2010 ミラノサローネ 最新リポート|川合将人のミラノサローネそぞろ歩き(3)
DESIGN / FEATURES
2015年4月17日

2010 ミラノサローネ 最新リポート|川合将人のミラノサローネそぞろ歩き(3)

特集|ミラノサローネ国際家具見本市 2010

川合将人のミラノサローネそぞろ歩き(3)

ミラノサローネ2010を振り返って

インテリアジャーナリスト&スタイリストの川合将人が、独断と偏見を多分に折り込んでお届けしているミラノサローネ・レポート。最終回は、活躍の目立った作家性の強いデザイナーたちの作品や、強烈な存在感を発揮したイタリアの巨匠らによる仕事を中心に、記憶に残った印象深い展示などを紹介する。

写真・文=川合将人

あらたなイベント「VENTURA LAMBRATE」

毎年、圧倒的な数の新製品の発表がおこなわれるサローネ。家具の見本市という基本路線は変わらずとも、特別な企画展を見ることができ、デザイナーたちのさまざまなアウトプットの手法を体感できるなど、その年ごとの変化を肌で感じられるのは魅力である。

今年はあたらしいイベントが開催されていたのだが、内容も充実していて非常に勉強になった。ミラノ市内の中心から少し外れた、Lambrateという駅を最寄りとする地区でおこなわれた「VENTURA LAMBRATE」というイベントだ。

とくに印象に残ったのは、オランダのデザイナーたちの作品だったのだが、Maarten Baas(マーティン・バース)を筆頭に、DESIGN ACADEMY EINDHOVENの展示などを見ることができた。

この地区では数でいえば20くらいのエキシビジョンが開催されていたのだが、ほかにもイギリスのROYAL COLLEGE OF ARTの展示や実験的なプレゼンテーションも多々あり、そのどれもが質の高い展示となっていた。来年も開催されるのであればかならず参加したいと思う。

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Maarten Baas(マーティン・バース)  マンションの1室で、iPhone用のアプリの販売のほか、写真のMoss仕様の“Grandfather Clock”などを展示していた

今年活躍したデザイナー

ここからは、活躍が目立ったデザイナーの展示をかいつまんで紹介したい。

まずは今年を象徴するオランダ勢として、クラシカルな柄とストライプを組み合わせたラグなどを発表した「richard hutten(リチャード・ハッテン)」と、Pieke Bergmans(ピケ・ベルグマンス)とSTUDIO JOB(スタジオ・ジョブ)らが共作で照明作品を発表した展示「Wonderlamp(ワンダーランプ)」のふたつを挙げたい。オランダのデザイナーの力強さ、発想を造形に落とし込む力量の高さを再認識した年でもあったのだ。

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Wonderlamp(ワンダーランプ) ピケ・ベルグマンスとスタジオ・ジョブによるランプシリーズのひとつ

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Richard Hutten(リチャード・ハッテン)  伝統的な柄とストライプを折衷させた“Playing with Tradition”シリーズのラグ

そして、ギャラリー「NILUFAR」で大型のシェルフや照明、ラグなども展示していた、Martino Gamper(マルティーノ・ガンパー)もよかった。「Magis(マジス)」と「Established & Sons(エスタブリッシュド&サンズ)」からそれぞれ椅子を発表するなど、今年はより際立った活躍を見せていた。

また、昨年は「Rossana Orlandi」や「droog design(ドローグデザイン)」で作品を発表していた、Nacho Carbonell(ナチョ・カルボネル)はまさに大躍進の年となった。市内の会場を舞台に、デスクと棚と椅子がひとつになったような個性的な造形を、いくつもの素材違いで展開し来場者を圧倒した。

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NILUFAR(ニルファー) 市内のギャラリーに展示していたマルティノ・ガンパーの棚

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Nacho Carbonell(ナチョ・カルボネル) ガラスや鉄などさまざまな素材や加工ちがいで披露された、ナチョ・カルボネルの作品

存在感を見せつけたイタリアの巨匠たち

では、レポートの締めくくりとして、サローネ発祥の地であるイタリアの巨匠たちの仕事などに触れながら、今年のまとめを。

巨匠のなかでもトップは「Meritalia(メリタリア)」に「Cassina(カッシーナ)」と、相変わらずの活躍を見せつけた、Gaetano Pesse(ガエターノ・ペッシェ)。トリエンナーレでの「LE FABLIER」の展示では珍しく木製のキャビネットを発表したが、一見は焼き物かと思わせる不思議な外観で、近づいて触ると上に軟質な樹脂を塗って仕上げてあった。今年のペッシェのなかでは「Cassina(カッシーナ)」のソファと同列にお気に入りである。

つづいては、「DANESE(ダネーゼ)」の製品や絵本作品でも知られるEnzo Mari(エンツォ・マーリ)。フィンランドの家具メーカー「artek(アルテック)」から、過去に発表した椅子が商品化となったのをはじめ、自身が所有するペーパーウェイト60点が展示される企画展がおこなわれるなど、着実に再評価が進んでいると感じられた。火山の噴火のあった今年、ミラノで足止めをくっている中で、彼が昔に「DANESE(ダネーゼ)」から発表した“ボルケーノ”という、まさに火山の噴火を絵にしたポスター作品が頭に浮かんでしまったほどだ。

最後は故人であるが、数多くの素晴らしい製品を世に送り出している、Vico Magistretti(ヴィコ・マジストレッティ)。仕事場だったスタジオが一般公開されていたので、この機会に訪問させてもらった。建物自体もマジストレッティの設計によるもので、一見の価値ありだ。手がけた製品のサンプルや建築模型など、貴重な仕事の痕跡に触れることができる。

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Vico Magistretti(ヴィコ・マジストレッティ) 一般開放された、故ヴィコ・マジストレッティのスタジオ。デスク周りに貼られた手紙やメモ書きにも目を奪われる

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LE FABLIER トリエンナーレで発表された、ガエターノ・ペッシェのキャビネット“La Variabile”

あたらしいデザイン、変わらない街

さて、今年のサローネをふりかえってみて頭に浮かぶのは、そのマジストレッティのスタジオを出たあとに見たミラノ市内の街並だ。

煉瓦や石づくりの歴史的な建造物がすぐそばに、当たり前に存在している風景。地下鉄やトラムを駆使し、地図を片手に歩きまくって遭遇する最新のデザインは、絶好のコントラストとなって目に映る。街全体が、伝統と革新の混成体となって五感を刺激してくれるのだ。

今年は冒頭で紹介した「VENTURA LAMBRATE」もくわわって、さらにその奥行きが増したように思う。あらたな街の表情に出会うこともできた、2010年のミラノサローネであった。

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川合将人|KAWAI Masato
東京出身のインテリアジャーナリスト&スタイリスト。
雑誌やカタログ、広告、展示などを中心に、
空間のスタイリングやプロデュースをおこなう。
また、豊富な経験をもとに
各メディアで執筆活動も展開している。

           
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