丸若屋|「ポップアップオフィス in 徳島県那賀町」を開設
デザイナーズウィーク期間中、東京・青山に“四国の美しいもの”がやって来る
丸若屋、「ポップアップオフィス in 徳島県那賀町」を開設(1)
過疎化が進み限界集落のひとつにも数えられる徳島県那賀町に、「ポップアップオフィス」を8日間限定で開設した丸若屋。その試みの先には、働き方のあらたなあり方と、今季のデザイナーズウィークにつながるあらたな取り組みが待ち受けていた。
11月2日(日)、3日(月・祝)に開催されるNAKANIWAポップアップショップ「職人の中庭 ‒ARTISANS-」の詳細はこちら
Text by TAN Miho(OPENERS)
個人プレーで成り立つ仕事のスタイルには“感覚の共有”が不足していた
もはや開催されていない日はないと言っても過言ではないほど、私たちの日常に浸透しつつある「ポップアップストア」。その考えを転用させた「オフィス」を開設したとの知らせが編集部に届いた。
このあらたな試みをおこなったのは、東京・青山にオフィスを構える株式会社丸若屋。日仏を拠点に、伝統工芸から最先端工業に至る幅広い分野での最高峰の技術と革新的な取り組みをおこない、「21世紀を生きる人々の生活に驚きと喜びを提供」する企業である。本年はパリ・サンジェルマンにて、美しき日本の品々を展示販売する『NAKANIWA』をオープン。今秋には2016年に創業400年を迎える有田焼の海外プロジェクトも始動する。
「ポップアップオフィスにチャレンジしようと思ったのは、もともとは社員の五感をチューニングしたかったからなんです」とは代表の丸若裕俊氏。
もはやPCとネットワークさえ整えばどこにいても働けるようになった今の時代。会社という場所に限定されず外で仕事を進める読者も多数いるかと思うが、社員それぞれが異なるプロジェクトを抱える丸若屋もそれは同様で、たとえば丸若氏は月の半分以上が東京から離れた場所での仕事だという。
そんな、各人が各プロジェクトに特化しているのと同時に丸若屋というひとつの有機体を構成する現代らしい働き方のなか、ひとつの課題があった。
「社員の間で言語のニュアンスがうまく共有されていないように感じることがあるんです。」と丸若氏は話す。言語だけの共有では限界があった。実際に同じものを見て、同じ匂いを嗅ぎ、同じ体験をした上でないと、共有されないものが確かにあった。
そして向かったのは、徳島県那賀町。誰もがあらゆる場所で働けることを逆手に取るようにして、社員全員で、かつまるっきりいつもとは異なる場所へオフィスを“移転”。1週間という期限付きの瞬発力にも期待して。
丸若屋の「ポップアップオフィス in 徳島県那賀町」の誕生だ。
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限界集落に含まれる那賀町にあって、東京にはなかったもの
徳島県那賀町は県の南西部に位置。県の総面積414,510㎢の約17%を占める大きな町でありながら、標高1,000m以上の山々に囲まれ地域の9割以上を森林が占める。現在の人口は約1万人。2020年には65歳以上の老年人口割合は48.6%まで増加し、住民の約半数が高齢者になると予測されている町だ。
そのようななかで、農業に加えて産業の基軸になっているのはやはり林業で、昔ながらの和紙作りや紙の原料としても使われる楮(こうぞ)の樹皮の糸で織る太布織などが、伝統工芸として受け継がれている。
那賀町は「住む人、来る人に魅力いっぱいのまち」をキーワードに、行政があたらしい町づくりに取り組んでいるのも特徴だ。財政面での黒字を確保しつつ、災害に備えた耐震対策や高齢者対策、子育て支援事業の充実など町民に向けた取り組みをするほか、移住交流やふるさと回帰の支援を充実させて都市住民との交流の活性化も試みる。町外に向けたアプローチを積極的におこなっているのも那賀町ならではだ。
外部から来る人をあたたかく迎える雰囲気は町民にも浸透。今回のポップアップオフィスは企画から各所との連携、オフィスや住まう場所の手配まで短期間でスムーズに進んだ。
「ポップアップオフィス in 徳島県那賀町」が出現したのは、金曜日のみ営業している飲食店、柚冬庵カフェ「くるく」。
「くるく」は木頭ゆずを加工販売する那賀町の有限会社柚冬庵がオープンさせた、地域を訪れた人や地元住民の交流拠点施設。県の交付金を活用し、空き屋になっていた木造平屋の古民家を改装した場所である。最大14人分の椅子とテーブルを置ける板間と並ぶ和室からは、ユズ畑が見渡せる。
金曜日以外の日をオフィスとして使用し、ゆず酢でつくるちらし寿司や鹿肉料理など地の食材で田舎料理を拵える「くるく」の食事をランチに手配。
ポップアップオフィス開設後も、進めるプロジェクトはそれまでと同じ。電話やメールでコミュニケーションをとる相手も同じ。ただ、オフィスから見える景色と草木に満ちたすがすがしい緑の香り、そして那賀町の人柄からにじみ出るあたたかな温度感が、日常とは異なるだけだった。
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丸若屋、「ポップアップオフィス in 徳島県那賀町」を開設(3)
東京での“今”も那賀町での“今”も。世界はいつだって同時に存在している
だが、注意したいのは、丸若屋が日常と異なる場所に構えた「ポップアップオフィス in 徳島県那賀町」は決して、彼らにとっての非日常ではないということだ。
そもそもの目的であった“五感のチューニング”のほかに、ポップアップオフィス開設後、想定外の影響があったかとの問いに、丸若氏はこう答えてくれた。
「全員が、思いついたら行動するようになった点ですね。もちろん訪問前からできているメンバーもいましたけど、全員がそういうスタイルではなかった。要は、新しい環境で仕事をしたことによって、“今この場所”と“別の場所”が隔離しなくなったんです。日常も那賀町も、あるいは別の場所も、すべて同時にこの世界に存在している。それらの間に存在しているように感じていた“時間”に解放されて、世界中どこへでも思いついたその瞬間に行動できるようになった。仕事のスピードが格段に増しました」
それは私たちに置き換えたなら、東京と徳島という距離ではなく、日常の半径5mの中にも存在してはいないだろうか。たとえば同僚との間に。旧友との間に。親やパートナーとの間に。彼らにとって“時間”に思えたものは、私たちにとっては建前や見栄といった形で。
それこそ「おはよう」や「こんにちは」といった挨拶や礼以外の、コミュニケーションにおける本質からはずれたものから解放されたなら、私たちはもっと自由になるのではないか。
「ポップアップオフィス in 徳島県那賀町」にもたらされた想定外のギフトは、那賀町の町民が彼らを日常として扱ってくれたというエピソードとも重なり、そんなことを思わせた。
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東京・青山と徳島・那賀が交差して、この11月あらたな伝統への架け橋が生まれる
最後に、普遍的な“美しさ”と今という“瞬間”を追求する丸若屋の今後の展開について、丸若氏に伺った。
「『ポップアップオフィス in 徳島県那賀町』では、『くるく』のほかに住居として使用させていただいた『井本紙漉場』や禅体験をさせていただいた『城満寺』をはじめ、町民のみなさんの感謝しきれないほどのご協力あってより濃密なポップアップオフィスを実現できました。
この企画を継続するとともに、今回の経験を日々の仕事に活かし、次のステップへの飛躍を模索し続けたいと思います」
その模索のひとつが、今秋のデザイナーズウィーク中に開催される。丸若屋がパリで日本の品々の展示販売をする「NAKANIWA」がプロデュースするイベントへ、高知県いの町で土佐典具帖紙を継ぐhamadawashi、徳島県上板町で藍染めを行う若いユニット・BUAISOU.を招くのだ。
「これからは自分より上の世代だけでなく、同世代や、さらに若い世代にも目を向けていこうと思っています。長い年月を支えてくれた知識があると、なにかあってもまず受け入れようとする気持ちが先立つ。でも若い世代は、不可解なことや不思議なことに出会うと『なんで?なんで?』と探求しようとする。この探求心を、日本の美しいものと掛け合わせていきたいんです」とは丸若氏。
ポップアップオフィスは、走り出す短距離走者があらたな舞台のスタートラインに立つようなものに思える。“時間”を超えた日常からきっと、未来につながる伝統が生み出されていく。
ポップアップオフィス in 徳島県那賀町
開催日時|8月18日(月)~25日(月)
場所|徳島県那賀町 井本紙漉場、柚冬庵カフェ「くるく」ほか
参加団体|丸若屋、上出長右衛門窯、フォレストバンク、BUAISOU.ほか
協力|徳島県、那賀町、柚冬庵、くるく、阿波農村舞台の会、丹生谷清流座、矢野陶苑
※期間中、高知県いの町のhamadawashiも訪問
NAKANIWAポップアップショップ「職人の中庭 ‒ARTISANS-」
会期|11月2日(日)、3日(月・祝)
会場|valveat 81 Gallery
東京都港区南青山 4-21-26
職人|hamadawashi/BUAISOU.
主催|株式会社丸若屋
共催|MarchingBandCompany.
協力|valveat 81/Red Bull/USMモジュラーファニチャー/コエドビール ほか
丸若屋
Tel. 03-6427-9675
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