恒例対談! スタイリスト島津由行×ディレクター源馬大輔(前編)
恒例対談! スタイリスト島津由行×ディレクター源馬大輔
2012年春夏に見るファッションの未来図
かかせないのはハッピーな気分!(前編)(1)
震災は大きな影響をファッション界にも与えた。それは日本だけでなく、たとえばパリコレクションにおいても、ちょっとした変化が起きていた。気分として元気になるポジティブ方向なコレクションが、多く散見されたのだ。そこに通底して漂っていたのは、“ハッピー”な感覚!そこで本来なら秋冬のトレンド解析をするところだが、OPENERSではあえて2012春夏をテーマに捉えることにする。春夏のトレンドを知ることは、秋冬のファッションにとって、なんらネガティブな要素はない。そう、いま、大事なのは、ハッピーな気分でファッションを楽しむことだから……。
前回とおなじく、スタイリストの島津由行さんと、ディレクター源馬大輔さんを迎え、春夏を分析していただいた。
Text by OPENERSPhoto by NAKAMURA Toshikazu
リラックス、開放感、そしてハッピー!
島津 パリコレあたりから全体的な話をしましょうか。正直、ネガティブな面も少なくないですね。ラフ・シモンズなどは、資金難で才能があっても好きな服がつくれないという状況があります。
源馬 そうですね、いまは才能があっても難しいですね。ラフ・シモンズはメンズファッション界の宝ですからね。もったいないです。
島津 そうですよ、彼の功績はすばらしいですからね。いい方向で言えば、ルイ・ヴィトンのキム・ジョーンズですね。ヴィトンの前はダンヒルを手がけていましたが、今季はじつはあまり期待していなかった。ですが、意外といいコレクションだったと思います。
源馬 僕はキムとはロンドンの学生のときから友達です。彼はとてもコミュニケーション能力が高く、モノも好きなタイプでしたね。ダンヒルのときもそうでしたが、ルイ・ヴィトンでもアイコンを使う能力や、時代を捉える能力はさすがだなと思いました。ある種、リラックスしていたり、そういう空気が春夏コレクション全体に通じるテーマの気がしているので、キムがつくったサンダルとかかわいいなと感じています。ブランケットみたいなものも、いいなと思いました。
島津 うん、あれはよかった。全体的にはスポーツカジュアルですよね。プラダもそうですが、トレンドでいえばスポーツとカジュアルを融合させたものがよかったですね。
源馬 プラダよかったですね。僕大好きなんです、プラダ。
島津 ええ、プラダはおもしろいですよね。ゴルフがモチーフでしたが、ゴルフをするしないにかかわらず、ファッション性としてレイヤードが秀逸でしたね。
キム・ジョーンズのルイ・ヴィトンに注目
源馬 テーマ的にハッピーな感じだとか、リラックスしたシルエットなどは春夏の特徴として大きい気がしますね。
島津 ハッピーね。
源馬 ハッピーな感じしませんでしたか?
島津 ハッピーな時代だよね。ハッピーになってほしいという願望も込められているのでしょう。
源馬 シルエットは腰ではいたり、少し大きくなっていますね。
島津 (事前に用意したご自分のメモを見ながら)パッピーがキーワードって、書いてある(笑)。で、基本はクラシックですね。
源馬 そうですね。あとサイズ感とかもある。また今回、プリントが多かったですね。リラックスしていて、スポーティな感じですかね。
島津 そう、スポーティフォーマル。
源馬 キム・ジョーンズのルイ・ヴィトンは、バッチリそれを捉えています。
島津 スポーティからフォーマルまで、流れをくんでいてすばらしい。そういうトレンドを取り入れるのは、キム・ジョーンズは上手ですね。
源馬 僕がかかわっているサカイも、バルセロナのピカソが履いていたエスパドリュを使ったりしています。素材とかにスポーティな要素を入れています。
島津 サカイのお店が青山にオープンしたんだよね?
源馬 ええ、オープンしました。
島津 あのあたりはコスチューム・ナショナルのショップもできたけど、バーがいいですね。ビンテージのシャンパンがうまいらしい(笑)。
源馬 お店とバーとギャラリーの複合施設ですよね。
島津 サカイもあの通りですよね。いずれせよ、ハッピーな話題でいいですね。骨董通りに元気がなくなっているので、いいことです。あと原宿もダメなんで、みんなちょっとずつ渋谷のほうへ動いています。ラッドミュージシャンとかダブルタップスとかね。なんかちょっとこう、動きがありますよ。
源馬 日本にかんしていうと、パーソナルなお店が増えたと思います。たとえばソロイストの宮下くんのお店とか。サカイもそうですが、パーソナルなテイストをガッツリ出しています。
島津 なんか個人商店のお店の感じですよね。あえて個人商店にしようみたいな。
源馬 お客さんがデザイナーと向き合って買い物する感じがいいような気がしています。
島津 伊勢丹は前はしきいがあったのを、全部とり払ってドルチェ&ガッパーナに行こうが、ランバンに行こうが、ミックスチャーしながら買い物ができる仕方になっていますね。それはすごくいいかなぁと思います。国内、海外問わずフロアごとのセレクトショップ的な発想ですね。
恒例対談! スタイリスト島津由行×ディレクター源馬大輔
2012年春夏に見るファッションの未来図
かかせないのはハッピーな気分!(前編)(2)
ディテールにあらわれる2012春夏らしさ
島津 ちょっと話はそれましたが、コレクションでいうと、プラダ、ルイ・ヴィトンはよかったですね。私としてはチャンピオンは、構成力をふくめるとランバンでしょうね。
源馬 そうですね。僕もおなじですね。やはりランバンはディテールもすばらしいし、本当にすごいと思います。
島津 完成度も高いしね。
源馬 二度見しちゃうディテールがいっぱいありますからね。ランバンはシックである、ということが大事だと思うんです。ドリス ヴァン ノッテンもかわいいですね。
島津 ビッグショルダーが春夏は多かったですね。これはバーバリー・プロ-サムの影響みたいな、前回を引き継ぐかたちで、ジバンシー、ルイ・ヴィトン、ランバン、トラサルディーなどで見られましたね。それにしてもビックシルエットのアウターが急増していますね。あと、ラグランスリーブも多いですね。
源馬 シルエットがリラックスしているので、どうしてもラグランでフワッと見せるようになる。ジバンシーもそうですね。プリントのせいもあるとは思います。プリントをキレイに見せるには、ラグランは有効的ですから。
島津 あとは1つボタンジャケットかな。やっぱりスポーツとクラシックのミクスチャーが多かった。どことはいいませんが、がんばってほしいところもありましたね(笑)。テーマと内容がおぼつかなかったかなぁと。ちょっと浮いた感じに見えてしまうとかね。
源馬 春夏は先ほども言いましたけど、ハッピー感みたいなものを、みんな出そうとしていましたから。
島津 秋冬からの流れでいうと、山系は引きつづきあると思いますね。日本でいえばホワイトマウンテニアリングとか、ジュンヤワタナベとかの流れ。アンダーカバー、N.ハリウッド、ビズビムとかは気になりますね。アンダーカバーでいえば、昔と変わったなと思うのは、リアルクローズになったところでしょうか。隣のひとをどれだけ格好よく見せるかという考え方。パリコレでも言えると思いますが、昔のように一大スペクタルみたいなショーは少なくなっていますね。もちろん、なかにはコスプレショーみたいなコレクションもいまだにありますが(笑)。
源馬 時代的におそらく、まったくあたらしいなにかというよりも、リアリティがありながらあたらしい提案が求められている気はします。
デザイナーにおける職人気質
島津 スペクタクルというよりは、リアルですね。ひとつの考え方が、シフトしている時代なのではないかと思います。リアル方向でないところは、1980年代にミュグレーがやっていたようなことを、いまもやりたいんでしょうけど、時代性や服の縫製などテクニカルな部分が、おぼつかないところがあったりするのかなと思います。
源馬 テクニカルな部分では、難しいことがなんでも可能な時代になっています。ですが、昔にくらべ職人気質のデザイナーが減ったのも確かです。そういう職人的な部分をグッとやっているひとは少ない感じはしますね。日本人デザイナーはそういうところにこだわっているひとが多いですよね。たとえば服の裏側の処理。サカイの阿部さんも、ソロイストの宮下くんも、アンダーカバーのジョニオくんもそうですけど、方法論もふくめてこだわって縫っていますよね。個人的には消費されてしまうもうではないものを提案していく時代な気がしています。もちろん、ファッションですから消費されるんですが。所有するよろこびみたいなものを、もう一度得たいなと思っています。
島津 宮下くんはすごくこだわっていますね。服をよく知っているんです。また、いろいろな場所を知っているんですね。「そのTシャツの生地どこで仕入れるの?」みたいな話で、どこどこがいいとか、素材の産地もよく知っている。番手とかにすごくこだわっていて、彼は職人だなと思いました。
源馬 宮下くんは工場にも行っていますからね。
島津 ホント、個人商店ですよ(笑)。
源馬 ですが、海外も職人が少なくなったわけではないですね。
島津 ランバンもそうですが、ヨーロッパの職人の層というのはものすごい。日本は逆に職人はもともと技術的には力量はあったのですが、ディレクションしないとダメだった。ディレクションできるデザイナーたちが多くなったというか、宮下くんやジョニオくんみたく育ってきたということだと思います。海外の場合は、ディレクションがもともとなされているところがあった。それでも国内、海外とも工場はつぶれていますけどね。昔、ヴィヴィアン(・ウェストウッド)が言っていましたが、自分がニットをつくっている工場が、そこにしかないミシンを持っていたけれど、そこがつぶれてしまえば、もう自分がほっするニットはできなくなると。オートクチュールもそうですが、それを守るために教育界があり、やりつづけるための仕組みがヨーロッパはありますね。それでも、どんどん減っている。
源馬 サカイのルックブックをつくったのですが、沈んだ感じを表現したくなくて、パッピー感みたいなものを出しました。眉間にしわを寄せて、語るとか暑苦しいなと。とくに春夏ですからね。単純に目に飛び込んでくるものが、うんちくうんぬんではなくて、楽しいもののほうがいいなと思ったのです。ニュアンスはちがいますが、ジル・サンダーも見ていて楽しいですよね。そういう楽しいコレクションに、僕は惹かれたかもしれませんね。
恒例対談! スタイリスト島津由行×ディレクター源馬大輔
2012年春夏に見るファッションの未来図
かかせないのはハッピーな気分!(前編)(3)
ふたりの賢人が注目する春夏のアイテムとは?
島津 ラグランスリーブのベースボールジャケット。形はそうですが、それが革でつくられているなど、もちろんモダンなものです。
源馬 ディテール自体はスポーティでも、シックな仕上がりのものがいいですね。
島津 また、最近、MA-1が多いなと思っています。日本の展示会に行くと、みんなつくってますね。ですが、昔のMA-1のように丸っこいシルエットではなくて、もっと細身なものです。ファッションテーマとしては、ひとつできるんじゃないかなって。ドリス(ヴァン ノッテン)でしょ。サカイもつくっていますね。
源馬 つくっています。マニッシュで裏起毛をボンディングした生地でつくってあります。要はスポーティな生地で、クラシックなものをつくる感覚は、いまっぽいと思いますね。先ほど島津さんがおっしゃっていたベースボールジャケットなら、ルイ・ヴィトンのクロコダイル素材のものが好きですね。ちなみにキムはアフリカでキャンペーンヴィジュアルを撮ったようですね。
島津 スポーツと旅ですね。
源馬 そうなんですよ。
島津 といってアフリカの感覚は出していないのが上手いところ。
源馬 春夏はサンダルもキーだと思いますね。あとは花柄。プラダ見て言ってんだろうって話なんですが(笑)。
島津 キャッチーな50s系のシャツとかね。あとリラックスパンツ系。トランスペアレントな透けるニット。ニットのなかにシャツを着て透かすものです。
源馬 ちょっと甘みのある、ハイゲージですね。
島津 ミリタリースタイルもありますね。今季のファッションは、ラグランスリーブに見る快適性。これは現代に欠かせないでしょう。ナチュラルであることがクール! こうメモに書いてある(笑)。
源馬 ハッピーとかリラックスというキーワードは間違いなくテイストとしてありますね。
島津 あと開放感!
源馬 ミュグレーなんかは、よくトライしているなと思います。
島津 今回のコレクションは自然光を使ったものが多かったでしょ? 日本で節電ならわかるけど、なんでパリで節電みたいなことをしてるんだろうなんて思いましたよ。
源馬 おそらく世界全体が、そういうムードなんでしょうね。つくりこんだライトでどうこうよりも、わりとナチュラルに開放的にいこうよという感じでしょうか。ラグランなどはインセットより、明らかに運動量がとれますから。パリではファッション系で派手なひとも見かけましたが、全体的にはシックでしたね。OPENERSの読者の方には、シックにいってほしいですね。
島津 ルームシューズ系も新鮮ですね。この秋冬にランバンのスーツ買って履きます。マイブームなんです。
源馬 コレクションを見て、マジで“ハッピー”はキーワードだと思いましたね。
島津 水着で裸のオンパレードみたいなものもありましたね。ゲイファッション的なものも一部ある。
源馬 それはそれであってほしいですけどね。
島津 そうですね、笑えるからね。ボッテガ・ヴェネタとかで出している、オーバーオールやカバーオールも気になりますね。1枚で着てさまになる服。1枚でさまになるアイテムが多かった気がするな。
源馬 そう、複雑なスタイリングってあまりしてないですね。
大人にはどんどんお洒落してほしい
島津 乗馬やフェンシングに着想した、スポーティでカジュアルなジャケットもいいですね。エレガンスを強調した、ロング丈のジャケットとかコンパクトなショート丈ジャケットとか。足もとはゴルフシューズやデッキシューズなどですね。
源馬 リラックスと言う言葉が派生してスポーティになっているのかわかりませんが、運動量が多い肩のつくり込みがあったり、スポーティな素材ですがボンディング加工でハリがあったり、僕はそういうのがすごくいいなと思います。普通にスポーツものをつくったらパタゴニアのほうが優れているワケじゃないですか。そこにそういう、モダンなプラスαな要素があるのがいいかと。
島津 季節的には、これから秋冬ですが、ウェブでは雑誌とちがい情報が早い。でもむしろ、来年の春夏を先取りして、秋冬に活かすというほうがいいと思っています。着まわしもできますし。それほど季節で変わりませんからね。
源馬 確かにそうで、トレンドみたいなものって引っ張りづらいじゃないですか。春夏のハッピー感が、秋冬にあっても全然問題ない。
島津 ランバン、プラダあたりは安定感がありますけど、デザイナーによっては春夏は上手いけど、秋冬はちょっとみたいなこともちょっとありますよね。その逆もありますね。プラダは両方上手いですよ。
源馬 サラッと提案してくるものの、完成度が滅茶苦茶高いですからね。かなり玄人受けもしていると思います。
島津 あとは色でいうと、ハッピーがキーワードだからといって春夏の定番カラーであるパステルというよりも、パープル、ワイン、ネイビー、ベリジアンなどシックめな色がハッピーな要素になるでしょうね。要するに90年代はじめによく出た色なのですが、深い色が多くキーですね。
源馬 僕の場合、香港などお店のディレクションにも参加させてもらったりするので、リアルなマーケットからの見え方だと、日本のブランドに対する注目度は高いと思いますね。
島津 すごい人気あるんでしょ? ビズビム、ネイバーフッド、ソロイスト、カラー、サカイとか。これらのブランドの場合、マーケットでいうと年齢層は日本が一番若いですね。ロンドンも新店ブームで、いろんな店がイーストエンドにできていますけど、日本人デザイナーの人気は高いですね。
島津 もちろん、サイズ感が日本やアジア的で、ヨーロッパのひとに向かないブランドもありますね。アジアでは大人気でも。
源馬 OPENERSの読者の方は、年齢層が高いイメージがありますが、大人の方にお洒落をどんどんしてほしいですね。お洒落して街に出たら、ハッピーになるじゃないですか。
島津 そうですね、それがこの秋冬から春夏にかけての、ファッションキーワードでしょう。
恒例対談! スタイリスト島津由行×ディレクター源馬大輔 後編はこちら!
SHIMAZU Yoshiyuki|島津由行
1959年熊本県生まれ。数多くのCF、雑誌や広告媒体などを中心にタレントやモデルのスタイリングを担当している。また、ファッションショーの構成や選曲、雑誌にてクリエイティブディレクションも手がけるなど、多方面で活躍中。OPENERSで連載中。
GENMA Daisuke|源馬大輔
1975年生まれ。「セリュックス」のブランドディレクターなどを務めたのち、現在はサカイ、香港のLANE CRAWFORDに携わる。その守備範囲は広く、マーケティングから商品開発、内装までディレクションし、日本のみならず海外との契約も多数ある。