M・A・R・S|米山庸二 × 木島隆幸氏 特別対談「ファッション小物の生きる道」
M・A・R・S|マーズ
米山庸二 × 木島隆幸氏 特別対談
ファッション小物の生きる道
25周年を記念してスタートした、「M・A・R・S(マーズ)」のデザイナー米山庸二氏による対談連載。今回のゲストは、帽子ブランド「KIJIMA TAKAYUKI」のデザイナー木島隆幸氏。お互い、末端系(ファッション小物全般)のデザイナーということもあり、話は大いに盛り上がりました。
Photographs by NAGAO MasashiText by TOMIYAMA Eizaburo
手の感覚を大事にしながら生まれる帽子
米山 木島さんのお店(KIJIMA TAKAYUKI)は、M・A・R・Sから徒歩1分くらいのご近所さんなので、昔から道でよく会っていたんですよね。でも、挨拶を交わす程度で……。それがある時、タケ先生(菊池武夫氏)のお店のイベントで、デザイナー3人を呼んでコラボアイテムを作るという機会をいただいて。そこにお互いが選ばれたことが、仲良くなるきっかけでした。
木島 そうですね。一時は住んでいるマンションも同じで、一緒にジム行ったり。
米山 木島さんが作る帽子は、見た目にも着用感も柔らかさや抜け感があって。僕も何個も持っているんです。若い頃はハンチングやポークパイが多かったですけど、木島さんと出会ってからはハットもかぶるようになった。あの魅惑的なデザインはどのように興しているんですか?
木島 ふた通りあるんです。ひとつはオーソドックスにカタチから入って、その後に生地を決めるやり方。もうひとつは先に素材ありきの場合です。
洋服のトレンドを意識しながらスタートするので、次のコレクションはこんな素材が出てくるという情報を仕入れてきたり。最近はモードよりもストリートから生まれてくるものも多いので、その雰囲気を見据えながら、次はこの素材を使いたいなって考えることも増えました。
米山 なるほど。
木島 ビッグシルエットが流行っていればそれに合うアイテム。それはどんなバランスやボリュームならフィットするのか。そこからデザインしていくんです。
米山 ジュエリーの場合は素材が硬いので、デザイン画の時点ですでに完成に近い絵になる。図面みたいな感じなんです。でも、木島さんの柔らかなハットは、頭にしっかり浮かんでないと「線」で表現できない気がするんですよね。手の感覚を大事にしながら作られているのかなって。
木島 それは確かにありますね。うちは自社にアトリエがあるので、デザイン画はあまり描かなくて、すぐにサンプル作りに入れるんです。自分でパターンをひいてミシンを踏みながら、縫製の仕方だったり、芯地の使い方だったりを考えながらできる。
最終チェックの際は、空想の世界に入る
米山 以前、「帽子のブリムの長さは5mm違うだけで印象が変わる」と伺ったことがあるんですけど。
僕は優柔不断だから、そこをなかなか決められないと思うんですよ。
最終チェックはご自身で試されるんですか? それともスタッフの方にかぶせてみたり?
木島 基本的にメンズもレディスも自分でかぶって決めます。その時点ではすでに、自分に似合う似合わないとかは消えていて、空想の世界に入っているんですよね。というのも、ひとつひとつのアイテムには最初から物語があって。どういう服を着た女性みたいなイメージがある。そのイメージを浮かべながら最終チェックという感じです。
米山 それは一緒ですね。僕たちは末端系(ファッション小物)なので、初期段階では、こういう雰囲気の人に着けて欲しいというイメージがありますよね。僕の場合、カタチ自体はサンプルが完成する前にわかっている。ただ、大きさを変えたいと思った時は型から作り直さないといけない。
木島 それは大変だと思う。僕の場合は、サンプルを見てすぐに修正ができる。とりあえず作ってみるということができるんです。
米山 お互い似たような悩みがありつつも、どこかで相手のことを「いいな」と思っている気がするんです。僕なら、「帽子は素材やカタチの選択肢が広くていいなぁ」とか。
木島 僕からすると「ジュエリーは単価が高いからいいなぁ」とか、「かさばらずに持ち運べて、展示も小さいスペースでできて羨ましいなぁ」とかある(笑)
米山 あははは。でも、ファッションって洋服がメインにあって、そこから小物などのアクセサリーが付随していく。
そのなかでどうすればお客さんにかっこいいと思ってもらえるのか? 目を留めてもらえるにはどうすればいいのか? 奇抜ならいいのか? マッチしていればいいのか? など、その塩梅は末端系の永遠の悩みですよね。
木島 ファッションとして無くても成立するものですからね。奇抜ならいいのかってなると、時代に合わなければいらなくなる。無いよりもあったほうがトータルで完成するものを提案しないといけない。靴は無いとダメですけど、帽子は無くてもいいという恐怖感が常にある。
米山 毎シーズン、このアイテムは売ろうとか、遊んでやろうとか決めて作ることはありますか? 僕はだいたいハズすので、最近あまりやらなくなりましたけど。
木島 自分なりに楽しんでいる部分はありますね。遊んだものは売れなくてもいいと割り切っているんだけど、そこがウケてしまうと「間違えたかな?」という思いが生まれてくる。自己満足で仕掛けたものが広く理解されてしまうと、自分の感覚がマスに向かい過ぎているのかなと反省しちゃいますね。「何コレ?」って、冷たくされたほうがいい(笑)
米山 そういう天邪鬼な感覚はすごくわかります。「やっぱり売れなかった、けれども俺は好き」みたいな。
木島 プロフェッショナルだからこそ、そういう遊びができるんですよ。その世界で一歩、二歩先を行っているからこそ「わからなくても俺は好き」と納得できる。普通、売れなかったら「なんでだろう?」ってなるわけで。「でも好き」と割り切れるのはプロだから。
米山 そのタイミングで出さないと、モヤモヤがずっと残っちゃうんですよ。すると、しばらくしてまた出したくなる。だから、思った時にカタチにしたいんです。そういうのないですか?
木島 あります。とくに帽子は2年前くらいにブームがきて、そこからトレンドの流れが早くなった。半年遅れたら「今さら」って思われてしまうほど。だから、思いついたタイミングでやるようにしています。
Page02. その人に馴染んでいるということが一番大事
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米山庸二 × 木島隆幸氏 特別対談
ファッション小物の生きる道 (2)
その人に馴染んでいるということが一番大事
米山 帽子人気は長く続いていますよね。
木島 以前は、好きな人はかぶるけど興味のない人はかぶらない、という存在だった。今はトレンドのひとつになってきてますね。
米山 映画とかを観ていても、僕らは小物に目がいくじゃないですか。木島さんおすすめの映画やレコードジャケットなどはありますか?
木島 う~ん、とっさには出てこないんですけど……。でも、映画のように完成された世界よりも、街中でさりげなく帽子をかぶっている人に刺激を受けますね。オシャレな人は予想の範囲なので、そうではなく毎日同じものをかぶっているような人。
米山 たまに、農家のおじちゃんの帽子がすごくかっこ良く見えたりしますよね。
木島 そうそう。つまりそれって、その人に馴染んでいるということ。うちのブランドのルックブックは、まさにそこを狙っていて。ストリートで素人さんをハンティングして、スタイリングもせず、その人が着ているものにかぶせて撮影している。それはスタイリストの長瀬哲郎さんの提案なんです。「誰にでも馴染みやすいのが、KIJIMA TAKAYUKIらしさだ」って言ってくれて。
米山 その人の「成り」となっているものは引き込まれますよね。
木島 冒頭で米山さんが言ってくれた、「うちの帽子は柔らかい」というのも、馴染ませる目的で柔らかいんです。お店で帽子を試着される時、皆さん1秒もかからないうちに判断されている。自分も帽子屋になる前はそうだったんですけど、ハット系の硬い帽子って新品だと馴染みにくいんですよ。だから、本当はかっこよくなるはずなのに、鏡に写る自分を見たら「あれっ、違う」ってなる。それを解決するために、芯地を抜いたり縫製を工夫したりし始めたんです。
米山 確かに、老舗ブランドの立派なハットを試着すると、恐ろしく似合わない自分に出会います。でも、柔らかさを表現するためにはシルエットも工夫されているんですよね?
木島 いや、シルエットはオーソドックスに作っています。あとは、帽子工場を使わないようにしていますね。帽子工場で縫わせると、帽子になってしまう。でも、アパレル工場で縫わせると洋服的な仕上がりになる。
帽子が似合わないからこそ、続けているのかもしれない
米山 なるほど~。そもそも、木島さんはなぜ帽子屋になろうと思ったのですか?
木島 最近は正直に答えているんですけど……。もともとは靴が好きで、帽子は特に好きではなかったんです。高校を卒業していろいろアルバイトをしていた時期に、靴の学校に通おうと思ったんですけど、調べたら年間120万円くらいかかることがわかって。今さら学校に行くお金を親に出してもらうわけにもいかず、どうしようかと思っていたんです。そんな時、当時の彼女が雑誌を見ながら「帽子教室の広告があるよ」と教えてくれて。それが年間25万円だったので、すぐに申し込んだんです。
米山 でも、最終的には帽子の世界にどっぷりいってしまったんですね。
木島 ものを作るのが好きだったのと、あらゆるジャンルの服に興味があって。ファッション小物なら、どんなスタイルでも触れることができるなって。だから、今でも帽子はあまりかぶらない、そもそも似合わないんですよ。
米山 そんなことはないでしょ。それに、世の中には「自分は帽子が似合わない」と諦めている人が多い。そこを否定してくれないと(笑)
木島 誤解されたくないですけど、そこはちゃんと否定しています。逆に、帽子が似合わない、苦手だと思っている人たちのためのブランドだと思っていて。その一番のお手本が自分なんだろうなって思うようになったんです。だからこそ、どうすれば似合うのか、どうすればかっこいいものができるのかって、ずっとやっているのかもしれない。編集大魔王こと祐真朋樹さんも、20年ほど前に初めてうちに来た時は「帽子似合わないんだよね」って言っていて。そこからたくさんオーダーしてくれて、そのおかげもあって広まったんです。
米山 「帽子が似合わない」がモチベーションになっているのは面白いなぁ。僕らって、仕事を始めてからもう長いじゃないですか。なので、どうモチベーションを保っているのか興味があったんです。もしかしたら、自分に似合う帽子が完成したらこの仕事を辞めちゃうかもしれないですね。
木島 そうかもしれない。
――最後に、木島さんから見たM・A・R・S製品の魅力を教えてください。
木島 プロダクトとして作り込まれていますよね。蜂などの昆虫や動物を題材にしても、そこのディテールにこだわるのか! っていう。マニアックというか変態ですね。留め具などのパーツにしても、デザイナーであり職人だからこそのこだわりが生きている。一級品のジュエリーだと思います。