連載・Yoko Ueno Lewis|暮らしノート・第14回 「木と暮らす」
The Way We Live with “STYLE”
暮らしノート 第14回
「木と暮らす raw wood, slow life and less design」(1)
高知県四万十川流域に育つ四万十ひのきを素材としたデザインの仕事をして15年になります。アメリカやオーストラリア、スウェーデンやイタリアなどからも、メールで問い合わせがくるようになりました。
Text & Photographs by Yoko Ueno Lewis(Nov. 2013)
木に対するアプリシエーションと感性のレベルが上がった
現在、私が東京で仮住まいしている部屋は、環境ジャーナリストの箕輪弥生さん(http://gogreen.petit.cc/)
と環境建築家の黒岩哲彦氏とのプロジェクトで、部屋の内装が九州の総天然杉の床、北海道の珪藻土(けいそうど)の壁というしつらえです。
ひとも自然の一部ですから、壁や床や天井がナチュラルで“raw material”であることは、ストレスが軽減され、空気がかさつかず、落ち着いた雰囲気が生まれます。
Berkeleyの家は白いペイントの壁とメイプルの床ですが、この珪藻土の壁は呼吸作用のような調湿機能があり、余分な水分や光を吸収してくれて、より自然に近い簡素で淡白な空間を創り出してくれるような気がします。
床全体に使われている杉の無垢板は素足専用とまで言えるほど、その天然の調湿機能で、夏涼しく冬暖かい感触で、同時にショックを吸収します。何よりもその香りが、部屋全体にアロマセラピー効果をもたらしてくれます。
アメリカ人が見たら、「茶室」のようだと言うかもしれません。この環境に暮らしはじめてから、木に対するアプリシエーションと感性のレベルが上がったように感じます。
光がよく回るほど、色彩は鮮度を増してくれる
Raw wood, raw light――できるだけ塗装をしない、そのままの表情でいるヒノキやブナやメイプルなど、色の浅い明るい木に惹かれます。色が浅いといっても、もちろん表情は豊かで、それでいて簡素で、光の回り込みが明るく、インテリアの世界観で見た場合、自然な色の明暗や彩度がより鮮明に浮き出します。部屋にたくさんの色を配置する場合は、明るい木で作られた環境の方が、色そのものが映えるように思います。冬の長い北欧で、白木の家具や、ヴィヴィッドなカラーのテキスタイルがインテリア表現の象徴的なコンセプトとなるのは、おそらくその光回りの理由ではないかと思います。光がよく回るほど、色彩は鮮度を増してくれるからだと思います。
この部屋で、木のツールや椅子を撮ってみました。木と自然光“Raw wood & raw light”、それだけで生まれる陰翳の表情は、光の差す時間帯にも左右されますが、粒子まで写し込むようなカメラのレンズを通すと、さらに風景はドラマタイズされて見えてくるようです。
インテリアの世界的な流行として、壁も天井も床も生の木でできた空間が注目されています。単一のマテリアルで抽象化された空間は、木自体の存在感と同時に、そこに配置されたモノの存在をもよりドラマティカルに見せてくれるようです。切り取られた窓の風景や空、差し込んで泳ぐ自然光の行方……すべてが予期せぬ音楽のように響き合います。
以下、お部屋のインフォメーションです。
設計は黒岩哲彦さん(アルキテクタ主宰)です。
http://homepage2.nifty.com/architecta/index.html
http://architecta.blog64.fc2.com/
床材として使用されている杉は九州・宮崎の無垢板、壁と天井に使われている珪藻土はMPパウダーです。左官屋さんのツールを使う壁塗りは少し練習すると子どもでも楽しめるプロジェクトになります。
http://www.passiveatelier.com/pasv/muku.html
珪藻土MPパウダーの原料のメソポア珪藻土は、調湿機能に非常に優れた珪藻土で、北海道で採掘されています。
http://www.minnano-tane.net/
部屋の電磁波防止
http://www.passiveatelier.com/pasv/denjiha.html
すべて株式会社レジナがプロデュースするオールアース住宅の仕様です。
http://www.all-earth.net/basic/materials.html
同様のコンセプトで、環境ジャーナリストの箕輪弥生さんのプロデュース、建築家の黒岩哲彦氏の設計監督によるオーガニックカフェ「フロマエcafé&ギャラリー」(http://furomae.jimdo.com/)もオープンしました(真向かいが昭和のお風呂屋さんです)。
環境面、健康面、精神面、ソーシャルネットワーキングなど多種多様なストレス社会で暮らしていくなかで、少しでも快適な空間を探している方には、強くお薦めしたいトータルパッケージです。
The Way We Live with “STYLE”
暮らしノート 第14回
「木と暮らす raw wood, slow life and less design」(2)
飾らない日常使いをゴールとするデザインとクラフトマンシップ
被写体の説明をします。
木のランプは3年越しにラブコールを送った末、storynorth(UK)から購入しました。木の素材感はもちろん、ネジやボルトナットでジョイントされているデザインはLow techの形をとることで、逆説的に洗練されたエレガンスを生み出しています。スウェーデンのデザイナー、TAFのメンバー Mattias Ståhlbomの作品です。
メイプルの塊からカービングされた水鳥のフォルムは、超人的な感性をもつロナンとエルワン・ブルレック(Ronan & Erwa Bourowllec)兄弟の作品、スイスの「vitra」が扱っています。
そのオーガニックでミニマルなフォルムはもとより、手の平で包み込むと、無垢材独特のさわさわとした乾いたぬくもりが伝わってくる、やさしい静かなオブジェです。
ラビットのオーナメントはビーチ(ぶな)とオーク(樫)でできた愛らしさのかたまりです。ボディのパーツを上下逆さまにして遊ぶことができます。ハンギングのための革ひも付きです。デンマークのデザインファームOYOYの仕事で、コンセプトはスキャンディナビアとジャパンの感性の融合とされています。美しい木の肌の表情と本来の素材の色だけがシンプルに語りかけるぬくもりは、いつまでもあきない深い魅力を放ってくれます。
北欧のトーイやオブジェの魅力は、わずかに手先をゆるめたような余裕があり、突き詰め過ぎない素材との距離が保たれているような気がします。とくに素材が木の場合は、飾らない日常使いをゴールとするデザインとクラフトマンシップが、より素材の宇宙を語ってくれるように感じます。
良い椅子があると、良いスペースが生まれ、良い時間を過ごせる
ハウス型のツールボックス(大小)、エッジにこだわったカッティングボード(2種)と、ハウス型のカッティングボードとハブラシスタンド(または箸立て)とペーパーナイフ、6つのサークルを削り込んだトレー(いずれもヒノキ)は最近の自作です。
ふたつの椅子はあまりにも有名な、ハンス・ウェグナー(Hans Wegner)のWishbone Chair (Yチェア・1944年)とダイニングチェア(CH33P ・1957年)です。どちらもソープフィニッシュです。ソープを使って木の表面を丹念に仕上げることで、ソープの油分を残しながら、塗装による膜を作らないため、木の感触や質感が自然な状態で保たれているデリケートな仕上がりです(Carl Hansen & Son社より)。座り心地は意外にもダイニングチェアの方がいいように感じます。背もたれの勢いのある洗練されたカーブとホワン・ミロを思わせるユーモラスなコンポジション、その絶妙なバランスは天才デザイナーの時代を超えた永遠のEthosを伝えてくれます。
良い椅子があると、良いスペースが生まれ、良い時間を過ごせる気持ちになります。
デザイン&プランニング
Yoko Ueno Lewis(ヨウコ・ウエノ・ルイス)
ウェブ&ブログ|www.yokoueno.com
http://lookslikegooddesign.com/wooden-products-by-yoko-ueno-lewis/
オンラインショッピング|http://kaunis.jp/handle_uenoyokolewis.php