ゲスト:重松 理さん_2
重松 理さんに聞く_2
photo by Yuichi Sugita(BIGHE)edit by Daisuke Hata(City Writes)
ビスポークの楽しさ、難しさ
松田智沖 ところでジョン ロブの靴はこれまで何足くらいお履きいただいていますか?
重松 理 全部で10足です。今日履いているジョン ロブは4年前くらいに買った既製靴ですね。このラストが登場した頃にたくさん買ったんですよ。これはノーズも比較的長めですね。本当はオウプナーズの連載で紹介したサイドレースのビスポーク靴を履いて来ようとも思ったのですが、こっちの既製の方がノーズが長かったもので(笑)。サイドレースも長く作ったつもりだったんですけど、こっちはその後に出たシリーズだからか、時代性がより反映されている。
松田 連載でもご紹介いただき、本当に光栄です。重松さんはジョン ロブに限らず、ビスポーク靴もよく誂えられているご様子ですね。
重松 ええ。ビスポークの何がいいかというと、自分の思う通りの靴を作ってくれるからなんですよね。でも、たとえば今、僕が『これだけロングノーズにしてくれ』と要求しても、ジョン ロブは確固たるポリシーがあるから聞いてくれないでしょ?(笑)
松田 いえいえ、そんなことはありません(笑)。
重松 もちろん職人さんからすれば僕の要求は邪道なわけで。彼らは寝るまで靴を履いている文化なので履きやすさを大切にするのは、当然のことだと思います。でも、ギリギリのラインで、細く、長く、でも履き心地に響かないというのを僕はほしいんです。ただ、ビスポークっていうのはお互いの理想の出し合いだから、どちらかが折れないと決裂しちゃう(笑)。
松田 重松さんのお足はフィリップ・アティエンツァという職人が測らせていただいたと思うのですが、現在はフランソワ・アドニーニというベテラン職人が着任しまして、今年2月には日本へも来ました。フィリップは自身の想い描くスタイルを強くもっていましたね。それがお客様にご信頼いただいていた部分でもあるのですが、フランソワはジョン ロブらしさを保ちながら顧客の要望に非常によく耳を傾けますから、重松さんのご要望にもお応え差し上げられると思いますよ(笑)。
ビスポークの新しい試みとは
松田 ところで重松さんがジョン ロブのビスポークをされたときは『スケルトン』の靴で仮縫いをさせていただきましたか?
重松 いえ、革のものでしたよ。
松田 現在はクリアなウレタン素材を用いて、仮縫い用の靴をまず作るように変わったんです。透明なので中でどう指が収まっているかまでがハッキリと見えるんですね。当たっている部分、浮いている部分に直接ペンで書き込んでいって、それを反映します。
靴の製法は伝統を守り続けていますが、こうした手法は革新的なものを採り入れているんですよ。
重松 いや、これは初めて見ましたがいい方法ですね。
──ビスポークのサンプルを見ながら
重松 ここにあるビスポークのサンプルは随分ウエストが絞られていますね。今、ビスポークで頼んだらここまで絞ってもらえるものなんですか?
松田 ええ、大丈夫です。
重松 履き心地に関しては絶対文句を言わないから、捨て寸をもっと伸ばしてほしい、なんてオーダーはダメ(笑)?
松田 ご了承の上であればお受けさせていただきます(笑)。
重松 そうですか、良かった。実はビスポーク靴を最近ずっと作っていなかったのですが、その理由が客の要望よりも職人さんの意向の方が強い場合が多くて、それで結局は思ったものが出来ないと諦めていたんですよ。
以前、トム・フォードがセルジオ・ロッシで古いビスポーク靴に似せたものをパターンオーダーで作ったとき、ものすごくウエストを細く、長くし、そのかわりに上下の寸法を伸ばして出したんですね。それを持っているのですが、ものすごく履きやすいんですよ。だからフォルムと履き心地を両立することもできないことはないと思うんです。
松田 その靴は今もお持ちでしょうか?
重松 持っているんですけど、まさかここに持って来るわけにはいかないでしょう」
松田 いえいえ、デザインの模倣はお受けしていないのですが、お持ちいただいた靴のフィットを忠実に、というのであればぜひお持ちいただきたいですね。場合によっては職人がパリのアトリエに持ち帰らせていただくこともあります。
重松 そんなことまでやってくれるんですか、それじゃあ大丈夫ですね(笑)、ぜひ今度作りましょう。
松田 ありがとうございます、僕からもフランソワによく話しておきます。