Barber Osgerby|“聖火デザイン”の秘密
DESIGN / FEATURES
2014年12月15日

Barber Osgerby|“聖火デザイン”の秘密

2012年ロンドンオリンピック・聖火トーチのデザイナーデザイン・デュオ「バーバー オズガビー」インタビュー

“聖火デザイン”の秘密

2012年ロンドンオリンピックの聖火トーチのデザインを手掛け、一躍注目を浴びたイギリスのデザイン・デュオ、「バーバー オズガビー」のエドワード・バーバー氏とジェイ・オズガビー氏。10月吉日、オリンピック熱がそろそろ冷めたころ。トーチのデザインについてと、つねに二人三脚で進めるという制作過程を語ってくれた。

Text by Junko Tanaka & Winsome Li (OPENERS)Photographs by Linda Brownlee (Portraits) & Barber Osgerby studio

オリンピックの歴史を再解釈

そもそもこのトーチのデザインは、どこからインスピレーションを得たのか? バーバー氏とオズガビー氏はオリンピックの歴史を追求し、そこからデザインに落とし込んでいったという。彼らが発見したもの。それは、さまざまな“3”にまつわるエピソードだった。

「デザインを考えたとき、オリンピックの歴史にまつわる“3”のエピソードがいくつか顔を出した。1つ目はより早く、高く、強くという3つのオリンピックのモットー。そして、2つ目は尊敬、卓越、友情というオリンピックの3つの価値。最後の3つ目は、オリンピックがロンドンにやってくるのがこれで3回目だということ。もちろん三角錐のトーチのかたちは、その3つのエピソードにインスパイアされたんだ」

オリンピックの歴史は、もちろんトーチのデザインにおける不可欠な要素である。だが、彼らはさらに一歩進んで、最新鋭のデザイン、エンジニアリングなど、いまのイギリスの持てる力のすべてをデザインのなかに取り込もうとした。

8000マイルを走り抜いたトーチ

数多くのエントリーから選ばれたバーバー オズガビーの聖火トーチはなにが卓越していたのか? それはデザインだけではなく、機能性はもとより、コスト面でも優れていたということだ。

「トーチは複雑な工業デザイン製品であり、丈夫さと安全性を確保するにはあらゆる技術が必要となる。さらに、今回は8000個のトーチを作る必要があった。大量生産に合わせて、コストも考えなければいけなかったんだ」

トーチはレーザーで溶接した2層のアルミニウムで作られている。全体に空けた8000個の穴。これは、聖火リレーをつなぐ8000人に及ぶランナーの数、そして、8000マイルという聖火リレーの距離をシンボル的にあらわしたものだ。合計6400万個分の穴空けを期日までに間に合わせるため、世界で一番早くレーザーカッティングできる機械を採用した。穴を開けることで、トーチはこれまでにないほど軽くなり、下は12歳から上は100歳までという幅広い年齢層のランナーの、だれもが持ちやすくかっただろう。

この“穴”の役割はほかにも挙げられる。8000個の穴は、トーチのなかで燃えさかる聖火の熱を外へ逃がすという機能性も兼ね備え、熱が持ち手に伝わるのを防ぐのだ。また、以前のトーチは空気穴が上部のすき間だけだったため、酸素が足らずランナーが走ると炎がすぐに消えてしまうという課題があった。今回は側面全体に穴を開けることによって、トーチ全体に空気の流れができたため、聖火は酸素をたっぷり供給されて燃え続けることができるのだ。この構造により、高地、強風、氷点下など、ランナーが直面することになるであろう、さまざまな厳しい状況に耐えられるようになった。

パーフェクトなデュオの創作過程

ハーバー氏とオズガビー氏は、イギリスの名門ロイヤル・カレッジ・オブ・アートの建築学科で出会った。初日からすぐに意気投合した2人は、1996年にハーバー・オズガビーを設立し、デザイン・デュオとして活動をスタート。以来、すべての作品を2人で手がけてきた。例外はひとつもないという。二人三脚でおこなう制作とは、「どんな感じ」なのだろう。

「すべてのプロジェクトを、2人で力を合わせてやっているんだ。どちらかが、ある特定の過程を担当するということもない。まずは、テーブルの両サイドに座って、これから手がけることになるプロジェクトについて率直に話し合うんだ。すると、どちらかがスケッチをはじめる。そして、もう1人はスケッチを反対側から眺めながら、ちがう視点を投げかける。そのやり取りをつづけるうちに、アイデアが形になっていくんだ。いつも意見が一致するわけじゃないけど、ふたつのちがう考えを持ってプロジェクトを進めることがぼくたちには性に合っているみたい。形になるころには、もともとどちらのアイデアだったのかわからないほどに、2人のすべてがそこに詰まっているんだ」

デザイナーとして、はじめて味わった最高の喜び

そんな彼らの16年のキャリアのハイライトといえるプロジェクトが、このオリンピック・トーチのデザインだ。デザイナーにとって、一番の喜びは自分のつくった作品が多くの人の目に触れることであろう。オリンピックは、スポーツ好きに限らず、世界中の人びとが注目するイベント。「人目に触れる」これ以上の機会はないだろう。バーバー氏とオズガビー氏も、一生に一度ともいえるこの時間を大いに楽しんだようだ

「ぼくたちがトーチをデザインするって決まったとき? それは最高の気分だったよ! 自国の代表としてなにかをデザインする──そんな一生に一度の機会が訪れたんだから。同時に、これまでに感じたことのないほどのプレッシャーを感じたよ。これほど人目に触れるシンボルをデザインするなんてはじめての経験だったから。だけど、制作に費やした18カ月を振り返ってみると、どの瞬間も充実していて、これほどやりがいを感じたプロジェクトはなかったとおもう」

巨大なビルから小型の電子機器まで、大小問わずさまざまなプロジェクトを手掛けてきたバーバー氏とオズガビー氏。かつてないほどモダンで機能的な聖火トーチを生み出したことで、世に名を知らしめた彼らが、今後どんなデザインを送り出すのか。デザイン界のみならず、世界中の人びとがかたずを飲んで見守っている。

           
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