2011 ミラノサローネ 最新リポート|川合将人のミラノサローネそぞろ歩き 後編
特集|ミラノサローネ国際家具見本市 2011
川合将人のミラノサローネそぞろ歩き 後編
インテリアスタイリスト&ジャーナリストとして活躍する川合将人がお届けしている、ミラノサローネ・レポート。
後編となる今回は、今年特に内容が充実していたオランダのデザイン学校 DESIGN ACADEMY EINDHOVENの
卒業生による展示を中心に、強く印象に残ったブランドやデザイナーの仕事をまとめて紹介する(前編はこちら)。
写真・文=川合将人
とくに目をひいた、オランダの「DESIGN ACADEMY EINDHOVEN」
50周年という記念すべき年を迎えた本年のサローネも、約1週間の期間中に例年どおり数多くの展示が開催された。
<エルメス>から家具を発表したエンツォ・マーリや、<メリタリア>で好き放題なデザインを発表しつづけるガエターノ・ペッシェなど、いわゆるイタリアの巨匠系も健在ではあったが、振り返ってみて一番強く記憶に残ったのが、市内の会場でおこなわれた「THIS WAY」と題されたDESIGN ACADEMY EINDHOVENの展示であった。
家具や照明、テーブルウェアにテキスタイル、映像作品など、卒業生による多種多様なアウトプットを体験させてもらったが、どれもコンセプトが明快であり、造形化されたモノとしての完成度も非常に高い。単純に形や見た目だけのあたらしさを提案しているものは少なく、使用する素材や製造方法のプロセス自体に斬新な観点や技術を取り入れているものが目立ち、見ていて勉強になった。
例を挙げるとすれば、ロッザンナ・オルランディーでも展示されていた、Dirk van der Kooijの椅子だ。素材となっているのはペレット状のリサイクルプラスチックを溶解させたもの。それを大きな黄色いロボットがプログラミングに従って絞り出し、何層にも重ねて形を作っていく。型を必要とせずに3次元の立体物を自由に成形できるラピッドプロトタイピングの技術を応用しているらしいが、完成した形状や色彩が何とも言えず、オブジェとしても魅力的であることに感動した。
また、前編で紹介したようなテキスタイルに焦点を当てたものも複数あったが、印象的だったのはMichelle Baggremanのデザインだ。使い古したプラスチック製のバッグに加工をほどこして織物にし、これまでにないあたらしいファブリックを作り出していた。チープなプラスチック素材を異なる特性をもった強度の高いファブリックに変身させる手法がすごい。
ほかにも、33個の鳥の巣を大きなプラモデルのような造形にまとめた《Bird City》と題されたEveline Visserのデザインなど、とにかく見所が多かった。会場内には実演販売さながらにスタッフがサンドウィッチなどの軽食を作って販売する特設キッチンや、それらを買って食べられるカフェや読書スペースなどもあり、来場者がリラックスしながら先端のデザインに触れられる環境が作られている点もよかった。
展示されていた個々のデザインは、すでに各国のギャラリーやメーカーから販売が決まっているものも多く、あらためてDESIGN ACADEMY EINDHOVENのレベルの高さを実感した年となった。
特集|ミラノサローネ国際家具見本市 2011
川合将人のミラノサローネそぞろ歩き 後編(2)
さてつづいては、活躍の目立った建築家やデザイナーと、近年の傾向として注目を集めている合板などのローコストな素材を使ったデザインを紹介しながら、今年のまとめを。
今年は合板も注目の素材
活躍の目立った存在として日本からは、建築家の長坂常を挙げたい。無垢の木材を使った天板表面にエポキシ樹脂を流し込んでフラットに仕上げたテーブルは、発表された会場ロッザーナ・オルランディで来場者の大きな感心を集めていた。また、<エスタブリッシュド&サンズ>に<フロス><マジス><リーン・ロゼ>など、各国の有名ブランドから軒並み新作を発表したロナン&エルワン・ブルレック兄弟や、キリムやスザンニなどの伝統的なテキスタイルをアレンジした椅子やソファを複数の会場で披露したBOKJAは、昨年に増して活躍していたように思う。
では締めくくりとして、近年話題の合板を使った家具を紹介したい。
昨年あたりから多く見られるようになった、合板などの安価な板材を使った家具であるが、<マジス>から複数の製品が発表されるなど、今年はさらに盛り沢山だった。とくにいいと思ったデザインは、スイスの若手デザイナー、コリン・シェーリーと、イタリアのブランドである<ダネーゼ>の新作であった。
コリン・シェーリーの家具は、日本でも発表されているので知っているひとも多いと思うが、デスクや棚の天板にメラミンやウォールナットの面材を貼ったあたらしい仕様が披露されており、選択の幅が広がっていた。
一方の<ダネーゼ>は、マタリ・クラッセやマーク・サドラー、フランチェスコ・ファシンが合板を使った新作を発表。とくに期待の新星、フランチェスコ・ファシンの椅子《STRATOS》は、カットした合板のみを組合わせた、これ以上ないくらいシンプルな造形の椅子であった。
ジャスパー・モリソンの出世作として知られるプライチェアを思い出したが、《STRATOS》のほうは木ネジなどの部品も使用しておらず、さらに少ない要素でまとめている。緩やかに曲線をもたせた背もたれや後ろ脚の構造には、卓越した木工造形に対する洞察とセンスが見てとれた。エンツォ・マーリのスタジオで働いていた経歴をもつ彼は、現在はミラノにある美術大学「NABA (Nuova Accademia di Belle Arti)」において「Projects, not objects」と呼ばれるコースの教授をしているとのことだ。
コリン・シェーリーやフランチェスコ・ファシンによる合板を主体にもちいた家具は、最小限の要素が造形の印象や構造の強度を左右するため、騙しの効かない素のデザインとして目に映る。だからこそ、デザイナーの個性がダイレクトに伝わるものとして自分にとっては興味が湧く対象なのだ。
50年目を迎え、イタリアの家具見本市という存在から、世界各国の最新技術が集い、あらゆるデザインにかんする情報が交錯する特異なイベントへと成長したミラノサローネ。今年一番の発見は、イタリア人のデザイナーであるフランチェスコ・ファシンがデザインした、たんなる合板で作られた一脚の椅子だった。