2011 ミラノサローネ 最新リポート|川合将人のミラノサローネそぞろ歩き 前編
特集|ミラノサローネ国際家具見本市 2011
川合将人のミラノサローネそぞろ歩き 前編
ミラノを舞台に家具やインテリア製品の新作が一挙に発表される、世界最大の家具見本市「ミラノサローネ」。インテリアスタイリスト&ジャーナリストとして活躍する川合将人が前後編の2部構成に分け、2011年のサローネで体感したことを、昨年に引きつづき独断と偏見を多分に織り交ぜながらリポートします。
写真・文=川合将人
テキスタイルに焦点をあてた展示が目白押し
まずは全体的な感想としてすぐに頭に浮かぶのが、椅子やソファの張り地、ラグやブランケットといったテキスタイルに特性をもたせたものだ。
「TALKING TAXTILES」と題したリー・エデルコートのキュレーションによるエキシビジョンが開催されていたこともあるが、家具に使用されるテキスタイルの見本を壁面にずらりと並べて見せるブランドが、とにかく多かった。
なかでも印象的だったのは、市内の<edra>のショールームで展示された、可動式の背もたれをもつフランチェスコ・ビンファーレのソファ《Sfatto》。ここでは、張り地に使用される生地見本を地下フロアの壁面を使って大量に見せてくれた。英国伝統のチェスターフィールドのソファを、これでもかといういくらいラフなフォルムに仕上げたような造形。不定形な背もたれや座面の感触は非常に柔らかく、どっしりというよりは軽快な座り心地を味わえたのが忘れられない。
そして注目なのが<eumenes>というあたらしいブランド。今年はパオラ・ナヴォーネと、ジャン-マリー・マソーの2人がデザインした椅子とテーブルを披露した。ナヴォーネの椅子《eu/phoria》は、クルマの内装などで使われるアルカンターラやショッピングバッグに使われるナイロンの生地をシェル型の座面に圧着したもので、カラーや柄のバリエーションも多く揃う。商業施設のカフェなどの内装仕事があればぜひとも納品してみたい椅子だ。
また、イギリスの<Established & Sons>発表の2つもテキスタイルに特化した新作として興味深かった。ひとつは、Klaus Haapaniemi & Mia Walleniusがデザインした円形のラグマット《Volcano》。火山が噴火し隕石が落下しているという、かなりインパクトのある風景が柄になったものだ。
そしてもうひとつは、コンスタンチン・グルチッチのアームソファ《Cape》。ソファ本体にケープを被せるように、付属のカバーを上掛けしている。季節に応じたカバーを選んで使えるというものだ。しかしこのデザイン、イタリアと日本の家具デザインに精通している人間なら、誰でも昨年に惜しくも他界されてしまった建築家の高濱和秀による名作ソファ《Mantilla》を思い出すことだろう。
コンセプトはほぼ同一だが、ステッチやパイピングの処理などをほどこし、よりカジュアルに現代っぽくアレンジされたものとして、グルチッチの《Cape》も充分に魅力的だ。
高濱和秀のデザインといえば、<Cassina>のライティング部門である<NEMO>のラインナップに、伸縮性のある生地をシェードに使った照明<KAZUKI>がくわわるなど、
テキスタイルブームに乗って世界的な再評価がされていることもつけくわえておきたい。
特集|ミラノサローネ国際家具見本市 2011
川合将人のミラノサローネそぞろ歩き 前編(2)
さてつづいては、活躍の目立った若手デザイナーと注目の素材であるセルロースを使ったデザインを紹介していきたい。
フレッシュな新素材と若手デザイナー
期待の若手デザイナーとしては、Rossana OrlandiとDILMOSという高い影響力をもつ2つの会場で作品を発表したイタリア出身の男性ユニット、Studio Formafantasmaがよかった。
Rossana Orlandiでは地下フロアで「BOTANICA」と題した展示をおこない、樹木や植物を主として生成されるプラスチック素材を組合わせて作った花瓶などを発表。一方のDILMOSでは、背もたれに藤で編んだリュックサックのようなカゴを背負わせた三本脚の木製椅子《DOMESTICA》を出品。2つとも天然素材を原料とした素材をもちいつつ、手工芸的なアプローチを織り交ぜて造形化している点に惹かれた。
そして今年もっとも琴線に触れたのが、繊維素材のセルロースを使ったデザインだ。ett la bennというデザインユニットが発表していた、<kami>というセルロースで作られた花瓶や照明のシリーズと、フランス創作家具振興会<VIA>の展示で見た、木材とセルロースを折衷させたエリーズ・ガブリエルというデザイナーの椅子やテーブルである。 どちらも溶解させたセルロースを成形し乾燥させて仕上げたもので、本体素材や部材として利用している。軽量でありながらも鉄のように非常に高い強度をもたせることができるのが特徴であり、適度なゆがみや凹凸のあるラフな質感も、自分にとっては強い魅力として感じられた。
植物や紙、農業廃棄物などのリサイクル原料からも作られるセルロース繊維は、生物分解性100パーセントのエコな素材として、さらにはデザイナーの創作意欲をかき立てる自由な造形を探求できる存在としても今後に期待がもてそうである。
さて、これで前編は終了。次回の後編では、今年もっとも内容が充実しており、見所満載だったオランダのDESIGN ACADEMY EINDHOVENの展示を軸に、単純に良いと思ったデザインをまとめてお届けする。