ)」。それを記念して送るデザイナー米山庸二氏の対談連載。今回のゲストは、女優の宮下今日子氏。結婚指輪を「M.A.R.S.」でオーダーして以来、ブランドのファンを公言する宮下さん。お互いのこれまでの歩みを振り返りながら、人生において大切なことは何かを語ってくれました。

Photographs by TANAKA TsutomuHair by HIROKI (W)Make-up by Nagisa (W)Text by TOMIYAMA Eizaburo

本番よりお稽古が好きで楽しいんです(宮下)

――宮下さんはいつもオシャレなイメージがあって、ファッションもお好きだと思うのですが、M.A.R.Sのどんなところがお好きですか?

宮下今日子さん(以下、宮下) 人気有名ブランドのジュエリーも素敵ですが、誰かとお揃いになることがよくありますよね? それと、チラッと見られて「あのブランドのしてるわね」と思われるのも苦手で。そういう意味でもM.A.R.Sは質が高くて、少しクセがあって、それでいて使いやすいのがいいですね。

米山庸二さん(以下、米山) それは嬉しい。

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宮下 洋服はいろんなタイプを着たいんですけど、ジュエリーはいつも同じものをしていたいんです。使いやすいっていうのは、どんな服にも合わせやすいという意味でもあって。「これさえあればいい」と思えるものが好きなんですよね。体の一部みたいな感覚というか。

――では、あまりフェミニンなのものはお好きじゃないんですね。

宮下 ミハラヤスヒロさんのメンズだったり、普段はお洋服もメンズを着ることが多いですね。でも、M.A.R.Sのなかではわりと華奢なデザインのものを着けています。

米山 今日子ちゃんは、かっこよく着こなすんですよ。何を着ても負けないキャラクターというか色はあるから。そこはすごいなって思う。でも、小さい頃から背が高かったの?

宮下 幼少期は小さかったんですよ。中学2年で急に身長が伸びて。

米山 そうなんだ。もちろんその頃には、すでにバレエをやっていたんですよね。

宮下 物心がついた頃にはやっていました。当時は喘息だったり身体も小さかったので、親もすぐにやめると思っていたみたいですけど。でも、小学校3~4年の頃には一生バレエをやっていたいと思ったんです。

米山 へぇ、それはなぜですか?

宮下 現実から離れた夢の世界だから。あと、舞台に出ることよりも毎日レッスンすることが好きで、本番がなくてもいいくらい。いまもわりとそうなんですよね。本番よりお稽古が好きで楽しいんです。マラソン好きな人が、大会に出るよりも毎日走っているほうがいいみたいな。

米山 コツコツ系なんだね。

宮下 そうではないと思うんですけど、積み重ねたうえでしかできないことが好きで。夫の八嶋(智人)はまったく逆で、パッとできないと嫌みたい(笑)。

米山 やってみて、うまくできないもののほうがやりたいタイプなんだね。

宮下 そうなんです。だから本当はバレエもお芝居も向いてないんですよ。だからこそずっと続いている。

米山 続けられることが才能だし、誰よりも向いているってことだと思う。

宮下 そんなことないです。

体力的には衰えてきますけど、「今が一番いい」って思える(宮下)

米山 でも、よく考えると僕もコツコツタイプかな。大体のことはパッとできるタイプだけど、できないことのほうが続くというか、難しいからこそ続く。

宮下 バレエで生活できないことは中学くらいにわかっていて。でも、すごく好きだったからやめられなくて。20歳になっていよいよという段階で、一回やめて何もしなくなったら体調が悪くなってしまったんです。それからは仕事というよりも、自分のためにお稽古を続けたんですよ。その後、就職活動を目前に控えた大学3年生のときに野田秀樹さんのオーディションがあって。未経験者でも応募可能だったので受けてみて。

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それが最初のお芝居体験。そのときのメンバーとはすごく仲良くなれて、そこから今のキャリアへとつながっているんです。

米山 それで演劇の方向に進まれたんですね。

宮下 野田秀樹さんの舞台がとても難しくて。意味もわからず、言われたことをただやっていて、しかも公演の最後のほうで怪我をするという。何ひとついいところがないまま終わったんです。なので、当初は大学時代の記念みたいな感覚だったんですけど、野田さんにも迷惑をかけっぱなしで、このままでは終われないと思って。そこからまたオーディションを受けるようになったんですよ。

米山 やっぱり、うまくいかないことを選んでしまう(笑)。

宮下 最初にうまくいったと思えていたら、やっていなかったかもしれないですね。いまだにうまくできないですけど。

米山 これまでに、表現者として影響を受けた人はどんな方でしたか?

宮下 たくさんいらっしゃいますけど、ひとりあげるとすれば木野 花さんですね。木野さんとお会いするまでは、「先輩たちに到底追いつかない」という気持ちでやっていたんです。でも、そういうことではなく「ひとつずつクリアしなさい」と指導されて。つまり、それまでの自分は何ができていないかわかっていなかった。できていないことを1個ずつ明確にして、それをひとつずつクリアするようになってから、演劇のやり方も変わっていったんです。

米山 それは大事なことだよね。

宮下 私はすぐに高みを目指す傾向があって。追いつかないものを獲りたがるんですけど、そこに行くためには近くのものからクリアしていかなくてはいけない。それを教えてくれた芝居のお師匠さんが木野さんなんです。

米山 踊りの楽しさというのは、やっぱり年齡ごとで変わっていくもの?

宮下 体力的には衰えてきますけど、「今が一番いい」って思えるんです。バレリーナを見ていても、歳を重ねたがゆえのいい踊りがたくさんあって。そこが一番面白いところですね。

Page02. 思春期の熱量をキープできる人は、40歳になっても50歳になっても醒めない(米山)

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米山庸二×宮下今日子 特別対談

素敵に年齢を重ねるために(2)

思春期の熱量をキープできる人は、40歳になっても50歳になっても醒めない(米山)

米山 子どもたちにバレエを教えたりもしていますけど、若い子たちにはどういうことを学んで欲しいですか。

宮下 「いま自分が10代だったらな~」とよく思うんです。自分が10代の頃はただ闇雲に体力を使って頭を使っていなかった。もっと効率よく考えながらやるべきだったなって。一方、バレエもすごく変わってきていて。いまや部活動でうさぎ跳びをしないのと同じように、効率的なトレーニングが確立されてきているんです。

米山 うんうん。

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宮下 子どもを教えていて面白いのが、ひとこと言って喰いついてくる子と、聞き流す子がいて。そういうのを見ていると、ただ量をこなせばいいわけじゃない。一回の質をあげるべきなんだなって。でも、20代になったら闇雲にやったほうがいい。10代は学校も行かないといけないし、実はやることが多いんですよ。そして、30代になったら選択の時期に入っていく。

米山 僕は10代に影響を受けた音楽とか、不良っぽいものに憧れる感覚とか、そういうものを素直に受け止めて欲しいと思っていて。20代になってもその感覚を覚えているのなら儲けもんだと思うんです。10代の頃のマインドはどんどん薄れていくけど、熱さをキープできる人は40歳になっても50歳になっても醒めない。そういうのがある人とない人では違うと思うんですよね。だから、感動を受け入れる扉を閉じないようにしていて。常にいいものを取り入れたいから、いつもお腹が空いている状態でいたい。今日子ちゃんは、そういう思春期の影響っていうのは何かありますか?

宮下 オリーブ世代なので完全にオリーブですね。中1で初めて見て、いまだにそれを思い出すと興奮する(笑)。表現ということでいうと、叔母が住んでいたこともあって、15歳の夏休みにロンドンに行ったんです。それまではバレエばかり観ていたんですけど、そこで初めてミュージカルを観て視界が開けましたね。しかも、ロンドンのバレエスタジオで、キャッツとかに出演しているような人たちと一緒にレッスンを受ける機会があって。その体験はすごく大きかった。日本でバレエをやっていると、どうしても萎縮してしまう感じがあるんです。でも、彼らはとても自由でかっこよかったんですよ。

一部のものすごく上手な人以外はみんな意地悪になっちゃう(宮下)

米山 日本だと萎縮してしまうものなの?

宮下 クラシックバレエの世界って、すごく特殊な感じで。「あなた、どのくらいやれるの?」っていう、ちょっと意地悪な空気が漂ってるんですよ。それは世界中どこにいってもそうなんですけど。

米山 ブラックスワンみたいな?

宮下 まぁ、そういうことなんですけど……。でも色々な所でレッスンをするようになって本当に一流の人ってまったく意地悪な空気をまとっていないと気づいて。それ以来、稽古場とかで意地悪な空気を出さないようにしようと思うようになって。

米山 その雰囲気は、子どものクラスではないんでしょ?

宮下 ありますよ。失敗するとクスッと笑ってみたりとか。そういうのが本当に良くないですよね。

米山 だからこそ、バレエの舞台はあれだけ綺麗なのかな。

宮下 でも、それは必要じゃないと思うし、子供たちにもいらないものだと教えたい。お芝居だとそれぞれのキャラクターや役割りがあって、そこに優劣はないですよね。でも、バレエはみんながひとつの役を目指す。そうなると、一部のものすごく上手な人以外はみんな意地悪になっちゃうのは仕方ないかもしれないですけど。

米山 それは面白いね。意地悪じゃない人はずっとトップの人なんだ。

宮下 そう言っちゃうと語弊があるけど、どの世界でもトップの人ほど優しい気がします。

米山 なるほどね。いま今日子ちゃんが仕事をするうえで大事にしていることや、自分に課していることは何かありますか?

宮下 演劇の現場ってそれぞれまったく違うんです。演出家によって求める声の大きさからして違う、舞台の大きさも違う。なので、毎回初めてやるような感覚ですね。なので、あまり自分からこういう風にやろうとは決めないようにしています。

米山 僕の場合は、出来上がったモノで評価を受けるんだけど。今日子ちゃんの場合は生身だからすごいよね。毎回舞台を観させてもらって、楽屋にも挨拶に行かせていただくんだけど、つい緊張しちゃう。純粋に感動しているからこそ、知っている人なのに緊張感が生まれる。憧れの仕事ですよ。

宮下 私も米山さんにはいつも刺激を受けています。

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米山 いま何か新しいチャレンジとかはしていますか?

宮下 ダンスの舞台と、お芝居の舞台を両方やっていて。40代になって、ダンスもお芝居もやれているのは、自分でもすごいことだなと思っているので。まだしばらくは踊っていきたいです。

米山 また舞台を観に行かせてください。今日はありがとうございました。

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宮下今日子|MIYASHITA Kyoko
1975年8月14日、東京生まれ。3歳よりクラシックバレエを始め、その抜群の身体性を生かして、96年より演劇活動を開始。NODA・MAP「ローリングストーン」、KOKAMI@network「ものがたり降る夜」など話題の作品にオーディションによって出演を得る。その後も松村武、堤泰之、長塚圭史、木野花など様々な演出家の舞台に出演し研鑽を積む。2011年、岩松了作品「アイドル、かくの如し」では、奔放で身勝手で金に強欲なアイドルの母親像を好演。美しいルックスとは裏腹に、とぼけたコメディエンヌとしてのセンスを発揮することとなった。また近年は小野寺修二、井手茂太、山田うんといった振付・演出家からの信望も厚く、演劇とダンス、あるいはマイムとが融合したフィジカルシアター的要素を持つ舞台にも多数出演している。

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