連載・信國太志|第12回  なぜ、ツイードを着て自転車に乗るのか?
Fashion
2015年5月19日

連載・信國太志|第12回 なぜ、ツイードを着て自転車に乗るのか?

連載|信國太志

イージーなドレスダウンの果てに行き場のなかった未来

第12回 なぜ、ツイードを着て自転車に乗るのか?

僕がスーツラインを監修する「WILD LIFE TAILOR」にて、ツイードを着て自転車に乗るという“TWEED RUN”の期間限定ショップがオープンしました。主宰者のテッド氏に尋ねると、彼のまわりの友だちは皆1920年代の装いに夢中だとか。

文=信國太志

ロンドンのムーブメントから再認識した、着飾ることの自由

なぜ、ツイードを着て自転車に乗るのか? そんなロンドンのムーブメントは、スタイルでありファッションでありますが、じつのところはマナーの復権なんだと思います。

ただドレスコードに適っていればいいとか、スーツさえ着ていれば会社に行けるとかいうことではなく、失礼のない装いとは、本人がちゃんと着ることを楽しんでいるということ。“大切なひとに会うから好きな装いでいよう”という気持ちが感じられるスタイル。思い思いのスタイルでクラシックな自転車を飛ばす彼らにそんな気概を感じます。

僕が十代のころロンドンに『ブラックス』というお店があり、1930年代のスタイルで決めていると見聞きしてときめくとともに、なんて不思議なひとたちなんだろうと驚嘆しました。そしていまもまた若い世代にそんなひとたちがいることを“TWEED RUN”をつうじて知ることに、懐かしいという思い以上に新鮮さや未来すら感じます。イージーなドレスダウンの果てに行き場のなかった未来が、ドレスアップをつうじてそこに垣間見えます。

信國太志|ボタニカ|タイシノブクニ 02

信國太志|ボタニカ|タイシノブクニ 03

ファッションはいつもその繰り返しなのでしょうが、ジョン・ガリアーノが不死鳥のようにパリに返り咲いたときのフープスカートと優美なテイラリングにも同様の未来を感じました。そのときジョンは、「もうドレスダウンは終わり。過去のスタイルをスプリングボードにして構築的でセクシーなドレスアップの未来を築かねば」と語っていました。そのときの衝撃から本当に僕はユーロスターに飛び乗ってパリに行ったのですから。

当時、彼のやっていることはとても意味のあることに思え、僕はどんな些細なことでもいいから自分のできることをして彼を手伝いたいと門をたたきました。おなじような感覚をファッションが安易になった現在、経済が疲弊したいまだからこそ感じるし、その感覚は僕の根底に流れるものだと、今回テッドたちに出会って再認識しました。

Tシャツの着方は裾の出し入れとか、袖をめくったりとか。でもタイの結び方には何十とおりもあるのです。どちらが個性的でどちらが自由でしょうか? そんな着飾ることの自由を、僕はこれから提案していこうと思っています。

ところでそろそろ僕もウィンドウぺーンのスーツを仕立ようかな。

日本で唯一のリミテッドショップ
『TWEED RUN GENERAL STORE』

WILD LIFE TAILOR
東京都渋谷区恵比寿西1-32-12
Tel. 03-5728-6320
http://blog.jun.co.jp/adametrope/101696/

           
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