写真家・美術家の川久保ジョイさんと写真表現について語り合う(3)|谷尻誠対談
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2015年4月14日

写真家・美術家の川久保ジョイさんと写真表現について語り合う(3)|谷尻誠対談

谷尻誠×川久保ジョイ対談

写真家・美術家の川久保ジョイさんと写真表現について語り合う(3)

コミュニケーションや個から生まれる表現の行き先

インスタレーションや原子力発電所の作品「The New Clear Age」など、独自の活動で注目される気鋭の写真家で美術家の川久保ジョイ氏と建築家の谷尻誠氏の対談3回目。最終回は、写真と建築について語り合う。

Photographs by SUZUKI Shimpei Text by KAJII Makoto (OPENERS)

孤独という状態はなにか

谷尻誠 写真界とアート界では、ひとの感じや雰囲気も随分ちがうでしょうね。

川久保ジョイ アート界には、化けモノのような感性をもったひとがごろごろいてショックを受けました。僕の写真はお話したようにひとりで耳栓して撮影現場に行って、帰ってプリントもひとりと、孤独な作業です。孤独は自分のなかでいろんなものを感じ取るので好きですが。

谷尻 きっとそれは一番集中している状態なんでしょう。僕はひとと一緒にいるのは好きですが、そこに冷めた自分が俯瞰しています。たとえばライブに行くと、ふとそのなかの孤独を見つけて面白がる。圧倒的なノイズのなかの静けさに興味があったりします。僕はヘッドホンで爆音を聴きながら寝る、落ちていくのが好きで、そこに自分なりの快適さがある。孤独を探していく感じですね。

川久保 孤独は、相対的なもので、絶対的なものとはちがいます。いわば醒めた状態、特殊な状態ですね。

谷尻誠|川久保ジョイ

谷尻誠|川久保ジョイ

思っていることと世界との一致

谷尻 川久保さんはユニークなキャリアですが、奥さまも寛容ですよね。

川久保 彼女はアートについてはあまりわからないというのですが、僕の作品を観て「頑張ってほしい」と思ってくれています。

谷尻 きっと奥さまもそばにいるから、アートに対して鋭敏になっていくんでしょうね。

川久保 谷尻さんは写真を撮られますか。

谷尻 カメラの構造はよくわからないし、シャッターを押すだけです。ですが、「コレはどう撮るべきなのか」はすごく考える。一枚の写真、一枚の構図、画角を考えてシャッターを押しますが、自分の考えと一致するかどうかが大事。

川久保 その「思っていることと世界との一致」がいちばん難しいことです。

谷尻 川久保さんと話していてわかったことですが、僕は「建築的に撮ろう」としているんですね。建築がどこに存在しているのか、どんな時間とともにあるのか、風景として空間としてとらえないと伝わらないと思っている。たとえば、このテーブルがランドスケープで、湯呑み受けが敷地、湯呑みが建物。空間をとらえようとしている写真が好きなんですよ。

川久保 そこまで考えて撮っているひとはどれぐらいいるでしょうね。でもそれは根源的な考え方です。

谷尻誠|川久保ジョイ

谷尻誠|川久保ジョイ

構図にはすべての人格があらわれる

谷尻 構図だけはちゃんとしていたいですね。スタッフにも「写真(構図)が下手な奴は設計が下手」とよく言っています(笑)。でも、敷地に対して建物の置き方が下手だと空間をつくれない。構図にはすべての人格があらわれます。川久保さんは構図はどうお考えですか。

川久保 もちろん構図にはこだわりはありますが、僕は我流で感覚ですね。写真を見ていただくとわかりますが、写真ではあまりよく言われない「日の丸ポーズ=真ん中に対象物を置く」だし、水平線を真ん中にもってくる「左右上下対称」は、西洋古典絵画ではNGです(笑)。でも、日の丸構図によって求心性を高めたいんですね。

谷尻 なるほど。お話を聞くとよくわかります。

川久保 自分は写真も建築もコミュニケーションだと思っていますが、谷尻さんは「建築の言語化」はどうお考えですか。

谷尻 いままでの建築家は何を言っているのかわからなかったんです(笑)。みんなすごいひとだなと思っていましたが、それはなぜかというと、僕がわからないことを話して書いているからすごいと思っている可能性がある。社会的に建築を作るというのは、社会性が必要な仕事なのに、建築家の言葉はわからない。素人が建築家の文章を読んでもわからないだろうなと思ったので、ならば、誰が聴いても面白いと思ってくれるような「翻訳家」になろうと思ったんです。

川久保 一種の種明かしのような。

谷尻 翻訳家になることで、建築に寄り添うひとが増えるんじゃないかと思うんです。みんなが企んでいることを、企みを隠すよりは、僕は企みをオープンにする。堅苦しい建築家像を溶かしていこうと思っています。

川久保 谷尻さんは非常に健全な考え方をされるんですね。

谷尻 自分はグレーゾーン的なことに興味があるんですよ。生活とアートはかけ離れているような気がしますが、「生活なのにアート的にすごい」と感じる中間的なところに興味がある。世の中にはそういうものがまだあるはず。

川久保 それはたとえばどういうことですか?

谷尻 究極は、「テーブルがテーブルになる瞬間」に立ち会いたいわけですよ。いま、私たちは「発見の社会」に生きていると思っていて、なんでも調べればわかるし、手に入るし、見られるんですが、あらたな発明領域はとても狭くて、発明したらパイオニアになれる。建築も、屋根や窓でつくっていくのは普通なんですが、その普通をどのラインで定めていくのかを設計でずっと考えていますね。川久保さんは「言語化」はどうお考えですか。

川久保 最近は非言語化のほうを追い求めていますね。日本語とスペイン語で性格が変わるんです。日本語のほうが論理的で、スペイン語のほうが感覚的なんです。

谷尻 それは面白いですね。川久保さんは耳栓をして「個になる」と言われていましたが、僕ならどこに行くんだろうと興味があります。

川久保 また作品を見に来てください。

谷尻 今回はありがとうございました。

谷尻誠|川久保ジョイ

谷尻誠|川久保ジョイ

川久保ジョイ 写真作品制作プロジェクト「The New Clear Age」
明日の日本に残すべきものはなにか―クラウド・ファンディング

写真家・美術家の川久保ジョイ氏が2011年から取り組んでいるプロジェクト「The New Clear Age」は、日本に現存する原子力発電所を大判(8×10インチ)のフィルムカメラを用いて写真作品として記録するもの。

川久保氏は、「この時代の日本に生きている人間として現在の日本のエネルギー事情そして、その背景にある原子力発電、しいては原子力という力の扱い方や倫理性、その正義を考えてもらうための事実を記録し、メディアとは異なった手法と視点で残したいと思っています」と語り、日本の未来が少しでも良いものになればという願いを込めて撮影をつづけている。

今回のプロジェクトの遠征(撮影)費用の目標額は、最初の3日間で達したが、全国のほかの4カ所のロケ分も含めて6月15日(月)まで支援を募集している。
クラウド・ファンディング
https://greenfunding.jp/micromecenat/projects/1043

           
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