信國太志|第9回  追悼 マルコム=マクラーレン
Fashion
2015年5月19日

信國太志|第9回 追悼 マルコム=マクラーレン

連載|信國太志マルコムへ僕らが捧げられる最大の献辞とは

第9回 追悼 マルコム=マクラーレン

前回も書いたように、僕は世間のエコブームとは裏腹に、オーガニックコットンを多用しながらもより自分の本能の原点回帰に向かっています。コレクションをデザインしていても心の叫びのようなものが疼(うず)くのです。一時は封印していたサブカルチャー的なルーツが──

文=信國太志写真=岩澤深芳(モデル)原恵美子(ポートレイト)

“死ぬには早いけど、生きるに長すぎる”という叫び

心身の節制の名のもと清らかな志向ゆえ押し隠していたルーツ。そんな“らしさ”は両親、彼らからさずかった身体、育ち、環境、青春として、じつは救うべき大いなる地球以前に、大切な資産としていとおしく思えるのです。そんな叫びがふつふつと心の奥から聞こえてくるとき、そのリズムはロックンロールであり、その香りは甘いポマードで、その光はヴェルベットの光沢でした。

福岡・久留米のハチヤというお店で中学生お断りの看板の向こうに見たドキドキする世界(いま思えば、中学生に服を売る最高の手法ですが)。そんなリズムが自分の血のようなブリティッシュのテイストとかけ合わさったとき、TEDDY BOYSが頭のなかで踊りだしました。“死ぬには早いけど、生きるに長すぎる”と叫びながら。

そしてできあがった秋冬コレクションは、僕の2度目のデビュー作といえるくらい自分でも気にいってます。
そんなコレクションの展示会でかける音について考えたとき即座に思い出したのは、マルコム=マクラーレンが彼の店『Too Fast to Live Too Young to Die』でかけていた音のコンピレーションでした。それからの数日は頭のなかでもそれらの下品で猥雑なビートの繰り返しです。来場する知人にはそのCDのコピーをあげたりもしていました。

そんな日のことです。マルコムが逝ってしまったのを知ったのは。

連載|信國太志マルコムへ僕らが捧げられる最大の献辞とは

第9回 追悼 マルコム=マクラーレン

SAKURA × 永富千晴対談(前編-3) 「ウェブ世代の化粧品選び」><p class=

彼はHip-Hopとの出合いを僕にこう語ってくれました。
「ブロンクスの片隅で珍妙な格好をしたひとたちがトレイナー(イギリスではスニーカーをこう呼びます。ちなみにジャンパーはセーターの意味でパンクスの定番はモヘアジャンパーです。話がそれましたが)を履いてレコードを擦(こす)るのに合わせて不思議な踊りをしていた」と。
それは貴族の彼が、ロンドン郊外の低所得者がもみあげを伸ばしループタイできめてくねくねと躍(おど)るのをみたのと同等の衝撃だったのでしょう。

でもやがて彼の発見の連続も徐々に収束していきました。

「どうして、もうそんなスタイルとファッションがリンクしたドキドキするような出来事はないんでしょう?」

「メディアがすぐに潰してしまうからさ」

繰り返しますが、この言葉にはメディアを利用しながら最期にはメディアに利用されたと感じる男の悲哀が漂います。

でもそんなドキドキは本当に終わったのでしょうか?

僕は、意外に“裏原”台頭時のスケーターたち(自分もスケーターでしたが)にもドキドキしたし、Dex Pistolsのひとたちのスタイルにもドキドキするし、そのようにあたらしいひとたちにドキドキの再生産を感じます。

そのようなドキドキをこれからも伝えて繋いでいくことが、マルコムへ僕らが捧げられる最大の献辞なのではないでしょうか。

VIVE LE PUNK!!!!!

           
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