M・A・R・S|米山庸二 × 岡庭智明氏 特別対談「ともに独学でここまで来た」
M・A・R・S|マーズ
米山庸二 × 岡庭智明氏 特別対談
ともに独学でここまで来た
25周年を記念してスタートした、「M・A・R・S(マーズ)」のデザイナー米山庸二氏による対談連載。今回のゲストは、ファッションブランド「The Viridi-anne(ザ ヴィリディアン)」のデザイナー岡庭智明氏。実は彼こそが、米山氏をシルバージュエリーの世界に引き込んだ張本人だったのです。
Photographs by NAGAO MasashiText by TOMIYAMA Eizaburo
岡庭くんの何気ないひと言で、人生が180°変わった
米山 岡庭くんと出会ったのは、僕がまだ美容師でパリに留学しようとしていた頃。当時、美容室の給料ではお金が貯められないので、一旦退店してバイトをしていたんですよ。毎日のように一緒に遊んでいて、ある日「今日は指輪を作ってみよう」となって。そのとき初めて指輪を作ったらすごく面白くて。
岡庭 留学のために貯めていたお金を、ジュエリーづくりに注ぎ込んだもんね。
米山 岡庭くんが「うまいじゃん! できるじゃん!」と言わなければこの道に来ていなかった。何気ないひと言だったかもしれないけど、僕にとっては人生が180°変わった。
岡庭 でも、本当にめちゃくちゃうまかったんですよ。3ヶ月後には、合同で展示会やったからね。
米山 15型作った。
岡庭 でも、今思えば素人向けの安い道具で作ってたよね。
米山 そういうもんだと思ってたから。80年代後半~90年代前半はストリート文化が流行っていて、今と似ている感じだよね。好き勝手に、いろんなものが出てきた頃。
岡庭 自分は大学に行きながら洋服を縫い始めて。絵画科だったけど、自分の中で絵はすでに辞めていたようなものだった。でも、当時は本当に何もなくて。インターネットも無かったから、「ロンドンにこんなかっこいいブランドがあるけど、日本では買えない」とか、洋服に詳しい先輩から情報を仕入れたり。その服を持っている人に借りて型紙を引いて、見よう見まねで作ったり。そうやって覚えていったから。
米山 そういう意味ではお互い独学で始めている。結果的にそれは良かったことなのかな? 僕の経験としては、新しいことを発見をしても実は授業の一番最初に習うことだったり。そう考えると、教えてもらうか自分で発見するかの違いで、プロセスは同じなんだなって。
岡庭 確かにその通りだね。でも、自分でやってきたからこそ、その理由がわかることもある。方程式から入ると、その意味まではわからない。だから、独学だと発想の展開は得意になるかも。一般的な道筋ではなくても、どこかに答えがあるんじゃないかと思えたり。
米山 今の自分だったら学校に行っていたかも。もちろんマイナス面もあるけど、近道だったことがいっぱいあったような気がして。
岡庭 自分は天邪鬼タイプだから、ちゃんと教わるとすぐに飽きちゃう可能性が……。自分でやっているから集中してできているけど。
米山 岡庭くんのモチベーションが変わっていないのが、本当にすごいと思う。今もなお白紙の状態から「線」を引いて、自分の作りたい世界観を表現している。そういうのを近くで見ているとサボれないというか。僕にとってはそういう存在。
岡庭 真面目な話で恥ずかしいね。でも、ヨネちゃんは僕の2コ下だけど、どこかお兄ちゃんみたいな存在で注意されることも多い。
米山 この人は、ダメなところがあるんですよ(笑)。
海外の展示会に出展する理由とは?
岡庭 パリの展示会に出展したのはヨネちゃんのほうが早かったけど、最初はどういう気持ちで出たの?
米山 日本のマーケットって、独特なところがあるじゃないですか。でも、海外では純粋にモノだけを見て、良いか悪いかを判断される。そんな中で、どう判断されるんだろうという興味があったのがひとつ。あとは、海外だからこそ出会える人もいて。例えば、日本なら見てもらえないバイヤーさんだったり、日本では知り合うきっかけのなさそうなデザイナーさんと食事に行ったり。そこは岡庭くんも同じでしょ?
岡庭 この前、すごく不思議なことがあって。1月にパリの展示会に行った帰り、リサーチも兼ねてベルリンに行ったんだけど。友だちの家やショップで見つけて気になった「BOCCI(ボッチ)」という照明メーカーがあって。「かっこいいね」なんて話して戻ってきたら、2ヶ月後くらいに1通のメールが届いて。開いてみたら、そのBOCCI社の社長さんだったんですよ。彼は僕の洋服を気に入って使っているみたいで、「何かできないか?」って内容だった。面識もなかったし「嘘でしょ?」と思ったけど、結果的にはこの店の照明をBOCCI社が配置まで含めてデザインしてくれて。それはすごく稀な例だけど、そういうことはあるよね。
米山 その話はすごいよね。「縁」という言葉以外見つからない。
岡庭 自分がファッションに興味を持ったきっかけは海外にあって。当時はパンクからニューウェーブに変わった頃で、とにかくロンドンが熱かった。ワールズエンドとかセディショナリーズが好きで、ロンドンのストリートにいるおしゃれな人たちに憧れていて。でも、その後もトレンドは変われど、海外のおしゃれな人たちは自分のスタイルを持っていて、精神的な部分はあまり変わってないんだよね。自分のセンスで選んでいるというか。そこは安心する。
米山 海外はまずファッションありきではなくて、まず自分ありきな人が多い。だからキャラ勝ちしちゃっている。そういう人たちが着ると、洋服メーカーの主張よりもその人なりの雰囲気が出てくるからかっこいい。
岡庭 ほんと、その人にポリシーがあればかっこよく見える。
Page02. デザインを思い浮かべているとき、頭の中はモノクロ
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米山庸二 × 岡庭智明氏 特別対談
ともに独学でここまで来た (2)
デザインを思い浮かべているとき、頭の中はモノクロ
米山 以前、この連載でが~まるちょばさんに出てもらって。彼らは意識していないにも関わらず、海外では「アニメっぽい」と言われるという話が面白くて。ザ ヴィリディアンは何かそういう面白い評価を受けたことはある?
岡庭 パリの展示会に行って2年目くらいの頃に、「ゴス忍者スタイル」って言われことがあるよ(笑)。でも、そんなにイヤな感じはしなかった。今だとそういうブランドもあるから、あまり言われたくないけど。
米山 あははは。僕らはよく独自路線と言われるけど。岡庭くんはザ ヴィリディアンの世界観をどうやって作り出しているのかなと思っていて。
岡庭 若い頃は尖っていたし、映画に関しても意味もわからずヌーヴェルバーグにハマって。内容はわからなくても、今でも映像はすごく好き。カメラマンだとアウグスト・ザンダーみたいな、モノクロの落ち着いた感じのものとか。それで最近気づいたんだけど、自分が企画を考えているとき、頭の中はモノクロだったんだよ。絵が白黒写真でしか浮かんでいない。
米山 それは斬新だね。
岡庭 滲んだようなモノクロの世界。
米山 へぇ~、面白いなぁ。
海外に行ったからこそ、日本を再発見できる
――「M・A・R・S」のコンポジットは竹細工がモチーフだったり、近年はお互い「和」の要素がデザインに入り始めていますよね。
米山 やっぱり染み付いちゃっているんじゃないですかね。意図的に「和」を取り入れようとは思っていないけど。純粋に美しいとか、自分の中で崇高に写ったりするのが日本的な世界だったりする。
岡庭 僕も普段から「和」を意識しているわけではないけど、パリに行き始めてもう14年くらい。その中で海外のダメな部分も見えてきて。日本人のきちんとしたところとか、精密なものづくりとかも発見できるようになって。
一方で、そういう日本のいい部分をいち早くキャッチしているのもまたヨーロッパだったり。ミラノの「ディエイチコルソコモ」に並べられていた和食器にハッとさせられたりするから。
米山 海外って建築も石だから、アーチだったり曲線の文化。でも、日本は木造文化だから、左右対称や平行が基本にあって。その中で「抜く」遊びが自分は好きなんだと思う。
岡庭 海外に行ったからこそ、日本を再発見できる。
米山 僕にとってザ ヴィリディアンは、いくつになっても好きでいられるブランド。誰しも「こうなりたい自分」っていうのがあると思うけど、40代の自分、50代の自分と年齢を重ねても常にしっくりくる。しかも、いろんな人に「それどこの?」って聞かれるんだよね。「これ、ザ ヴィリディアンだよ」と答えて完結する感じ。
岡庭 それは嬉しいな。僕の場合、「M・A・R・S」がなかったらアクセサリーをこんなに身に着けていなかったと思う。でも、ヨネちゃんが作るものは上品だから、たくさん着けててもオラついた感じにならない。うちの洋服とも合うし、オリジナリティがあるところが一番好きかな。